IT@RIETI

no.40: 著作物の利用を促進するための制度の形とは?

真紀奈 ヴァーチャルネット法律娘

アメリカ映画協会(MPAA)のバレンティ会長は、レッシグ教授との対談の際に次のような主張をしていました。

「ミッキーマウスの著作権を千年間に延長したとして、それがなぜ、文化の進歩を抑圧することになるんですか。」

ミッキーマウスだけ、そしてデッドコピーについてのみ権利を保障するというのであれば、実はそんなに影響はないのかもしれません。ミッキーマウスが千年守られようと、使えないのはそのキャラクターだけで、似たような別の名前のキャラクターを使うことができるのであればですけど。もしくは、似たようなキャラクターを使う際の交渉窓口がしっかりしていて利用料等も適切であればOK、という考えもありますね。
けれど、著作権法を改正して保護を強化するということになると色々と問題がでてきます。

インターネットによって爆発的に増えた著作物と、著作権の問題

Webが広まってから、真紀奈達は自分の著作物を世界に向けて簡単に発信できるようになりました。著作権制度というものは、幼児の落書きのようなものも含めてほとんど全ての作品に創作と同時に保護を与えるわけですから、膨大な数の著作物がWebを中心とした世界に溢れるようになったわけです。

そして、著作権制度ではデッドコピーだけではなくて派生物や、元の著作物に似た著作物まで保護されていて、全ての著作物について同様の強力な保護が与えられます。

このような状況で著作権の保護期間を延ばしたりすると、全ての著作物の保護が拡大されてしまいます。ミッキーマウスの特定の作品そのものだけではなくて、絵が似ていたり、設定・ストーリーが似ていたりする作品までもまとめて使用出来なくなるわけですから、一つの作品が広い範囲を使えなくしてしまうわけです。そしてWeb時代の膨大な著作物それぞれについても同様に保護されます。

著作権法では、先行する著作物のことを知らなければ似たような作品をつくっても問題ないとされていますけど、これは個人で創作する人間にとってあまり有利には働きません。裁判では後発の著作者が先行する著作物を知っていたかどうかということについて、先行する著作物が知られているものかどうかということ――例えばCMで使われていたとか全国紙に載っていたとか――や、どの程度似ているか――旋律の何割が同じかとか――から判断しがちですので、特に知られているかどうかという部分ではどうしても大企業に有利に働いてしまいます。

そして、それぞれの著作物が千年の間守られるとしたら、創作の余地なんてほとんど無くなってしまうでしょう。もともと著作物は過去の著作物を元にして発展してきたわけですけど、その元にする著作物がなかなか使えるようにならないわけですから。

著作物の利用促進につながる制度の提案

それでは、著作権制度というものをどのように変えたら使いやすくなるのかということについてちょっと書いてみたいと思います。これは去年の末にRIETIの知財研究会で経済産業省メディアコンテンツ課(当時)の境真良さんが提案した上乗せ型著作権制度(現行著作権制度についてはいじらず、これに上乗せする形で特別法を作り、それによって権利の保護と、著作物の利用促進のバランスを取ろうという案)をベースに、真紀奈の提案を加えてみたものです。

ここで提案するのは、似たような著作物をつくっても問題になりにくく、かつ派生物もつくりやすくし、その上で権利者にもメリットになるようなというコンセプトの制度です。また、これは根本的な解決策というわけではなく、現行の制度にあまり干渉しない範囲での妥協策といった方がいいものです。

上でも書きましたけど現在のところ著作物の類似性を問われる際には、後発の著作物を制作した人が先行する著作物のことを知っていたかどうかということが条件になっています。そしてそのこと自体は後発の著作物の著作者にしかわからないことですから、後発の著作者の意見を聞きつつも、先行する著作物が有名かどうか、どの程度似ているかということを総合的に考慮して判断することが多いです。

そこで、まずこの点について基本的に先行する著作物のことを後発の著作者は知らないものとみなすように変更します。つまり、類似した著作物がつくられても、それは独立した著作物として保護されるようにするわけです。

そして新しく著作物の登録・更新制度をつくります。これは登録後5年ごとに更新がなされて更新回数の制限はないものとします。登録料と更新料は一定額がかかり、従来の保護期間を超えて更新しようとすると更新料が高くなります。(登録料と更新料は著作物データベースの作成や維持、そして文化の発展のために使われます。また登録制度は現行の著作権制度にもありますけど、現行の著作権制度の枠外に置きたいため新しいものを提案しています)

この登録を行うと、先行する著作物は後発の著作物に対して権利を主張できるようにします。その代わり、第三者から著作物の利用を求められた場合、その改変が著作者の名誉を毀損するような物である場合や著作物のイメージを崩す場合等を除いて、かならず利用に応じなければならず、適切な利用料を得ることだけが主張出来ることになります。

最後に、登録された著作物について不正使用が行われた場合、デッドコピーやそれに準じるものについては非親告罪(侵害された人間が訴えでなくても警察が捜査出来るという罪)にします。さらに登録されているものを勝手に利用しているということから身体刑(懲役とか禁固とか)をより科すことをしやすくします。

これで、登録されている作品の侵害はなかなか行われないようになると思います。

こうなると、登録しなかった著作物はどうなるんだという話がでてくると思います。このような著作物についても著作権自体は保護されます。ただし、デッドコピーや著作物の一部を利用している場合などについてのみ保護される形にし、それ以上の保護を望むなら、登録してくださいということにするわけです。また、派生物については著作者の名誉を毀損している場合を除いて、著作者に一定額の補償金を払うか、著作者不明の時は補償金を供託すれば制作を可能にします。

登録している著作物は、あまり長く登録していると登録料ばかりかかってむしろ損になりますから、登録からはずしてデッドコピー保護に移行させることになるでしょう。そうなることで、その作品に似た作品をつくる余地が空くことになります。

この結果として著作物は、権利はとても強力だけど交渉窓口があって適切な額を払えば使うことができる著作物と、デッドコピー等だけが禁止されている交渉相手等がつかみにくいかもしれない著作物の2種類にわかれます。後者の著作物については似た作品を拒絶しないのですからそのような作品をつくってだすことは可能なわけですし、補償金という制度もあるので利用は前者と同等以上にしやすくなるでしょう。

この制度では、侵害に対する対処と保護期間の延長可能性が登録者の得られるメリットということになります。そして利用者にとっては、登録されている著作物については登録者が窓口を用意してくれるため利用しやすくなるということ、登録されていないものについては利用の範囲が現在よりも拡大することがメリットになります。

この程度の変更で有れば、著作権を定めている国際条約に触れずに対応できないかな、と思っています。登録・更新料しだいですけど、登録をすれば権利が守られるというのであれば権利団体としても受け入れられるのではないかと思いますし。

ちなみに、この際に著作権法を現行のままにしておくというのは、あまりいい手ではないように思います。そうすると結局登録からはずれてもかなりの範囲が保護されてしまい、交渉窓口のない使用できない範囲がいつまでも残ってしまいますから......。今の著作権制度にそのまま強力な権利を付与したりしていくよりはよいのですけど、あんまり解決にはつながらないように思います。

現行著作権法変更後登録した著作物
デッドコピー要許諾要許諾要許諾
狭義の派生(※a)要許諾補償金(※c, ※d)利用料(※d,※e)
広義の派生(※b)
保護期間死後50年死後50年延長可能
複製・狭義の派生の罪親告罪親告罪非親告罪
広義の派生の罪親告罪
  • ※a:原作品の一部がそのままの形で使われて派生が行われているもので、一般的にいう二次著作物のことです。
  • ※b:原作品をそのまま使用しているというわけではないけれど似通っているもののことです。
    判断は今までの判例に準拠で、記念樹裁判(最判平成15年3月11日)などがあります。
  • ※c:一定の補償金が定められ、それを支払うか供託すれば利用可能にします。
  • ※d:著作者の名誉を毀損する形での利用は禁止とします。
  • ※e:交渉窓口で利用料の相談を行い、適切な額を支払えば利用可能にします。

根本的な解決策を求めて

上でも書きましたが、これは根本的な解決策というわけではありません。インターネット時代にあわせた形にするのであれば、デッドコピーやデジタル素材をそのまま利用して行う改変を許してはじめて、創作活動が活発に行われるようになるのではないでしょうか。ただし、そのためには今までの制度そのものを根本からいじらないといけなくなるでしょう。一朝一夕にはできないと思います。

レッシグ教授が進めているクリエイティブ・コモンズのように、デジタル著作物の共有地を拡大していき、そしてその中からヒット作を産み出していくことでデジタル時代の著作権のありかたを示していく方が、時間はかかるけれども確実な道かもしれません。クリエイティブ・コモンズでは新しい創作の形を求めて多くのやり方を試そうとしているので、その中から有望なシステムが生まれてくるかもしれません。

全く新しい制度の構築や法の改正には時間がかかりますから、まずは真紀奈が提案したような制度に移行して著作物の利用を促進させ、それと同時にクリエイティブ・コモンズのようなプロジェクト(※1)を通じて利用できるコンテンツを増やしていくこと、インターネット時代にあった新しい制度を創り出すことを行ってはどうかと考えています。

権利の保護を行いつつ創作を活発に行えるようにするのであれば、このような方法が適しているのではないかと思っているのですけど、どうでしょうか。

2004年1月14日

This work is licensed under a Creative Commons License.

脚注
  1. 真紀奈が提案しているCommunitas ex Machinaというプロジェクトもその1つです。これは著作物のデッドコピーについては禁止するが、二次創作については条件付きで自由にやってもかまわないということを、著作者が許諾していこうというものです。

2004年1月14日掲載

この著者の記事