IT@RIETI

no.46: 特別企画:著作権法改正についての論点整理(その1)

真紀奈
ヴァーチャルネット法律娘

文化審議会著作権分科会報告書(以降分科会報告書)が提出され、今年の著作権法改正に関する議論も盛り上がってきています。ここで今回の改正に関する論点をまとめておいた方が今後の議論にも役立つだろうということで、少し書いておこうと思います。

今回の改正については「輸入権」に一番関心が集まっているようです。けれど実際にはそれだけではなく、輸入権も含めて大きく分けて3つの改正点があげられているんですね。

2月16日の共同通信の記事から今回の改正の骨子について引用しておきましょう。骨子は以下の通りです。

  1. 音楽CDの逆輸入による国内販売への影響を防ぐため、一定期間の還流防止措置
  2. 書籍・雑誌が無断でレンタルされないよう映画ビデオなどと同様、レンタル業者に著作権料を請求できる貸与権を著作権者に与える
  3. 著作権侵害に対する罰則規定を強化--が柱。文化庁は同法改正案を今国会に提出し、2005年1月からの施行を目指す。

まず、(2)の「書籍に関する貸与権」について解説することにします。この貸与権という権利は、「著作物を貸与により公衆に提供することを独占する権利」です。簡単に言えばこの権利があることによって、著作物を購入した人は著作権者の許可無しには他人にその著作物を貸すことができないということです。あ、ただし著作物が映画の著作物ではなくて、さらに非営利目的かつ対価をとっていない場合は貸与も認められています。つまり、個人間での貸与は禁止されないけれど、レンタルCD等の事業は著作権者の許可が必要になるというくらいに考えておいてください。

さてこの貸与権ですけど、著作権法附則4条の2というものによって、書籍や雑誌については今まで適用されてきませんでした。これはこの権利ができる以前から貸本業などが成立していたことと、これらの業種が著作者や出版社等に与える影響がそんなに大きくないと考えられていたなどの理由からです。しかし、最近ではレンタルコミック事業の拡大などによって出版社、著作者等の経済的利益に影響を与えかねない状況になってきたということから、改正の話が出てきたんですね。まあ、書籍や雑誌だけが他の著作物に比べて権利を制限されていたわけですから、著作権者が他の著作物と同様の保護を求めるのも当然なのかも知れません。

では今回の改正案で具体的に何を変更するかということですが、この附則4条の2を廃止するということが考えられているようです。これが行われると、「貸与権」が書籍や雑誌の著作権者に与えられ、彼らは営利目的での書籍や雑誌のレンタルについて独占権を得ることになります。

そう、貸与権についての説明を読めばわかってもらえるかと思いますけど、この権利、「レンタル業者に著作権料を請求できる」だけの権利じゃないんですね。レンタル業者に対して貸与を禁止することも可能な権利なんです。分科会報告書や真紀奈のところに入っている情報では著作権料を徴収可能にするという形ではなくて、上で書いたように附則4条の2を廃止するということですから、今回の改正によってレンタルが不可能になる書籍等もでてきかねないわけです。

またもう一つの問題点としては、今のところ著作権はたいていの場合作家が保持しているために、統一して許可を得ることができないということがあります。音楽のようにJASRAC等がほとんど全部を管理しているのとは違って、許諾を取ったり著作権料を支払ったりということが煩雑になる可能性があるわけです。一応、「出版物貸与権管理センター(仮称)」というものを作って管理体制を作るという話も案としてでていますので、それが成立すればある程度スムーズに動くのかも知れませんが......一切の貸与禁止を言い出す方がいればその方の書籍をレンタル店に出せなくなる点は変わらないでしょう。

あと、そもそもレンタルコミック業によって著作者の経済的利益に影響を与えるのかどうかという点についての論点もありますね。これについてはコミックレンタル有志の会の意見書添付資料)が参考になるかと思います。

ちなみに、今回の改正案で対象となるのは貸本屋やレンタルコミック屋等の営利目的でのレンタル業です。図書館の貸出についても著作権料を徴収できるようにするべきだという意見がありますけど、これはまた別の公貸権という権利に関する論点になります。まあ、今回の改正事項にはないとはいえ議論は行われていて、次回次々回にはあがってくるかもしれませんが......。

次に(3)の罰則規定の強化についてです。これについては、2004年1月14日の文化審議会著作権分科会議事録分科会報告書で述べられていまして、罰金刑・懲役刑の上限引き上げと、罰金刑と懲役刑の併科を可能にすることの2点がその内容になるようです。

まず、罰金刑と懲役刑については特許法や商標法と同程度とのことですので、懲役については3年以下のところを5年以下に、罰金については個人へのものを300万円以下のところ500万円以下に、法人へのものを1億円以下のところ1億5000万円以下に引き上げるものと思われます。

そして、刑罰の併科についてですけど、今までは著作権侵害については懲役刑か罰金刑のどちらかしか科すことができませんでした。それについて、重大な侵害の際などにどちらも科すことができるようにするというわけです。これは他の知的財産法(商標法・特許法など)では認められていませんので、著作権の方が他の知的財産よりも厳しく守られるということになるのですが、これについてもそこまで厳しくする必要性があるのかということを考える必要はあるでしょうね。現在のところ、侵害が多いので厳罰化は当然となっているみたいですけど、それで解決するのかというとどうも違うように真紀奈は思っています......。

さて、とりあえず今回はここまでにします。輸入権については次回ということで。

あと、真紀奈のところにはメディア等で報道されたり、ネットで公開されていたりする程度の情報しかありません。間違っている部分もあるかも知れませんので、見つけた方はmachina17[at-mark]nifty.comに連絡お願いします。また、わからない部分がありましたらメールをいただければ、次回に反映できる分は反映させたいと思います。

2004年2月25日

This work is licensed under a Creative Commons License.

2004年2月25日掲載

この著者の記事