他国に例を見ない急激な少子高齢化の中で、我が国の経済活力を維持していくため、経済構造改革推進のための方策、女性、高齢者、若者などの労働力参加率の上昇、労働と資本の生産性の向上、最適な世代間、世代内の給付・負担のバランスを確保する社会保障制度のあり方、効果的な財政政策と財政均衡の回復のあり方に関する多面的かつ統合的な研究を行う。
1. 少子高齢化のもとでの経済成長
プロジェクトリーダー
サブリーダー
概要
日本経済は長期不況を脱し、新たな拡大局面を歩み始めた。しかしながら中長期を展望すると、今後の道のりは高齢化や人口減少を伴うものであり、日本経済が近代に経験したことの無い新しい成長パスとなるため、これまでとは異なる知見や政策が必要となる。
このような状況に鑑み、本研究では少子高齢化のもとでの経済成長に重大な影響を与える要因について分析を行う。具体的には、イノベーションのミクロ的構造、技術進歩が設備投資に与える影響、土地制度と農業生産性、労働力の流動化が経済成長に与える影響、女子労働力率の決定要因等である。
さらに、上記テーマから派生するMeasurementにかかる基礎的研究についても取り組む(稼働率指数やサービスデフレータの再検討等)。本研究は上記の研究を通じて、今後の成長戦略に必要とされる知見や政策的インプリケーションを得ることを目標としている。
2. 新しいマクロ経済モデルの構築−金融的観点を中心に
プロジェクトリーダー
概要
日本経済が直面するマクロ経済運営上の課題を分析するために、より現実的なマクロ経済モデルを構築する必要がある。現在、学界で多用されているマクロモデルは、粘着的価格や消費についての習慣性の仮定から、現実のデータを説明しようとする考え方を採用している。
本研究では、運転資本に対する借り入れ制約(土地担保による)などの金融的な問題を中心に据えて、マクロ経済データを説明する理論モデルの構築を進める。また、銀行の自己資本の増減と経済全体の生産性の関係についても、理論と実証の両面から分析を行う。
さらに、これらのテーマから派生するテーマ(中長期の景気波動の特徴、戦争のようなCrisisを想定した場合のRamsey tax問題など)についても分析を行う。分析手法は、主に理論研究が中心となるが、(1)理論モデルの構築、(2)データを使った実証研究、(3)文献調査等による事例研究などを必要に応じて使う。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
3. ITと生産性に関する実証分析
プロジェクトリーダー
概要
90年代後半以降、日本企業は積極的にIT投資を行っているにもかかわらず、その生産性に対する効果は限定的であるといわれている。ITは幅広い産業において活用され、特に非製造業におけるビジネスイノベーションを実現するための重要な補完的技術である。従って、ITの有効な利活用を進めることは、マクロレベルでみた全要素生産性の動向にも大きな影響を及ぼすものと考えられる。
本研究では、米国やアジア諸国と比較して、日本企業においてITの利活用が効果的に行われているかどうか、行われていない場合の原因は何か、また、今後ITの有効活用を進めていくための政策的手段としてはどのようなものが考えられるか、という問に対し、国際的な視点も入れたマクロ、ミクロの両面からの実証分析を総合的に行う。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
4. 少子化対策の経済分析
プロジェクトリーダー
概要
わが国においては、諸外国で例をみない急速なスピードで少子高齢化が進んでおり、確実に労働力不足の時代を迎えると言われている。労働力不足を補うための政策としては、女性労働力を現在以上に活用することが求められている。しかし、その一方で、女性の就業率の向上は、出生率のさらなる低下を招き、人口の減少を通じて長期の経済成長を阻害するといった見方も存在する。こういった見通しに対して、出生率の向上と女性の就業継続を両立させ得るような政策、たとえば、育児休業制度の整備などが行われてきたが、その成果について十分な検証が行われているとは言い難い。
そこで本研究では、(1)出生率低下の要因を分析し、育児休業制度などにみられる制度変更がどの程度の効果をもつか、(2)女性の就業継続を阻害する要因を分析し、どのような制度設計が求められているのか、を検討する。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
5. 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学
プロジェクトリーダー
概要
世界的に例を見ない高齢化のスピードを経験する中で、高齢者の生活の質を落とすことなく、持続的な社会保障システムを構築することが不可欠である。本研究は、これまでの医療・介護・年金ごとの分野別アプローチやマクロモデルを使ったシミュレーション分析の限界を超え、高齢者の多様性を前提にしたミクロ的かつ包括的な市場指向型の「新しい」アプローチを実現する。平成17年度研究プロジェクトとして既に実施したパイロット調査や、同様の高齢者調査(HRS/ELSA/SHARE)の知的支援も十分に踏まえ、「世界標準」の中高年者パネル調査を開始する。
健康状態、経済状況、家族関係、就業状況、社会参加といった多面的かつ国際的に比較可能なデータ収集を行い、豊富なミクロデータを踏まえた“evidence-based policy making”を日本の社会保障政策分野で確立するとともに、日本の経験を諸外国の政策立案にも活かし貢献する。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
国際ワークショップ
- "Conference on Japanese version of HRS/ELSA/SHARE" (2006/09/19, 2006/08/04-05)
6. 社会保障研究:社会保障財政シミュレーションモデルの開発
プロジェクトリーダー
サブリーダー
概要
急速な高齢化の進展により、将来的な社会保障財政負担増大がわが国の経済活力維持に対する懸案材料となっている。社会保障財政の将来負担および将来給付の見通しを得るためには、わが国の社会保障制度を的確に反映させた財政シミュレーションモデルの構築が不可欠である。
そこで本研究では、これまで当研究所で開発してきた年金シミュレーションモデルを用いた年金財政分析を中心的に展開しつつ、その他の社会保障分野における分析も進めることで、年金・医療・介護・福祉財政を包括的に分析できるシミュレーションモデルを構築し、少子高齢化社会における経済活力と共存可能な社会保障制度の給付と負担のあり方を検討する。