理系出身者と文系出身者の平均年収の比較

西村 和雄 ファカルティフェロー

定説の妥当性

これまで、「文系卒の年収が、理系卒の年収を上回っている」で定説があった。1980年代後半のバブルの時期には、35歳で、金融業界は年収が1000万円、製造業界は600万位であった。金融業界では、理工系出身者の採用を増やし、理工系から年収の高い金融業に就職する者も多くなっていた。

90年代に入って、バブル崩壊後に、縮まったとはいえ、年収格差が存在し続けてきた。しかし、金融業界にいる理系学部出身者は、それなりに年収が高く、製造業で働く文系学部出身者は、金融業で働く文系学部出身者に比べて年収が低い。金融業と製造業の年収の格差とは、厳密に言うなら、理系・文系の格差ではなく、業種による格差である。金融業に文系、製造業に理系が相対的に多いことから、文系の方が、理系より、年収が高いという事が言われたのであろう。

特定の大学などについて、特定の学部、たとえば、経済学部の卒業生と工学部の卒業生について、年収を比較するとする。もし、その大学の文系卒業生の多くが、銀行・証券会社に就職し、工学部の卒業生の多くが、製造業に就職していたら、文系の方が年収が高いという結果が得られたとしても、不思議ではないであろう。

また、一般に、大企業の社長、取締役に理系学部出身者が少ない事も指摘されてきた。これも、業種に依る。IT関連業種では、理系学部出身者が、社長や取締役の多数を占める企業もある。

それでは、無作為に抽出して、理系と文系の平均年収を比較すると、どのような結果が得られるであろうか。このような問題意識から、一般の大学卒の平均年収を2008年6月に調査した。

それ以前には、2000年と2001年に、2回にわたって、私立3大学の社会科学系学部の卒業生の平均年収を調査したことがある。その時は、入学試験で数学を選択したグループと数学を選択しなかったグループに分けて調査をした。当時、「数学は勉強しても社会で役に立たない」ということが、よく言われていたため、実際はどうであるかを検証するのが、目的の1つであった。

その結果は、共通一次試験実施(1979年)以降の入学者に限ると、2000年の調査で、数学受験者が748万円、数学未受験者が641万円、2001年の同様の調査では、数学受験者が709万円、未受験者が639万円の平均年収であった。どちらも、数学受験者の年収の方が高いという結果が得られている。

これに対する解釈として、文系であっても、数学を学ぶことで培われる論理的思考が、個人の職業能力を高めているという見方もあるかもしれないが、それを証明することは難しい。しかし、数学を学ぶことで、職業選択の幅が広がり、それが平均年収を上昇させるということは言えるであろう。

理系・文系の平均所得調査

さて、2008年調査は、これまでの調査と同様、八木匡教授、浦坂純子准教授(同志社大学)、平田純一教授(立命館アジア太平洋大学)と共同で行ったものである。

前回の文系のみの調査は、郵送でアンケートをとったが、今回はインターネット調査を行った。予め、予備調査で、9万近いサンプルに配信した上で、大卒者の6870人に配信をし、2152人の有効回答の中から、分析で用いる変数について欠損値のない1632人を分析対象とした。

その結果、平均年収は、文系学部出身者が583万円で、理系学部出身者が681万円と、文系よりも約100万円高いものであった。

このデータの信頼性をみるためにも、以前に調査した文系卒業者の調査結果と比較してみた。今回の調査の回答者の中から、文系学部出身者を選び、数学受験者と未受験者の平均年収を調べてみると、前者が636万円、後者が506万円と、これまでと同様に、数学受験者の年収の方が高いという結果が得られた。

さて、理系と文系の比較に戻ると、25歳から60歳までの各年代のすべてで、理系の年収が高い。また、文系は、所得の幅が大きく、理系の方が所得格差が小さいという結果が得られた。

次に、出身大学を入学難易度の高い順に、A、B、Cとグループ分けして、それぞれのグループの理系と文系の平均年収を比較してみた。すると、グループAの理系の年収が最も高く、グループBの理系は、グループAの文系の数学未受験者の年収をすべての年代で上回り、60歳の時点では、グループAの文系数学受験者を上回っていた。グループCの理系は、グループBの数学未受験者を55歳以下のすべての年代で上回っていた。

調査結果の再検討

更に我々は、慶應義塾大学によって収集された「日本家計パネル調査(JHPS)」データを利用して、2010年の12月に、理系学部出身者と文系学部出身者との所得差を再検討してみた。JHPSは、制度・政策の変更に対する経済主体の行動変化を分析することを目的に、同一個人を継続的に追跡できるように実施された、高い精度の調査方法によるデータである。

その結果、男性のみに限ると、文系学部出身者・理系学部出身者共に約46歳の平均年齢で、文系学部出身者が559.02万円で、理系学部出身者が600.99万円と、理系学部出身者の方が高い平均年収であった。

しかも、理系学部出身者の方が正規比率が高く、役職者比率は理系学部出身者の方が大きく上回るという結果がえられた。

この結果をどう説明するかであるが、先ず、理系が文転することはあっても、文系が理転することは稀であることから分かるように、理系の方が職業の選択肢が広いという事がある。しかも、事務系より、技術系の方が、再就職し易いのは明らかであろう。

しかし、この調査結果を持って、日本の理系学部出身者が、十分に恵まれていると結論付けるつもりはない。アメリカの場合、需要の高い専門家は非常に高い年収を得ている。日本も、技術者の年収を、もっと高くしていかなければ、外国人の技術者を雇用するのが難しくなる一方、優秀な技術者が海外に流出することにもつながるであろう。

2011年3月1日

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2011年3月1日掲載