「政策史・政策評価」プログラムについて

プログラムディレクター

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武田 晴人(プログラムディレクター)

この研究プログラムは、第2期中期目標・計画期間から継続して進められてきた通商産業政策史研究(1980〜2000年)に関わる研究活動を総括しながら、通商産業政策・経済産業政策の歴史的な研究と、そこから導き出されることが期待される政策評価の方法について考察を行うことが目的である。

第3期計画のプログラムでは、いくつかの個別的なテーマを設定して研究活動を行ってきた。すなわち、東アジアの高成長経済の比較研究や世紀転換期の経済政策の転換を焦点とした国際共同研究、中小企業政策や産業立地政策についての政策評価に向けての調査研究などである。その一方で、通商産業政策史第2期の成果をコンパクトに伝えることができるような概要版をとりまとめた。この概要版は、第1期政策史の英文書籍の続巻として位置付けられるように構成され、第4期中期計画において翻訳され、英文書籍として刊行することを計画している。

第4期計画では、世紀転換の前後を見渡して調査研究課題を設定し、進行しつつある日本経済社会の変化――高齢化社会の到来、長期化する低成長――に対処して、通商産業政策・経済産業政策がどのような政策課題を見出し、これにどのように取り組んできているのかを検討することにしたい。すでに第3期に原子力安全・保安院の政策史をまとめたところであるが、経済産業省への改組を契機とする政策課題設定の重点変化と、継続的な課題への取り組みの双方に目を配って具体的な研究課題を選定したい。これによって世紀の転換期に訪れた通商産業政策の連続面と断絶面が明らかになると考えられる。

そのために、1990年代初頭からの四半世紀に生じた国内のマクロ経済状況の変化だけでなく、世界的規模の経済の国際化(グローバリゼーション)、市場の重視と財政再建、そして地球環境の維持保全に関する国際世論の高揚という大きな変化に留意したい。そうした関心に即して、個別の政策領域についても広い関心から課題を設定し、政策の立案・実施過程を追跡する必要がある。これらの研究活動が将来の経済産業政策の歴史編さんの基盤となることが期待できる。同時に政策実施過程の検討を通して、政策意図に対応した効果をどのように評価するかについても知見を蓄積していくことができると考えられる。

政策評価には、成果をいかに測るかという点で固有の困難があり、これまでの政策史研究では当初の意図とは異なり、十分な記述が尽くせないことも少なくなかった。このように政策とその成果との因果関係を確定することはそれほど容易ではない。特定の政策が自己完結的に目的を達成したかを論じうるケースがある一方で、政策的関与によって新しい問題が発見され、それに対する対処が求められることもある。また、複数の政策がそれぞれの意図を超えたかたちで複合的に効果を発揮する場合もある。いずれにしても、そうした政策過程において政策主体が問題を発見し、対応策を生み出していくことは、政策立案に関わる創造的な革新として評価することもできる。そのような視点から多様な評価軸を持つことが求められていると考えている。

政策史研究・政策評価研究における固有の困難には、記録文書が十分には整備されていないという通商産業省・経済産業省の「固有の文化」によると思われる側面もある。公文書に関わる法制度の整備が進んできたために、今後改善されることが期待されるが、そうした資料的な基礎を充実していくことも重要と思われる。1990年代半ばに通商産業研究所が取り組んだ「通商産業政策史研究」が、通商産業省の協力を得て直近の時代の資料を利用しながら残した研究成果が、第2期政策史編さん事業に二次資料として大いに役立ったことを考えると、重要な政策課題について具体的な研究活動を介して資料整備を促すことも必要と考えている。