自動車の社会的コスト:モーターバイクは危険な乗り物なのか?

西立野 修平 コンサルティングフェロー

交通事故の経済的損失効果は年間5000億ドル

自動車は、mobilityを拡大させ、人々の生活を豊かにする重要な手段である。一方、自動車の使用には、社会的費用(交通事故、環境汚染、騒音、渋滞など)を伴う。その中でも特に、交通事故は、深刻かつ早急の対応が求められる問題である。WHO 「Global Plan for the Decade of Action for Road Safety 2011-2020」によると、全世界で毎年130万人(毎日3000人)が交通事故によって命を落としている。そのうち約90%は、低・中所得国の人々である。何も対策が行われない場合、交通事故の死亡者数は年間240万人に達すると予測されている。交通事故は、人々に身体的苦痛のみならず、経済的な損失を与える場合が多い。その経済損失効果は、年間約5000億ドルに達すると推計されており、各国のGNPの1~3%(平均)に相当する (WHO, 2010)。

この研究論文は、モーターバイクの普及とその交通事故への影響を明らかにすることを目的としている。ここでのモーターバイクとは、二輪・三輪自動車(道路走行用)を指す(例:スクーター、モペット、トゥクトゥク等)。モーターバイクに分析の焦点を当てたのは、交通事故がより深刻な問題となっている低・中所得国において、モーターバイクが主要な交通手段としての役割を果たしているためである。また、バイクドライバーが交通事故で死亡する確率は、乗用車と比較すると、30倍程度高い(National Highway Traffic Safety Administration [NHTSA], 2012)。実際、全世界ベースで見ると、バイクドライバーが交通事故死亡者数に占める割合は23%(WHO, 2013)で、途上国によっては、その割合が50%を超す国もある。

本研究では、パネルデータ(153カ国、1963-2010年)を独自に構築し、固定効果(Fixed-effects)モデルにより、各種推計を行った。分析により三つの興味深い結果が得られた:1)一人当たりの所得水準とモーターバイクの所有台数との間には逆U字の関係(モーターバイク・クズネッツ曲線)が存在する、2)その逆U字の関係は、人口密度高い国でより顕著に見られる、3)モーターバイクの所有台数と交通事故の死亡者数の間には正の相関関係が存在する。以下では、それぞれの分析結果に関して説明し、最後にこの研究成果から得られる政策的含意を述べる。

モーターバイク・クズネッツ曲線!?

本研究の最大の貢献は、初めて、実証的にモーターバイクに関してクズネッツ曲線が存在することを明らかにした点にある。クズネッツ曲線とは、低所得から中所得段階へ移行する過程においては、モーターバイクの所有台数が増加するが、ピークに達した後は、継続的にモーターバイクの所有台数が減少する現象のことを指す。グラフ1は、回帰分析の結果を基にして、1人当たり所得と自動車の保有台数の関係について、タイプ別に示したものである。モーターバイクについて見ると、緩やかではあるものの、1人当たりGDPと人口1000人当たりのモーターバイクの所有台数の間に逆U字の関係(転換点は1人当たりGDP約7000米ドル)が存在することが確認できる。また、クズネッツ曲線の存在は、モーターバイク特有である点は、大変興味深い。乗用車(Cars)やトラック(Trucks)について見てみると、こうしたクズネッツ曲線を発見することはできなかった。さらに、重要な発見は、モーターバイク・クズネッツ曲線は、人口密度の高い国でより顕著に見られる点である(グラフ2)。我々は、他の要因(都市化、気温等)がクズネッツ曲線に影響を与えるか調べたが、有意な結果は得られなかった。

グラフ1:1人当たり所得と自動車の保有台数の関係(タイプ別)
グラフ1:1人当たり所得と自動車の保有台数の関係(タイプ別)
(出典)Nishitateno and Burke (2014)
グラフ2:1人当たり所得とモーターバイクの保有台数の関係
グラフ2:1人当たり所得とモーターバイクの保有台数の関係
(出典)Nishitateno and Burke (2014)

モーターバイクの増加は、交通事故による死亡者数を増加させるのか? 答えは、“イエス”である。我々の分析結果によると、総自動車保有台数に占めるモーターバイクの割合が1%ポイント上昇すると、交通事故の死亡者数は0.5%増加する。さらに、その効果は、乗用車よりも大きい。これらの結果は、バイクドライバーが、歩行者と並んで、道路上の弱者であることを示唆している。バイクドライバーの脆弱性は、保護機能の欠如、ドライバーの低い平均年齢、運転免許取得の容易さなどに起因していると考えられる(Asian Development Bank, 2003)。

途上国は、今後、何をするべきか?

2010年3月、国際連合により「Global Plan for the Decade of Action for Road Safety 2011-2020」が採択された。このことにより、現在、増加傾向にある世界の交通事故死亡者数を減少に向かわせるという最終目標が、多くの国によって共有された。そして、さまざまなレベルで、その目標を達成するための取り組みが行われている。我々の分析結果は、発展途上国、中でも人口密度の高い国(インド、ベトナムなど)において、モーターバイク関連の交通事故死亡者数が、今後増加することを示唆している。このような国では、モーターバイク専用の走行レーンの整備、ヘルメット着用の義務化やその運用の厳格化、ライセンス取得の厳格化などが、交通事故による死亡者数を減らす上で重要な施策であると考えられる。

本稿は、Nishitateno, Shuhei & Burke, Paul J, 2014. "The Motorcycle Kuznets Curve," Journal of Transport Geography, Elsevier, vol. 36, pages 116-123. を要約したものである。

2014年4月22日掲載
参考文献
  • Asian Development Bank, 2003. Road Safety Guidelines for the Asian and Pacific Region. Asian Development Bank, Manila.
  • National Highway Traffic Safety Administration, 2012. Traffic Safety Facts: 2010 Data. National Highway Traffic Safety Administration, Washington D.C.
  • World Health Organization, 2010. Global Plan for the Decade of Action for Road Safety 2011-2020. World Health Organization, Geneva.
  • World Health Organization, 2013. Global Status Report on Road Safety 2013: Supporting a Decade of Action. World Health Organization, Geneva.

2014年4月22日掲載