3分でわかる開発援助研究:オススメの1本

第2回「役に立つ援助、役に立たない援助」

オススメの1本
Craig Burnside, David Dollar (2000) "Aid, Policies, and Growth" American Economic Review, 90(4):pp.847-868.

米国のシンクタンクCenter for Global Development (CGD)とForeign Policy誌が2003年4月に発表した論文"Ranking the Rich"は、世界の二大援助国である日米の援助界に大きな衝撃を与えた。この論文は、発展途上国の経済・社会発展に影響を及ぼすと考えられる援助、貿易、投資、移民、平和維持、環境の6分野における先進国の政策を指標化したCommitment to Development Index (CDI)を作成し、先進国21カ国のうち、総合ランキングで日本最下位、アメリカ20位、援助分野に限ると日本20位、アメリカ最下位という、驚くべき結果を発表したのである。これに対して当然日本の援助界や外務省は強く反発し、古田・外務省経済協力局長は、借款の利払いが引かれており日本の援助が過小評価されている、日本の努力が正しく評価されるよう、国際的な開発論議に積極的に参加したいと述べている(朝日新聞2003年7月16日)。しかし問題は、日本やアメリカがGDPの規模に応じた援助をしていないところにあるのであって、筆者の計算によると、仮に利払いを引かないとしても、援助の順位が20位から18位になるだけであり、いくら積極的に論議に参加したからといって、評価が変わるとは思えない。

国際社会においては2000年の国連総会でミレニアム開発目標(Millennium Development Goals, MDGs)が149カ国の支持を受けて採択され、世界的な貧困削減に対する先進国の協力がよりいっそう叫ばれる一方で、日本国内においては、国内経済の低迷と構造改革の流れの中でODA予算は削減される傾向にあり、外務省はODAの質、効率性をあげようと躍起になっている。

しかし、いくら援助をつぎ込んでも状況の改善しないアフリカ諸国や、ODAにまつわる汚職事件が出てくるたびに、援助は果たして効果的に使われているのか、援助が実際に途上国の貧困削減に役立っているのか、という疑問が持ち上がってくる。実際、Boone(1996)は、援助は政府の規模を大きくしている一方で、投資や人々の生活水準の向上には役立っていないという実証結果を示した。

これに対して、今回取り上げる論文では、健全な政策運営が行われていない歪んだ経済では援助が非生産的な政府支出へと消えてしまうが、政策が健全な国では援助は効果をあげているのではないか、という新たな仮説を立て、途上国56カ国の1970-1993年のデータを用いてこの仮説を検証している。

実証結果

具体的な手法としては、途上国の1人当たりGDP成長率を被説明変数とし、説明変数の1つとして、財政黒字、インフレ率、Sachs-Warner(1995)の開放ダミーの3変数から政策指標を作成し(注1)、それを援助と掛け合わせた交差項(Aid×政策、Aid2×政策)の推計値に注目するという、ごく簡単なものである。ここで、援助の変数としては、援助受取額/援助受取国のGDP(Aid)を用いる。もしAid×政策の係数が正で有意であるならば、政策の指標が高い国ほど、Aid一単位あたりの経済成長への貢献が高いことになる。また、Aid2×政策を推定式に入れるのは、Aidと経済成長の間の非線形的な関係を捉えるためである。

しかしながら、援助が経済成長に与える影響を、一般的な最小二乗法(OLS)を用いて推計すると、推定量にバイアスがかかる可能性があることに注意すべきである。それは、援助が経済成長をもたらすというだけではなく、経済成長が援助の額に影響を与えるという、逆の因果関係が存在するために発生する内生性の問題である。ある国が経済危機に陥って経済成長率が激減した場合には、食糧援助や緊急援助などの贈与の増大や、債務削減などが行われ、援助額が膨れ上がる可能性があるし、また、経済成長が順調な国はビジネスチャンスが多いため、国内企業の進出をサポートするために援助の額が増大することを示した先行研究もある。この論文では、内生性の問題によるバイアスを回避するために、OLSに加えて、二段階最小二乗法(2SLS)を用いた推計結果も紹介されている。

それでは早速推計結果を見てみよう。まず、Aidと政策の交差項を含まず、Aidのみを援助の変数として回帰式に加えた場合には、OLSでも2SLSでも、Aidは有意な値を示さなかった。すなわち、援助は経済発展に貢献しないという、Boone(1996)と同様の結果が得られたわけである。また、Aidに関して外生性の検定を行うと、Aidが外生変数であるという帰無仮説は棄却されなかった。これは、Aidを内生変数として扱わないOLSの結果に、ある程度の信頼が置けるということを意味している。

次に、この論文の焦点である、Aidと政策の交差項を入れたモデルを推計する。OLSの結果を見ると、Aidそのものは依然として有意ではなかったが、Aid×政策は正で有意、Aid2×政策は負で有意となった。Aid×政策のみを加えたモデルでも、Aid×政策の係数は正で有意になった。このことは、援助が経済成長に及ぼす影響は、良い政策が実施されている国ほど大きくなるが、援助の額が増大していくにつれ、援助が経済成長に及ぼす限界的な影響は小さくなる(収穫逓減)ことを示している。

ただし、このモデルを2SLSを用いて推定すると、どちらの変数も、係数そのものの値には大きな変化はなかったものの、有意性は保たれなかった。この原因として彼らは、Aid、Aid×政策、Aid2×政策という3つの内生変数を用いているため、2SLSの第一段階における推計式の説明力が弱くなってしまったことを挙げている。また、Aidの外生性の検定をしてみると、Aidが外生変数であるという帰無仮説は棄却されないことから、OLSの推定結果を信頼できるものとみなすことが可能であると考えられる。つまり、援助は良い政策を実施している国において、経済成長に貢献する。

彼らは、この結果が頑健なものかどうかを調べるために、外れ値を除いたり、低所得国のみでの推計を行っている。外れ値を除いた場合には、Aid2×政策は有意ではなくなったが、Aid×政策は依然として有意となった。そこで、Aid2×政策の項を落として再推計すると、Aid×政策の係数は正で有意であり、係数の値もほとんど変わらなかった。また、中所得国を除いて低所得国のみで推計を行った場合は、Aid×政策、Aid2×政策の係数がやや大きくなる以外は、結果はほとんど変わらなかった。このことは、低所得国においては、援助の有効性を高めるためには、政策の良し悪しがいっそう重要であることを示唆している。

コメント

この論文は大きなインパクトをもって迎えられたが、最近、Easterly他(2003)は、データを1997年まで延ばすと、Aidと政策の交差項が有意でなくなることを示し、政策が良い国で援助が経済成長に効果があるというこの論文の結論が、それほど頑健なものではないと指摘した。Fan他(2000)、Fan他(2002)は、援助でなく政府支出の影響を推計しているが、プロジェクトの分野によって経済成長や貧困削減に対する効果はばらつきがあり、農業R&Dや教育、インフラは効果が高い一方で、貧困削減プロジェクトや保健、土壌保護などへの支出は効果が低いことを示している。援助と一口に言っても、どのようにそれが経済成長に貢献するかはプロジェクトによって大きく相違があるため、援助の中身を細かく分類し、どのような援助がどのような環境で効果的なのかが、今後いっそう解明されていく必要があるだろう。

紹介者:高野 久紀(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
2008年3月14日掲載

出典

  • 『経済セミナー』2003年11月号、No.586
脚注
  • 注1)具体的には、成長率を被説明変数とし、説明変数に財政黒字、インフレ率、開放ダミーを含んだモデルを推計し、その係数の値をウエイトとして政策指標を作成している。財政黒字と開放ダミーの係数は正、インフレ率の係数は負となる。
文献
  • Peter Boone (1996), "Politics and the effectiveness of foreign aid," European Economic Review 40: pp.289-329
  • Center for Global Development (2003), "Ranking the Rich," Foreign Policy, May/June: pp.56-66.
  • William Easterly, Ross Levine, David C. Roodman (2003), "New Data, New Doubts:Revisiting 'Aid, Policies, and Growth,'" NBER Working Paper.
  • Shenggen Fan, Peter Hazell, Sukhadeo Thorat (2000), "Governemt Spending, Growth and Poverty in Rural India," American Journal of Agricultural Exonomics 82(4): pp.1038-1051.
  • Shenggen Fan, Linxiu Zhang, and Xiaobo Zhang (2002), "Growth, Inequality, and Poverty in Rural China: The Role of Public Investments," IFPRI Research Report 125.
  • Jeffrey D. Sachs, Andrew M. Warner (1995), "Economic Reform and the Process of Global Integration," Brookings Papers on Economic Activity (1): pp.1-118
  • 古田肇(2003) 「途上国援助 日本の貢献、正しく評価を」『朝日新聞』2003年7月16日、14面

2008年3月14日掲載