当研究会では、平成14年2月13日に、これまでの研究会の論点をより多くの方々の前で披露し、幅広く議論を行うため、ワークショップを開催いたしました。当日は下記のようなプログラムで開催され、60名以上の有識者が集まって活発な議論が行われました(出席者一覧(PDF))。
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第1セッション
テーマ:「ODA二分論と域内経済統合へのビジョン」
- プレゼンテーター:大野健一(政策研究大学院大学教授)
- プレゼンテーター:木村福成(慶應義塾大学教授)
- 配付資料 [PDF]
- 議事録(サマリー)
- 議事録(逐語録)
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第2セッション
テーマ:「中国・ASEANとの関係~経済協力を通じて」
- プレゼンテーター:関志雄(経済産業研究所上席研究員)
- プレゼンテーター:トラン・ヴァン・トウ(早稲田大学教授)
- 配付資料 [PDF]
- 議事録(サマリー)
- 議事録(逐語録)
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第3セッション
テーマ:「経済協力政策の再編成」
- プレゼンテーター:鷲見良彦(経済産業省貿易経済協力局審議官)
- プレゼンテーター:下村恭民(法政大学教授)
- 配付資料 [PDF]
- 議事録(サマリー)
- 議事録(逐語録)
ワークショップでは、大きくまとめると7つの論点について、各セッションをまたいだ重層的な議論が行われ、多様な意見が出されました
1.経済協力を「貧困等グローバルな課題への対応」と「アジアのダイナミズムの推進」に分けるという考え方(二分論)について
全般的には、日本の援助の目的を明確にする試みとして同感との評価。ただし、以下の意見あり。
- 二つに分けることで明確になるので良いが、この範疇に入らないマージナルなものとして産油国との関係強化などあり。
- アジアについてはODA(援助)で行う部分は限られてきている。国民に対して具体的にどのような協力がなぜ行われるべきか説明が必要。アジアが発展すればよいでは納税者への説明は困難。
- 国際的には貧困削減でないと受けない中、二分論にしない方がいいのではないか。
- アジアについては、ODAのみでなくOOF等も含めて考えるべき
- 対外的に受け入れられるようにするには具体的な中味を示す必要。アジアの期待に応えるような具体的なもの、目標の設定が求められる。
2.協力の対象として、アジア(アセアン+3)を掲げることについて
以下の意見あり。
- とりあえず、アセアン+3が最も機能している枠組みであることは否定しないが、メンバーシップはできる限りフレクシブルな方がよい。
- アセアン諸国により、どんな枠組みが良いかに対する考えが違うことに留意する必要、日+アセアンより広げることには様々な意見あり。
- アジア、世界の二分ではなく、APECのような枠組みの活用も重要。
- アフリカ等にどうしてもスポットが当たるなか、アフリカにアジアの経験を伝えるという視点もある。
3.開発における、政府の役割・関与について
開発における政府の役割・関与についての考え方については、自由化により貿易・投資を促していく、政府としてはそのための投資環境整備を進めるべき、ただし後発国では一定の保護政策も許されうるというもの。これに対して、内容、重点の置き方に反対という意見あり。
- CLMVなどで、政府の産業育成に関わる役割が重要なことは否定しないが、そこを強調すべきではない。日本経済をもっとオープンにして、アジアにとっての魅力を増すとともに、市場ベースでのインテグレーションを進めよう、そのためにどうすればいいかを話し合いましょうというべき。
- アジアの奇跡を巡る解釈にも通じるが、日本がアジアダイナミズムをいかにして実現すべきと考えているか、保護政策が許されるのか、の手段を明確にする必要。
4.国内政策との一体化
国内政策と一体的に考えられるべきとの提案については絶対必要の意見。
- CLMVなどで、政府の産業育成に関わる役割が重要なことは否定しないが、そこを強調すべきではない。日本経済をもっとオープンにして、アジアにとっての魅力を増すとともに、市場ベースでのインテグレーションを進めよう、そのためにどうすればいいかを話し合いましょうというべき。
- アジアの奇跡を巡る解釈にも通じるが、日本がアジアダイナミズムをいかにして実現すべきと考えているか、保護政策が許されるのか、の手段を明確にする必要。
5.中国、アセアンとの関係について
関研究員は、中国は、日本とは補完関係にあり関係緊密化は両国にとってプラス、経済協力としては、外部効果(環境対策)、所得分配(内陸部との格差解消)、公共財(貿易投資インフラ整備)を挙げた。トラン教授は、アセアンは日本にとっては重要な地域であったが中国との競争で厳しい局面にあり、人材育成が大事との問題提起。これに対して、中国に対する楽観論、悲観論等の認識についての意見が出たが、具体的な関係のあり方については以下の意見有り。
- 中国脅威論だけでなく、活力を活用していくことが大事。
- 中国には、言論統制等、言うべきことを言っていく必要。また、環境問題などについては一緒に考えていくことが大事。さらに、日本に来る留学生がきっちりと処遇されるような対応が望まれる。
- 中国経済が変にならないよう関わり合っていくという視点も重要。中国も沿海部だけ見れば中進国であり、私は援助は要らないと思うが、内陸部の遅れたところへの援助、マーケットベースに引き込むための技術協力は残ろう。
- 中国と分かり合うためにはある程度の経済発展が必要。中国援助をやめていく局面として、環境とか内陸格差に対する支援に絞る、その後次の局面を目指すというのはよいのではないか。
- 中国への協力については、中国との共通利益を増やす人的関係強化、負の影響を下げる環境対策などが考えられるのではないか。
- 様々な企業の情報を集約して、中国がどうなっているのか全体像を把握する仕組みがあればと思う。そうすれば経済協力の要否、どこで何をやるべきかという材料にもなる。
- 中国の成長の中で、アセアンの強化を支援するとの方針は多くの人が賛成するのではないか。ただし実際にはアセアンは強くない。CLMVを入れたのも明確な意図は曖昧。日本がアセアンに何をアドバイスできるか悩ましい。アセアンも一枚岩ではなく各国それぞれの意見有り。
- アセアンの発展は大事だが、足りないのは人材。アセアン中所得国で足りないのは資金ではなく、技術、アイディアだろう。
- APECを再編してアジアの構造改革を促すシンクタンクとしてのアジア版OECDを提唱してはどうか。
- アジア自体がアジア外への依存が強い経済。域内で開かれた経済になっていない。アセアン域内の自由化を進めるべき。
6.援助の進め方
下村教授は、既存の制度は制度上の制約が多すぎるため、例えば、知識集約型のNPOを創設して新たな枠組みを設けることを提案。既存の組織・手続き面の問題については、以下の意見も有り。
- 資金・技術偏重から制度・政策支援に変わるためには、資金と人材の投入比率を変える必要。資金を減らしても人間の数を増やすという方針を出すべき。今の援助体制はソフト支援ができる体制にはない。国際機関の行っていることについての知識も不足。
- ODA戦略全体を議論する総合戦略会議が必要。ソフト支援の抱える問題も、全体を束ねる政策がないこと。
- ODAの卒業の考え方はもっと整理してみた方がいい。また、日本の経済協力の特徴は自立的発展支援。
- ODAでのローンには国際ルール上も制約が多すぎる。民間金融を発展させるための環境整備が重要。
- 民主化が進み、コミットメントを求めるための枠組みが変わっている。政権と話すだけではだめ。
- 援助の進め方として3つの提案。①援助の判断基準を明確にすること、②長期的視点に立って援助すること、③兵器を売っているような国には文句言うこと。
7.国際機関、国際的な援助思想との付き合い方
アジアに対する日本の関与は貧困削減では捉えにくいのではないか、との問題意識にも関連して以下の議論有り。
- 貧困削減は国際機関では無視し得ないアジェンダ。貧困削減自体に反対するのではなく、貧困削減のためにはミクロ的な介入(富の再配分)だけでなく、マクロの経済成長を促すための協力が重要だという説明をする方が受け入れられやすいはず。理念だけで議論するよりも使える部分を使っていく方が現実的。世銀ができていない部分、民間部門による開発の支援、を日本がやると言う発想も大事。日本全体としてみれば世銀をシンクタンクとしてもう少し活用しても良い。
- 貧困削減だけでは収まりきらない部分有り。援助理念が画一化されること自体が問題
- 貧困削減等、国際的協調の必要な援助は、日本が国際機関に理念を発信できるかどうかが重要。
― また、貧困以外にも、現在の国際的な流れに対して、汚職等の条件を厳しくしている結果経済が破綻するまでは援助が行われていないのはおかしいとの意見、様々な援助の考え方があることが望ましい等の意見が出された。