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第6回:デフレ脱却には政府・日銀間で政策協定を結ぶ必要がある

植杉 威一郎
研究員

要旨
  1. デフレ脱却のためには、「政府、日銀単独では脱却が不可能」、「脱却のための政策の多くは誰がやるのか不分明」、「政府・日銀間で政策の押し付け合いが起きている」ことを認識し、それを解決する仕組みを考えるべき。
  2. 現在、デフレ脱却のために誰が何をやるかについての具体的・包括的な議論はされていないように見える。まずは、政府、日銀が既存の会議の場を活用し、緊密な意思疎通を行うべき。
  3. 政策の押し付け合いという経緯を踏まえれば、日銀の独立性を尊重しつつ、政府、日銀が実施する政策を約束し合う協定を結ぶことが望ましい。政策協定の実効性は、内容の具体性、政府、日銀の行う約束の実行可能性にかかっている。内容の例としては、期間・金額・使途を限定した財政支出と日銀によるファイナンス、長期金利急上昇防止に向けた政府・日銀間の協力などが考えられるのではないか。

はじめに

デフレからの脱却は日本経済にとっての大きな課題である。3月交代予定の日銀総裁の人選や日銀による更なる金融緩和にもっぱら焦点が当たっている。一方、日銀だけではなく、もう片方の経済政策の主体である政府にもスポットライトを当て、政府、日銀がそれぞれ政策を行うよりも、政策協定を結び協調して事に当たるべきという議論も出ている。これは、政府、日銀といった立場を問わず、デフレ脱却の方策について幅広い議論をしようという点で歓迎すべきことである。

ただ、政府、日銀とも自分で政策の立案・実施ができるにもかかわらず、わざわざ協定を結んで、自らの自由に制約を加えることについては、相応の理由がなくてはならない。そうした理由をはっきりさせないまま政府・日銀間の政策協調を謳うだけでは、今回の議論も一過性のものに終わり、将来の政府と日銀の関係にも何ら良い影響をもたらさない。

ここでは、デフレ脱却を達成しようとする場合の留意点を踏まえ、目的達成のために何が必要か、政府によって実施されているその他数多くの政策と比較して、デフレ脱却策の立案・実施に際しての特殊事情はあるのかをまず概観する。次に、日銀の独立性という特殊事情の下で何をすべきか、政府・日銀間の政策協定にはどのような意義があるのか、協定を結ぶとすると内容として何を盛り込むべきか、について簡単に整理する。

デフレ脱却を図る上での留意点

現在、デフレ脱却を図ろうとする際には、以下の3点に留意する必要がある。

(1) 政府・日銀はいずれも単独でデフレ脱却を達成できない

日銀が更なる金融緩和によってデフレ脱却を図るべきだという議論が盛んである。しかし、これまでの日銀による量的緩和政策は、金利はある程度低下させたもののデフレ脱却に決定的な役割を果たしたとはいい難い。量的緩和を一段と進めるべきとする竹中大臣のいる内閣府も、14年度の経済財政白書ではその効果について、「(金利低下以外には)、為替減価を通じる経路が作用している可能性がある」と述べるに留まっている。

一方、政府も、これまでの財政措置がデフレ脱却に決定的な役割を果たしたかについては明確に肯定していない。むしろ現在では、高水準の国債発行残高の下、国債価格の暴落につながりかねない財政支出の追加には消極的に見受けられる。

単独ではなかなかデフレ脱却を達成できないという認識は、政府の公表するデフレ対策や経済見通しにおいて、「デフレ克服を目指し、できる限り早期のプラスの物価上昇率実現に向け、政府・日本銀行が一体となって取り組む(15年度経済見通しと経済財政運営の基本的態度:1月24日閣議決定)」という文言からも窺うことができる。

また、成長率が高まると経済の需給が引き締まって物価上昇率が高まるという関係からすれば、デフレ脱却(成長率の上昇と、物価上昇率の押し上げ)は、政府・日銀間である程度の期間共有される目標となりうる。

(2) 政府・日銀の行う施策が密接につながり、調整が必要になってきている

もちろん、日銀がこれまでやってきた量的緩和が効果を生まないのは緩和が足りないからであって、もっと色々な追加策(例:インフレターゲティングの導入、長期国債買切り増額、外債・ETF・REIT購入)を講じられるはずとの意見は多く存在する。

しかしながら、これらの追加策は、政府の行う経済政策と似通っているだけではなく、互いに密接に影響しあうものとなっており、政府、日銀が、それぞれどのような施策をどこまでやるのかについてある程度はっきりさせておかないと、目的を達成できない状況になる。

まず、インフレ率や名目成長率を日銀が単独で設定する例を考えてみよう。

日銀にとって大きな不確実要因の1つは、政府がデフレ方向に経済を運営しようとしているかどうかということであろう。特に政府による不良債権処理のさじ加減次第では、日本経済は奈落の底という論調すら見られる現在は、その不確実性は更に大きくなる。このような中で、政府との調整もなしに、日銀が単独でインフレ率目標達成を掲げることができるだろうか。

インフレ率などのマクロ目標を実現するための具体策についても、同様のことが言える。国債の買い切り増額措置の例を考えてみよう。

以前から日銀は長期国債買い切りを行っていたが、その時の位置づけは「成長通貨の安定的な供給」であった。一方、現在、長期国債買切り大幅増額を主張する論者の意図するところの1つは、既に史上最低水準にある長期金利の更なる低下もしくは安定的な推移ということであろう。しかし、仮に長期国債買い切り大幅増額に日銀が踏み切ったとしても、財務省が財政支出に伴い国債を大増発、もしくは、全体の国債発行額のうち長期国債発行額を大幅に増やした場合には、日銀だけで長期金利を安定化させることは難しいかもしれない。ここでも、政府・日銀間で政策がお互いに影響しあうため、長期金利の安定のためには両者間の政策調整が必要となる。

(3) 明示的な取り決めがない状況では現状維持・押し付け合いに陥る可能性がある

政府・日銀間で境界線の曖昧な政策領域が増えたとしても、お互いがデフレ脱却のために必要な行動をとればよいが、現時点では、政府、日銀ともに「現状維持」を続け、相手に対応を押しつけているように見える。

実際、政府は、「3月に交代する予定の次期日銀総裁は、デフレと戦う人がよい」と、財政政策よりも金融政策を通じたデフレ克服への道筋を表明する一方、日銀は「各方面から日銀に対して求めている従来の金融政策の範囲を超えた非伝統的政策は、財政政策の範疇」と繰り返し述べている。

現状維持を続け、相手に対応を押しつける理由は、現在提案されている追加策が未踏のものであり、期待される効果も分からない中であえて一歩を踏み出すリスクを負いたくないということではないかと推測される。

お互いにどこまで政策をやるかについての明示的な議論もしくは取り決めがない現状では、そうしたリスクは更に拡大し、政府、日銀の当局者を積極的な行動からより遠ざけている可能性がある。

政府・日銀双方の努力が必要との認識を両者が持ち、どちらが何をどれだけやるのかを具体的にして重複、漏れが生じないようにし、それらを確実に実行すると互いに約束し、お互いが約束を守っているか、その結果として効果が現れているかを監視する。非常に単純ないい方ではあるが、このような取り組みが必要ではないか。

デフレ脱却に向けた政策の立案・実施プロセス

(1) 目的を達成するための政策立案・実施のあり方

デフレ脱却に限った話ではなく、かつ非常な単純化をしているが、一般的に、ある目的を達成するための政策立案・実施に当たっては、以下のような手順を踏むと考えられる。

課題発見と政策目的の設定

目的達成のための政策手段の立案

政策の実施

政策効果の評価

目的が達成されていれば完了、そうでなければ政策手段の立案に戻る

このような政策立案・実施の例は山ほどあるだろう。たとえば、筆者の経験から石炭鉱業構造調整政策についていえば、「日本の石炭は海外炭に比べて高く、国内の高コスト構造につながっている」というのが発見された課題、「国内に残る炭鉱を市場から退出させる」というのが政策目的、「石炭関係予算を年ごとに削減する算段を日々行い、大蔵省(現・財務省)と掛け合う」のが政策手段の立案である。政策実施の結果、「炭鉱が本当に閉山するか」を見るのは政策効果の評価であり、そうした市場からの退出が困難ということであれば、「石炭会社にお金を貸している金融機関、高値で石炭を引き取っている電力会社との関係も踏まえて、どうするかを考える」というのが、新たな状況に対応した政策立案・実施である。

(2) デフレ脱却に向けた政策立案・実施の問題点

デフレ脱却策についていえば、最初の課題発見と目的設定については、関係者間でほぼ意見の一致が見られている。2001年末から2002年初にかけて、内閣府、財務省、経済産業省、日本銀行の関係者が集まってまとめられたデフレスタディグループの報告書では、現在のデフレは、需要不足、貨幣的な要因などが重なり合って起きていること、デフレ自体が経済に悪影響を及ぼしており、それを解消すべきことを述べている。

問題は、これまでのところ、第2段階以降がうまく運んでいないということだろう。一方、他の多くの政策課題ではこうした流れに沿って課題が解決している(もしくは解決したとされている)。それでは、デフレ脱却という政策課題は、その他多くの政策課題と何が異なるのだろうか。

デフレ脱却という政策課題は、提案されている政策が未踏のものであって不確実性が高いという説明がなされることが多い。これが、他のうまく課題が解決した例との違いであろうか。

しかし、効果の不確実性については、程度の違いに過ぎないように見える。デフレ脱却以外のその他の政策立案・実施に際しても、講じようとする政策に前例がなく、効果が事前には予想できないというケースは多いだろう。政策効果が不確実な状況下でも政策が実施され、目的が達成されるのは、むしろ政策立案・実施における意思決定や情報共有の仕組みがきちんとできているからではないか。すなわち、誰が何をやるかがはっきりしており、複数の主体が政策実施に携わっている場合には主体間での密接な連携があり、仮に実施された政策がうまくいかなくとも、代わりに何をすればよいのかを考え、実施してきたというのが目的達成の大きな要因なのではないか。

こう考えると、今回のデフレ脱却に向けた取り組みがこれまでなぜうまく行かないかがある程度見えるように思う。それぞれの分野で知見をもった能力ある専門家はもちろん多い。しかし、1)政府、日銀をはじめ多数の主体が関係することがデフレ脱却のためには必要と分かっていながら密接な連携がないように見え、2)金融政策と財政政策の境目が不分明になり、誰が何をやるかがはっきりせず、3)デフレ対策を取りまとめる際にも、その後のプランは何か、それがうまくいかない場合に何をするかをとりあえず脇に置いているように見える。このような状況では、デフレ脱却という目的は達成されにくいだろう。

日銀の独立性と政府・日銀間の意思疎通

もちろん、お手軽に他の政策課題とデフレ脱却というマクロ経済における政策課題を同一視し、意思決定や情報共有の仕組みを効率化せよとナイーブにいうことには相当無理がある。それは、デフレ脱却に際しては独立して金融政策を決定する日銀の果たす役割が大きいためである。日銀の独立性は平成10年に施行された改正日銀法で規定されており、これを踏まえて適切な政策立案・実施のプロセスを考える必要がある。

(1) 政府・日銀間の意思疎通の現状と改善の方向

日銀に独立性があるからといって、政府・日銀間でデフレ脱却策をどうするかについての意見交換が禁じられているわけではない。日銀法上、金融政策は政府の行う経済政策と整合的でなければならず、また、金融政策に関する意見が政府と日銀とで異なる場合の調整規定も設けられている。金融政策決定会合で政府による意見や提案ができる権利もある。更に、経済財政諮問会議では、経済財政政策に関する重要事項についての調査審議を行うが、そのメンバーには日銀総裁も含まれており、そこでの意見交換も可能である。

これらの場で、必要な政策は何か、誰がそれを行うべきかについての突っ込んだ意見交換が行われていれば、独立に決定される経済政策と金融政策が互いに整合的となり、デフレ脱却という目的達成も期待されるはずである。

現実には、政府・日銀間では、デフレからの脱却について、「デフレ克服への確固たる決意」以上の何を意思疎通しているか、それが整合的な政策立案・実施につながっているかについて、諮問会議、日銀政策決定会合の議事録、議事要旨から窺う限りでは、以下のような特徴があるように見受けられる。

政府側:
・構造改革路線の結果、いつかは需要が出るはずと考え、それまで財政政策の積極的な出動は行わない一方、日銀の行う金融政策が出動することを期待。
・そうした役割分担の下、日銀がどこまで政策を講じるべきかについての包括的な案は提示せず、個別に施策を提案(例:インフレターゲティング採用、国債買い切り増額、国債保有上限撤廃、中小企業金融の円滑化、為替介入の非不胎化など)。

日銀側:
・現状の政策が当面のデフレ脱却のために力不足であるが、財政による対応はされていないし、適当でもないと指摘するに留めている。政府側の対応を所与として、金融政策について議論している。
・政府側から出される個別提案については個別に反論。『伝統的ではない金融政策』を講じることについては、政府のデフレ脱却に向けた取り組みの足りなさをえん曲に指摘しつつ、反論。

最も問題だと思われるのは、デフレ脱却に向けた整合的な経済・金融政策についての認識が、政府・日銀間で異なっているように窺えるにもかかわらず、それをはっきりとさせず、その認識の違いをすり合わせる努力を行っていないように見えることである。

政府の描くデフレ脱却に向けた整合的な経済・金融政策は、拡張的ではない財政政策と更なる金融緩和という組み合わせであるのに対し、日銀の描く整合的な政策は、積極的な財政政策と更なる金融緩和、もしくは現状維持の財政政策と現状維持の金融政策という組み合わせであるように見える。こうしたすれ違いを続ける限り、整合的な経済政策・金融政策についての共通の認識はできず、更には、必要な政策を誰が行うかについての意見交換もできないと思われる。

先述したように、政府・日銀間の意思疎通の必要性は法律上にも既に規定されており、問題は、お互いが何を意思疎通するかということである。こうしたすれ違いをなくすためには、経済財政諮問会議、日銀金融政策決定会合等の場で政府、日銀は以下のような言動をとるべきと考えられる。

政府側:
・日銀に中身を示さずに方向性だけ押し付けるやり方はやめる。すなわち、「金融緩和はしてほしいが独立性の範囲内で中身は考えてほしい」といういい方はやめ、通常財政政策の範疇と考えられるものも含めて何を日銀にやって欲しいかについて具体的、網羅的に示す。

日銀側:
・政府の経済政策を所与として必要な金融政策についての検討するのではなく、デフレ脱却のためにはどのような経済政策がありうるのかについて、政府側に積極的に問題提起する。

(2) 政策協定の必要性

お互いに政策の押し付け合いをやってきた経緯、経済政策と金融政策の境目がますます不分明という状況を踏まえれば、単なる政府・日銀間の意見交換だけでは、政策は何も変わらないという状況もありうる。それを防ぐためには、政府・日銀がお互いのやることを具体的に約束し合う政策協定を結ぶことが望ましい。

この協定は、適当なescape clause(離脱条項)を付けることによって日銀の独立性をあまり損なわず、かつ、実効性を高められると考えられる。具体的には、政府が約束したことを守らない一方で、日銀のみが約束した金融政策の実施を強要された場合には、日銀は協定から抜けることができるなどの規定を盛り込んでおくことが考えられる。

政策協定の内容

政策協定を実効あるものにするためには、お互いができることをできるだけ具体的にすること、目標を達成した場合の終期をはっきりさせること、いったんした約束は守らせる仕組みを作ることが重要である。

約束を守らせるためには、相手が約束を破った場合に、理由を明示した上で協定から抜けられるようにする方法もある。これは、その相手の政策実施に関する評判を傷つけるという点で、意味のあるペナルティとなる可能性がある。かつ、こうしたescape clauseを設けることで、日銀は、自らの意思に反した金融政策を強いられないという意味で独立性を確保することができる。

ただし、どの約束を守らなかった時に、どのようなペナルティが課されるかについては、違いを設けるべきではないか。名目成長率や物価上昇率といった「最終目標」は、政府、日銀だけの努力では如何ともし難い面がある一方、都市再生や電波利用権の政府による効率的な再配分に○○億円支出するといった「操作可能な目標」は、政府の努力だけで達成できるもののはずである。最終目標が達成できない場合には、政府、日銀はなぜ達成できないのか、今後何をすべきかについて国会で説明する義務を負う。その一方で、操作目標が達成できない場合には、相手側の協定離脱などのペナルティが課されるということではどうだろうか。

もう1つの留意点は、政府・日銀間の協定だけでなく、政治や国会が認めないと成立しない政策も多いことである。予算がその最たるものであり、単年度主義である上、政治の同意を取り付けずに政府が約束できるものではない。これについては、各種公共事業長期計画、科学技術基本計画のように、複数年にわたって閣議決定して支出のコミットメントをしている例を踏まえ、どのような約束の仕方があるのか検討が必要となろう。

そうした点を踏まえた上で、具体的な内容については、あくまでも例としてではあるが、以下のようなものが考えられるのではないか。

(1) 全体の目標

名目成長率もしくは消費者物価上昇率のターゲットの設定

(2) 個別の分野における政策の整合性の確保・協力

(a) 不良債権処理もしくはデフレ脱却に資する財政支出(例:公的資金注入、セーフティーネット拡充、ベンチャー企業育成策、特定分野(IT、バイオ、都市再開発など)への支出)
・政府は、追加的な支出と国債発行額の目安についてある程度示す。
・そうした追加財政支出については、期間、金額、使途を明確にし、国債残高が膨張しないことを日銀に納得してもらう。
・同時に、そうした需要創出に資するような支出を確実に行うために、歳出入の構造改革に取り組む。
・日銀は、そうした使途に支出するための国債について、政府の約束が信頼できるものかどうかに応じて買い切りなどの措置を講じる。

(b) 企業金融の円滑化に係る方策
・新たな間接金融チャネルを開拓するための支援措置(例:日銀は、新たに間接金融に乗り出す者に民間銀行が貸出する際にはその一部をファイナンスする)を講じる。
・政府が直接金融市場の将来について制度設計をするのに応じて、日銀は、これまで行ってきた企業金融円滑化措置(例:担保対象ABS(Asset Backed Securities:資産担保証券)の範囲拡大、ABCP(Asset Backed Commercial Paper)のオペ対象化)をどのように拡充するかについてのスケジュールを示す。

(c) 為替政策
・日銀が外債を購入するかどうかを明らかにする。
・日銀が大規模に外債を購入する場合、米国長期金利への影響を懸念する米国財務省、FRBへの事前の了解を取り付ける。
・財務省の行う為替介入の効果を減殺しないような連絡体制をとる。

(d) 長期金利安定化
・政府が、国債残高を一定限度に抑える旨を約束する。
・政府・日銀の間で本当に景気が回復するまで国債金利の急上昇を防ぐための手立てを考えておく(例:国債発行計画における発行年限バランス、保有国債の簿価評価の一時的な導入、金利が急激に上昇しそうな場合の日銀による大規模な買いオペ)。

(3) 政策協定の終期

・「消費者物価上昇率が安定的にプラスに転じる」など解釈の余地の小さい基準を政策協定の終期として設け、物価上昇時に日銀が必要な引き締め措置を行えることを制度的に確実にする。

・ただし、デフレ脱却という一時的な目的ではなく、政策の透明性確保という目的から評価されるもの(例:インフレーションターゲティング)については、政策協定終了後も、日銀独自の判断の下で目標として置き続けるかどうかを決める。

おわりに

政府・日銀が一体となってデフレ脱却に向けて取り組むと対外的に宣言している中、互いの行う政策の境界線がはっきりしなくなっている現状は改善を要する。このままでは、政府・日銀間での政策立案・実施についての押し付け合いが続くことが懸念される。

もちろん、政策協定については、これまでも触れたように、協定の内容をどこまで具体的にするか、政府・日銀間のみならず政治や国会との関係をどうするか、政府は原則単年度の予算でも議会が決めない限りコミットできないではないか、など課題は多い。

しかし、政策協定は、政府・日銀の別を問わず必要な政策を確実に実施するための1つの形であり、適当な条件を付せば、日銀の独立性を確保した形での取り決めとなりうる。かつ、政策協定という包括的なデフレ脱却策についての議論をきっかけとして、政府・日銀間での意思疎通だけでなく、政府内部での政策決定も円滑化することが期待される。

2003年2月17日

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2003年2月17日掲載

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