(2009年6月18日現在)
他国に例を見ない急激な少子高齢化の中で、我が国の経済活力を維持していくため、経済構造改革推進のための方策、女性、高齢者、若者などの労働力参加率の上昇、労働と資本の生産性の向上、最適な世代間、世代内の給付・負担のバランスを確保する社会保障制度のあり方、効果的な財政政策と財政均衡の回復のあり方に関する多面的かつ統合的な研究を行う。
1. 少子高齢化のもとでの経済成長
活動期間:2007年9月1日〜2009年12月31日
プロジェクトリーダー
サブリーダー
プロジェクト概要
少子高齢化のもとで我が国の経済活力を維持していくためには、生産性の向上や技術進歩などに関する統合的な研究が必要である。本プロジェクトは、そうした政策課題を強く認識しながら、さまざまな角度から経済成長のメカニズムの解明を図ろうとするものである。経済成長にかかわる既存研究が多分に全要素生産性(TFP)中心であったのに対して、本プロジェクトにおいては、試行的な研究や周縁的な研究まで含めて広範なテーマを取り扱う。とりわけ、従来から実証研究の乏しいプロダクト・イノベーションの役割についても研究を行う。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
- "Productivity Dispersion: Facts, Theory, and Implications" (AOYAMA Hideaki, YOSHIKAWA Hiroshi, IYETOMI Hiroshi and FUJIWARA Yoshi)
- "Corporate Investment and Uncertainty: An empirical analysis" (SHINADA Naoki)
- "Industrial Development, Firm Dynamics and Patterns of Productivity Growth: The Case of the Cotton-spinning Industry in Prewar Japan, 1894-1924" (OKAZAKI Tetsuji)
- 「農地の転用期待が稲作の経営規模および生産性に与える影響」 (齋藤 経史、大橋 弘)
- 「90年代における稼働率の低下とTFP」 (宮澤 健介)
- 「流通業における規制緩和の効果:少子高齢化社会へのインプリケーション」 (宇南山 卓、慶田 昌之)
- 「なぜ大都市圏の女性労働力率は低いのか−現状と課題の再検討−」 (橋本 由紀、宮川 修子)
2. 新しいマクロ経済モデルの構築および経済危機における政策のあり方
活動期間:2007年7月1日〜
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
グローバルな金融危機におけるマクロ経済政策のあり方を分析するため、金融システムや資産担保貸出など、金融問題を明示的に取り入れた定量的景気循環モデル(マクロ経済モデル)を構築する。そのモデルを使ったシミュレーションなどを行うことによって、マクロ経済政策の政策評価に役立てることを研究目標とする。さらに、理論構築の新たな試みとして、サーチ・モデルや不完備市場のあるモデルを使って、マクロ安定化政策の効果を分析する新しい一般均衡モデルの構築を行う。さらに、2005年度から発展させているBusiness Cycle Accounting(BCA)について、分析手法の限界とその克服方法などについて研究を深め、実用性を高めていく。また、金融産業主導のアメリカ経済が「最終的な消費者」として世界経済を牽引するという冷戦後の成長パターンが崩れ、今後、グローバルな経済運営が、現実にも、理念的にも、大きく変化することが予想される。これからのグローバルな成長構造のあり方、その中での東アジア地域の役割、さらに日本の経済構造や産業構造がどのような方向に進むべきか、という問題について、幅広く調査し研究を進めたい。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
- "Monetization of Public Goods Provision: A possible solution for the free-rider problem" (KOBAYASHI Keiichiro and NAKAJIMA Tomoyuki)
- "Nominal Rigidities, News-Driven Business Cycles, and Monetary Policy" (KOBAYASHI Keiichiro and NUTAHARA Kengo)
- "On Equivalence Results in Business Cycle Accounting" (NUTAHARA Kengo and INABA Masaru)
RIETIポリシーディスカッションペーパー
CEPR-RIETI ワークショップ
3. ITと生産性に関する実証分析
活動期間:2008年5月13日〜2009年6月30日
プロジェクトリーダー
サブリーダー
プロジェクト概要
少子高齢化社会において経済的な活力を維持するためには、生産性主導の経済成長を実現することが必要である。そのためにはまずTFPの決定要因について実証分析を行うことが重要である。ここではITイノベーションをTFPの決定要因の中心的なファクターとしてとらえ、米国やアジア諸国との国際比較もスコープに入れた実証分析を行う。90年代後半以降、日本企業は積極的にIT投資を行っているのにもかかわらず、その生産性に対する効果は限定的であるといわれている。ITは幅広い産業において活用され、特に非製造業におけるビジネスイノベーションを実現するための重要な補完的技術である。従って、ITの有効な利活用を進めることは、マクロレベルでみたTFPの動向にも大きな影響を及ぼすものと考えられる。ここでは、マクロレベルで見たITと生産性の関係をITセクターにおけるイノベーションとITを活用することによる生産性上昇に分けて、それぞれについて実証的な研究を行う。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
- "IT, R&D and Productivity of Chinese Manufacturing Firms" (MOTOHASHI Kazuyuki and YUAN Yuan)
- "Technology Spillovers from Multinationals to Local Firms: Evidence from Automobile and Electronics Firms in China" (MOTOHASHI Kazuyuki and YUAN Yuan)
- "How Does FDI in East Asia Affect Performance at Home?: Evidence from Electrical Machinery Manufacturing Firms" (MATSUURA Toshiyuki, MOTOHASHI Kazuyuki and HAYAKAWA Kazunobu)
- "Impact of the Debt Ratio on Firm Investment: A case study of listed companies in China" (YUAN Yuan and MOTOHASHI Kazuyuki)
- 「ソフトウェア産業の重層的下請構造:イノベーションと生産性に関する実証分析」 (峰滝 和典、元橋 一之)
- 「東アジアへの対外直接投資が国内の自国企業の生産性に与える影響―電機機械産業の企業ミクロデータを用いた実証分析−」 (松浦 寿幸、元橋 一之、早川 和伸)
OECD-METI-RIETI カンファレンス
4. 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学
活動期間:2009年2月24日〜2010年3月31日
プロジェクトリーダー
サブリーダー
プロジェクト概要
世界的に例を見ない高齢化のスピードを経験する中で、高齢者の生活の質を落とすことなく、持続的な社会保障システムを構築することが不可欠である。このプロジェクトでは、これまでの医療・介護・年金ごとの分野別アプローチやマクロモデルを使ったシミュレーション分析の限界を超え、高齢者の多様性を前提にしたミクロ的かつ包括的な市場指向型の「新しい」アプローチを実現する。既に実施したパイロット調査や同様の高齢者調査(HRS/ELSA/SHARE)の知的支援も十分に踏まえ、「世界標準」の中高年者パネル調査を開始する。健康状態、経済状況、家族関係、就業状況、社会参加といった多面的でかつ国際的に比較可能なデータ収集を行い、豊富なミクロデータを踏まえた“Evidence-Based Policy Making”を日本の社会保障政策分野で確立するとともに、日本の経験を踏まえて諸外国の政策立案にも貢献する。
5. イディオシンクラティック・リスクと経済変動
活動期間:2007年5月18日〜2008年6月30日
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
経済におけるリスクには2種類ある。経済全体のリスク(Aggregate Risk)と、個々の経済主体の直面するリスク(Idiosyncratic Risk)である。完全な金融市場の下では、Idiosyncratic Riskは完全に保険することができるので問題とはならないが、不完全な金融市場のもとでは、マクロ経済政策を考える上で重要なファクターとなる。いわゆる「格差問題」も、金融市場の不完全性の下でIdiosyncratic Riskのもたらす問題の一つとみなすことができる。そのようなIdiosyncratic Riskが存在する場合の望ましいマクロ経済政策について理論的・数量的に分析することが本プロジェクトの課題である。
6. ワーク・ライフ・バランス施策の国際比較と日本企業における課題の検討
活動期間:2008年6月18日〜2011年3月31日
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
本研究は、わが国でワーク・ライフ・バランス(WLB)社会を実現するにあたっては企業の役割が重要であることに鑑み、企業がWLB施策を導入・運用する上での課題を整理し、必要な方策を検討することを目的とする。具体的には、1)企業のWLB施策導入にあたっての費用・便益構造の分析、2)WLB施策を展開する上で企業が直面する運用上の課題等の把握と対応策の検討、3)WLB施策が職場レベルで定着し従業員の仕事と生活の調和が図れるような取組が進むための課題等の把握と対応策の検討、を行う。研究にあたっては、諸外国の制度、施策を参照しつつ、企業・職場を対象とするアンケート調査、ヒアリング調査を行い、実証的に現状を分析・評価した上で、課題の抽出を行い、必要な提言に結びつけることとしたい。
7. 非完備市場における安定化政策
活動期間:2008年9月29日〜2009年9月30日
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
グローバルな金融危機と同時に、日本をはじめ各国で労働所得格差の拡大が進行している。格差問題については、労働制度の問題も重要であるが、マクロ経済学的な視点からは「市場の非完備性」が格差拡大の大きな要因になっていると考えることも出来る。ここでは、市場の非完備性が(労働市場の非効率などを通じて)景気全体にどのような影響を与えているのかを考察し、市場の非完備性があるときには、マクロ経済政策(安定化政策)の効果がこれまで考えられていたよりも大きくなる可能性を考察する。
8. 持続可能な公的年金制度構築の為のマクロ経済・財政シミュレーション分析
活動期間:2008年度4月8日〜
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
2004年の年金制度改正を経た現在でも、公的年金制度の持続可能性に対する国民の疑念は払拭されておらず、医療・介護といった、年金以外の社会保障制度に対する国民の信頼も、一向に回復の兆しを見せていない。これは、ひとつには厚生労働省が行う年金財政シミュレーションを中心とする社会保障財政の見通しに対する国民の信頼が回復していないことが影響していると思われる。特に、厚労省予測の追試や様々な想定変更に基づく追試などの可能性が限られていることが、国民の制度に対する不信を増大させている。そこで本研究は、プロジェクトリーダーが開発した年金財政シミュレーション・モデル(RIETIモデル)の拡張を中心として次の3点に関する知見を得ることを目的に据える。
1)一般均衡論的見地から見て整合性のとれた前提に基づく年金財政シミュレーション分析
2)個票データを用いた基礎率の推定を行った上での年金制度統合一元化案の再評価
3)年金財政と医療・介護財政の超長期的見通しに関するシミュレーション・モデルの開発
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
ドメインIの研究成果で2008年度研究プロジェクトに属さないもの
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
出版物