コロナ第3波と日本経済の展望

小黒 一正
コンサルティングフェロー

わが国における新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は2020年8月から一時的に収束していたが、11月から再び感染が拡大し始めている。図表1の「折れ線(青色)」は日々の陽性者数、「棒グラフ(赤色)」は日々の死亡者数を表すが、グラフの形状から判断しても、現在は「コロナ第3波」といっても過言ではない状況となっている。

図表1:陽性者数と死亡者数の推移
図表1:陽性者数と死亡者数の推移
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(出所)Our world in dataのCOVID-19 datasetから筆者作成

このような状況において、2021年の日本経済の展望はどうか。それは、ファイザー社やモデルナ社が開発したワクチンの効果や副作用リスクのほか、今後のCOVID-19の感染状況などに依存するために予測は極めて難しいが、直近のマクロ経済の情勢についても認識しておくことが重要となる。

では、直近のマクロ経済の情勢として参考となる指標は何か。そのひとつは、定期的に内閣府が公表する「四半期別GDP速報」だろう。直近の速報(執筆時点12月上旬)は、2020年12月8日に公表した「四半期別GDP速報」(2020年7-9月期 2次速報値)であるが、このデータから何が読み取れるか。

まず、図表2の「季節調整系列」で確認してみよう。この系列は、2000年1-3月期から2020年7-9月期における原系列の名目GDPにつき、季節要因を考慮して年換算に推計したもので、ピーク時の値は2019年7-9月期の564.3兆円となっている。

COVID-19の感染拡大や4月上旬の緊急事態宣言による外出・営業の自粛により、2020年4-6月期の名目GDPは511.0兆円に落ち込んだが、5月下旬の緊急事態宣言の全面解除のほか、2020年度の第1次・第2次補正予算やその後の経済活動の緩やかな回復に伴い、同年7-9月期の値は539.0兆円まで持ち直してきている。

もっとも、経済活動の回復はまだ途上であり、2020年7-9月期の名目GDPの水準は、ピーク時(2019年7-9月期)と比較して依然として約25兆円も低い水準にある。

図表2:名目GDPの推移(季節調整系列)
図表2:名目GDPの推移(季節調整系列)
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(出所)内閣府「四半期別GDP速報」(2020年7-9月期 1次・2次速報値)

このため、政権内部の一部から「30―40兆円」の追加の経済対策が必要との声も上がり始めているが、図表2は、季節調整を行い、四半期データを年換算にした推計値であり、原系列データでも確認する必要がある。

では、図表3の原系列データでは何が分かるか。現時点(2020年11月下旬)では、2020年10-12月期の値は誰も分からないため、図表2では、2000年-2020年の四半期別GDPデータを用いて、それぞれの年の1-9月の合計値を折れ線で描いている。この折れ線のピーク時の値は2019年1-9月の合計値(416.4兆円)だが、このピーク時の値と比較して、2020年1-9月の合計値(396.0兆円)は約20兆円落ち込んでいる。

図表3:名目GDPの推移(原系列)
図表3:名目GDPの推移(原系列)
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(出所)内閣府「四半期別GDP速報」(2020年7-9月期 2次速報値)

したがって、仮に2020年10-12月期の値が2019年10-12月期と同程度の水準までに回復すると、2020年の名目GDPは2019年よりも約25兆円の落ち込みでなく、約20兆円減に留まることになる。

この関係で重要なのは経済活動の回復のスピードだが、これは図表4のとおり、原系列データを用いて、2019年と2020年のデータを比較すると分かる。緊急事態宣言の発動もあり、最も厳しかった2020年4-6月期の値は、2019年4-6月期と比較して、12.5兆円も落ち込んでいる。しかしながら、緩やかに経済活動が回復し始めていた2020年7-9月期の落ち込みは、2019年7-9月期と比較して、6.3兆円にまで縮小している。

このトレンドが継続すれば、2020年10-12月期は7-9月期よりも改善する可能性もあるが、それは今後の感染状況に大きく依存するだろう。先般(2020年12月8日)、政府は臨時閣議で追加の経済対策(一般会計や財投等の財政支出40兆円規模)を決定したが、冬で気候が変わり、新型コロナウイルスの感染拡大の兆候が再び見られるなか、いま日本経済は正念場を迎えている。

もし感染が一層拡大し、2020年4月―5月のような再自粛となれば、社会活動・経済活動に及ぼす被害は一層拡大するリスクを抱えているが、この冬を乗り切れば状況は大きく変わる可能性がある。COVID-19のワクチン開発の動きもあるが、感染症対策の基本は検査・追跡・隔離であることは、この一年で明らかとなった。いまこそ感染症対策と経済活動の両立を図るため、我々がお互いに感染の有無を確認でき、安心して通常の活動ができるよう、検査体制などの抜本的な拡充を行う必要性があろう。

図表4:四半期別GDPデータ(2019年と2020年の比較)
図表4:四半期別GDPデータ(2019年と2020年の比較)
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(出所)内閣府「四半期別GDP速報」(2020年7-9月期 2次速報値)

2020年12月14日掲載

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