新春特別コラム:2009年の日本経済を読む

求められる骨太の国家戦略 -2050年の世界秩序を見据えて-

小黒 一正 コンサルティングフェロー

大野 太郎 財務総合政策研究所研究官

2050年の世界秩序 - 国際戦略の再構築

現在、各国はアメリカを震源地とする金融危機の対応に奔走中である。短期的には、財政・金融政策の協調、公的資金の注入、金融機関の一時国有化、不良債権の開示・監視体制の強化(オフバランスの金融商品も含む)や、IMF・世界銀行の資金援助等を通じて、国際経済・基軸通貨体制の支援を進めていく見通しが高い。

だが、国際政治の専門家の中には、長期的視点においてこの危機を世界秩序変化の兆しと捉える者も多い。実際、以下の図表1を見てみると、2000年と比較して、2050年の各国人口順位は大きく変化する。2000年の上位5位は1.7億以上に過ぎないものの、2050年は概ね3億以上の人口超大国が上位を占める。国力は人口・軍事・経済等の総合要因から構成され、そのうち人口は大きな要因となる。そのため、世界秩序を形成する国力は2050年に大きく変化する可能性がある。こうした視点から、欧州各国がEUという形で人口を統合し、インド・中国・アメリカと同等の国力を形成していく戦略を選択したとも解釈できる。

他方、人口大国という巨人がうごめく中、日本はどうするか。地政学的観点から、中国のパフォーマンスの高まりを踏まえ、アメリカとの関係をより強化していくか。あるいは、文化的に異質性のある、他のアジア諸国との連携を模索していくか。また、スイスや北欧諸国のように、大国ではないが生活水準の高い国を目指していくか。いずれにせよ、これから大きく変化していく可能性が高い国際政治で生き残るため、国際戦略の再構築が求められている。

図表1 2050年の各国人口(単位:千人)
2000年2050年
国名総人口国名総人口
1中国1,275,215インド1,531,438
2インド1,016,938中国1,395,182
3アメリカ合衆国285,003アメリカ合衆国408,695
4インドネシア211,559パキスタン348,700
5ブラジル171,796インドネシア293,797
6ロシア145,612ナイジェリア258,478
7パキスタン142,654バングラデシュ254,599
8バングラデシュ137,952ブラジル233,140
9日本127,034エチオピア170,987
10ナイジェリア114,746コンゴ民主共和国151,644
(略)(略)
15トルコ68,281日本109,722
(出典)国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(2005年)

国際戦略・経済戦略・財政戦略の連携を強化せよ

また同時に、国際戦略を支援する経済戦略も重要である。日本は人口減少により、マクロでの経済規模は縮小する可能性がある。だが、生活水準は一人あたりGDPによって規定される。このため、人口が減少しても、生活水準の維持・向上は十分可能である。問題は競争が激化するグローバル経済においてどの分野を強化し、生活水準の維持・向上を図っていくかである。その際、日本の強みは豊富な金融資産、環境・科学技術、高い教育による人的資本などであるため、Means-Ways-Endsアプローチ(ボトム・アップ方式)による入口(Means)から強化分野を模索するケースが多い。

だが、日本が生み出す財・サービスを購入する国(顧客)を意識して、逆のEnds-Ways-Meansアプローチ(トップ・ダウン方式)による出口(Ends)から強化分野を模索する視点も重要である。このとき、Endsに位置するインド・中国・アメリカなどの人口大国は無視できない。特に中国を中心とするアジア諸国が関心をもつ質の高い財・サービス(質の高い医療・介護・教育サービス、日本独自の環境を武器とする観光、アジア版プライベートバンク、日本独自のファッション・美・食・娯楽など)のうち、他国との差別化・ニッチ戦略として、プロダクトサイクルが長い分野を強化していく経済戦略を模索するのも1つの視点ではないか。

図表2 国家戦略 = 各戦略の連携
図表2 国家戦略 = 各戦略の連携

グローバル化を踏まえた財政戦略 - 戦略的な租税条約交渉を

加えて、国際戦略・経済戦略を支援する手段として、財政戦略も重要な鍵を握る。1980年代半ば以降、日系企業の海外進出は急速に高まった。海外進出した現地法人は既に成熟化し、またそこで再投資を繰り返す結果、海外での生産・販売拠点は多岐に及んでいる。そして近年、日系企業は海外で獲得した利益でグループ全体を支える構図すらできつつある。今後、日系企業の海外進出は一層高まることが予想され、こうした企業の海外事業活動を支える環境整備としてEPAや投資協定、租税条約、社会保障協定といった各種協定の役割が一層重要となろう。

ここでは特に「租税条約」について焦点を当てたい。国際的な投資活動は複数国間にまたがる経済活動であるため、そこから得られた所得に対しては当該複数国から課税されるといった国際的二重課税のリスクにさらされる。したがって、国際的な投資活動を阻害しないためにも、こうした二重課税の排除が必要となる。

一方、グローバル化は経済活動を複雑化させるため、それを逆手にとった国際的租税回避などの不法行為を助長する。租税回避の抑制は、それまで生産性のない租税回避活動に振り向けられていた資金を生産性のある健全な投資活動へと回帰させ、資本の効率的資源配分の点からも重要である。このように、投資交流の促進とともに不当な租税回避を抑制する国際課税スキームが求められ、今日、その役割を果たしているのが「租税条約」である。昨今、国際課税問題の中でとりわけ企業の関心が高い事項は、不測の移転価格税制が適用されることによる二重課税の発生リスクをいかに回避するかという点であろう。基本的には有形・無形資産の利益配分などについて企業の取引実態に即した事前確認を、政府・企業間で円滑に実施することができるようにする仕組みが必要であり、租税条約において事前確認制度に関する規定を含むような取り組みも求められている。

ところで、この租税条約は二国間で締結され、現在、日本は45ヶ国との間で条約を締結し、56ヶ国との間で適用されている。長期的観点から捉えれば、今後、日本と今日以上に結びつきを強める国も出てくるであろうし、それによって新規に条約を締結すべき国も出てこよう。また、現在深い結びつきのある国との間においても、経済環境の変化によって時代に即した投資環境整備の修正が常に求められる。しかしながら、当局における租税条約交渉のマンパワーには限りがあるため、実際、1年に締結・改正される条約数は1~2本程度とならざるをえない。そのため、どの国と条約交渉を行うかは重要な選択である。EPAや投資協定、社会保障協定といった各種協定にも当てはまることであるが、今後は上述したような国際戦略・経済戦略に即した交渉国の選択と、実態に即した投資環境の整備が一層求められるであろう。

図表3 近年における日本の租税条約締結状況
<発効>
2004年アメリカ【全面改正】
2006年イギリス【全面改正】
2006年インド【部分改正】
2007年フランス【部分改正】
2008年パキスタン【全面改正】
2008年オーストラリア【全面改正】
2008年フィリピン【部分改正】
<署名済>
カザフスタン【新規】
ブルネイ【新規】
<交渉中>
オランダ【改正】
アラブ首長国連邦【新規】
クウェート【新規】
サウジアラビア【新規】
スイス【改正】
2009年1月6日

2009年1月6日掲載

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