新春特別コラム:2015年の日本経済を読む

外国人の求めるインバウンド観光に向けて~顧客満足度の向上を

上野 透 上席研究員

インバウンド(訪日)観光の拡大へ~オリンピック・パラリンピックを追い風に地方創生も

訪日外国人旅行者数は、2013年に初めて1000万人を超え、2014年は1300万人を超えた。世界の国際観光客数は、2000年代半ばから世界実質GDPの伸びを上回って堅調に推移し、2013年の世界全体の国際観光客数は約11億人となった。国連世界観光機関(UNWTO)では、2020年には14億人、2030年には18億人と見通している(観光庁(2014a)、UNWTO(2014))。

政府の訪日外国人旅行者数の目標は2020年に2000万人、2030年に3000万人であり、その達成には、世界全体をはるかに上回るペースで増加をさせる必要がある。しかし、世界経済フォーラム(WEF)の旅行・観光競争力ランキング(140カ国対象。以下「WEF競争力ランキング」という)(注1)の「政府の旅行・観光業に対する優先度」は日本は55位で高くはない。2020年のオリンピック・パラリンピック開催という追い風を生かし、官民あげて観光立国の実現に向けてより積極的な取り組みをしていく必要がある。

過去のオリンピック・パラリンピック開催国の外国人旅行者数をみると、開催決定後はそれ以前のトレンドを上回って増加する傾向がある。2012年開催のイギリスでは、開催後の外国人旅行者の消費の伸びは、地方がロンドンを上回っている(観光庁(2014a))。日本でも観光による地方創生の好機到来である。

外国人の声を分析して観光サービスに生かす~真のおもてなしを

訪日外国人旅行者を増加させるために、ビザの緩和、官民一体の訪日プロモーションなどが重要であるが、最も大事なのは、外国人のニーズを把握、分析し、外国人にとって魅力のある場所で満足度の高いサービスを提供することである。

観光庁の「訪日外国人の消費動向調査」では国毎に詳細な分析をしているが、総じて、訪日外国人は、日本食への関心が一番高く、満足度は日本の生活文化や歴史、伝統文化の体験が高い。また、再訪時の実施希望率は、温泉入浴が日本食と同じである(注2)。

各種メディアも参考になる。CNNは、東京が世界一魅力的な都市である50の理由として、世界最先端の鉄道、天皇陛下、デパ地下、渋谷スクランブル交差点、原宿エリアなどを順にあげている(注3)。先日、東京消防庁池袋防災館の地震体験措置での防災訓練をしたが、参加者は私以外は香港、フィンランドの旅行者であり、普段は1/3位が外国人だそうだ。

このような、日本人にはなかなか気づかない、外国人の関心やニーズも相当あると思われる。観光関係者は、外国人と接して得られたニーズ、不満などをその場限りのものとせずに関係者と共有する、さらに、訪日外国人の満足度などをアンケート調査で分析して、その経験を次に生かしていく姿勢が重要である。不満を1件10円で買い取り企業に売る「不満買取センター」がメディアでよく紹介されている。RIETIでもアンケート調査により業務改善の努力をしているが(注4)、インバウンド観光でも顧客の声に経済的価値も見いだし積極的に活用していくことが重要である。ビッグデータの活用も有効な分野であろう。

日本のおもてなしは一般に評価されているものの、WEF競争力ランキングの「外国人訪問客に対する人々の歓迎度」は74位と低く、「企業幹部がビジネス旅行で初めて訪問した際に観光による旅行延長を勧める割合」は125位と最低レベルで、改善すべきところはまだ多いと思われる。パリでも、観光協会と商工会議所が、各国毎の旅行者への接し方をウェブサイト"Do You Speak Touriste?"(注5)で指南している。2014年末に発表された「東京都長期ビジョン」で示された、観光ボランティアが主要駅周辺などで外国人旅行者に声をかける「街なか観光案内」などの国際観光振興策は注目される。しかし、多くの自治体においては、国際観光振興を重点施策にあげるものの外国人の受入体制の準備不足、財源、人員不足が課題であり(公益法人日本交通公社他(2014))、民の力も生かした体制整備が必要である。

顧客の立場を経験することが有効

満足度の高いサービスを提供するには、アンケートなどにより顧客満足度を調査するのに加え、サービス提供者の経営者や従業員が、自ら関係するサービスの顧客の立場を経験し、気づかなかったニーズを発見したり理解していくことも有効である。米ノースウェスタン大学のコトラー教授は、企業経営者がサービス文化を従業員に浸透させるインターナル・マーケティングが重要としている(コトラー他(2003))。従業員の顧客経験はサービスの質向上のための経営者との相互作用をより有用なものにしていく、いわば、「カスタッフ」(カスタマー+スタッフ)効果ともいえよう。

2014年秋から労働政策審議会で、5割未満に低迷する有給休暇取得の取得促進策の検討が始まった。観光関係者が有休も利用して、顧客の立場を経験する機会が増えれば、インバウンド観光の質の向上に大きく寄与すると思われる。

2015年1月7日掲載
脚注
  1. ^ 2007年以降公表されており、最新は2013年版。79の項目があり総合順位は日本は14位。
  2. ^ 平成25年年次報告書では、訪日中にしたことでは、「日本食を食べること」(96.6%)、「ショッピング」(77.2%)が多い。一方、今回したことの満足度をみると、「日本の生活文化体験」(70.0%)、「日本の歴史・伝統文化体験」(67.9%)が高い。また、次回日本に訪れたときにしたいことは、「日本食を食べること」(47.0%)、「温泉入浴」(47.0%)が多い。
  3. ^ http://www.cnn.co.jp/travel/35041240.html
  4. ^ RIETIでは、公開で行うシンポジウム、セミナーについて、開催の都度参加者にアンケートをして満足度などを記入いただいている。また、毎春、RIETIの活動全体の評価について、ウェブでアンケート調査を行っている(回答者には書籍を抽選でプレゼントしている)。集計結果は、独立行政法人評価委員会に報告し公表している。
    http://www.meti.go.jp/committee/summary/0001580/pdf/046_s01_00.pdf
  5. ^ http://doyouspeaktouriste.fr/#&panel1-1
参考文献

2015年1月7日掲載

この著者の記事