中国経済新論:実事求是

日本を抜いて世界第三位の貿易大国となった中国
― 依然として脆弱である「世界の工場」 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

改革開放以来、中国は貿易の自由化と直接投資の受入れを通じて、世界経済との一体化を進めており、2001年のWTO加盟を経て、そのペースは一段と加速している。2003年の輸出は前年比34.6%増の4383.7億ドル、輸入は、39.9%増の4128.4億ドルに達している。輸出入合計では、8512.1億ドルと、わずかながら初めて日本の8511.7億ドルを上回るようになった。その結果、中国は一挙にイギリス、フランス、そして日本を抜いて、米国とドイツに次いで世界第三位の貿易大国として浮上している(表)。しかし、中国では外国資本と加工貿易への依存度が非常に高いことに鑑みると、中国経済の実力を評価するときに、このような数字を割り引いて考える必要がある。

中国における貿易の拡大の担い手は、外資企業である。1979年以来、香港と台湾企業を含む外資による対中投資の累計は5000億ドルを超え、外資企業は中国において工業生産の30%のシェアを持つようになっている。中国の輸出全体に占める工業製品の割合も90%を超えている。2003年に外資企業の輸出と輸入はそれぞれ41.4%と44.7%増加しており、全体では54.8%と56.2%のシェアを占めている。また、外資企業による輸出の8割と輸入の6割は加工貿易に分類される。ここでいう加工貿易とは、外国企業が原材料・資材などを中国企業に提供し、中国側が外国側の要求する品質・デザイン等に基づいて加工した後、外国側が加工した製品を引取り、中国側に加工賃を払う形態のことを指す。中国は輸出振興のために、外資企業と加工貿易に対して、税制などの面において優遇しているが、多くの多国籍企業が、これらの優遇策と中国の安い労働力を活かして、中国を輸出するための生産基地として利用している。

これを背景に、日米をはじめ、主要先進国にとっても、貿易相手国としての中国の重要性が高まっている。まず、日本にとって、中国は、すでに米国に取って代わって最大の輸入相手国となっており、輸出入の合計で見ても、米国に次いで第二位となっている。近年の勢いが今後も予想され、中国が日本の最大の貿易相手国になる日はやがて来るだろう。一方、米国では、2000年に対中貿易赤字が初めて対日赤字を抜いた(図)。これに続いて、2002年に対中輸入が対日輸入を上回るようになり、さらに2003年には輸出入の合計額においても日中間の逆転が起こっている。その結果、中国はカナダとメキシコに次いで、米国にとって第三位の貿易相手国となっている。しかし、中国の輸出が労働集約財または工程に集中しているため、その急拡大は、輸出価格の低下(いわゆる中国発デフレ)を通じて中国の交易条件の悪化を招いている一方で、相手国との貿易摩擦を激化させている。

中国は、貿易の拡大を背景に、「世界の工場」時には「世界の市場」と呼ばれるようになっている。しかし、生産面では、自前の技術やブランド、海外への流通経路を持っていないなど工業力が相変わらず脆弱であると言わざるを得ない。需要面においても、中国が輸入する品目は、最終消費財より部品などの中間財が中心になっており、それを加工した製品の大半が海外に輸出されている。そもそも、2003年における中国のGDP規模は1.41兆ドルと、まだ日本(4.28兆ドル)の三分の一に留まっており、一人当たりGDPに至ってはようやく1000ドルを超えたばかりで、日本の30分の1程度に過ぎない。これらを併せて考えると、日本は中国の「世界の工場」化を脅威と見るのも間違っているが、中国を「世界の市場」と期待することも早計であろう。

表 世界のトップ貿易国
表 世界のトップ貿易国
(出所)各国通関統計より作成
図 日本を抜いて米国の第三位の貿易相手国となった中国
図 日本を抜いて米国の第三位の貿易相手国となった中国
(出所)米国の通関統計により作成

2004年3月23日掲載

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