「週休3日制」導入による経済・社会変革を

岩本 真行
コンサルティングフェロー

公的資金に頼らない内需拡大策の必要性

政権交代した昨年の夏以降、「コンクリートからヒトへ」のキャッチフレーズの下、家計の可処分所得の直接的な底上げによる内需拡大策について議論がなされている。しかしながら、家計の可処分所得を底上げするための一方策として検討されている子育て手当などは、言うまでもなく公的資金に依存するものであり、公的資金に頼らずどのようにして長期的に内需を拡大していくのかという点については、いまだ具体策が出てきていないのが現状である。巨額な財政赤字を抱える我が国においては、公的資金に頼らない内需拡大策の検討が喫緊の課題である。

内需拡大のためには経済の「サービス化」が不可欠

それでは、公的資金に頼らずして内需を拡大するためには、どのような政策が必要なのだろうか。キーワードとなるのは「経済のサービス化」である。経済のサービス化とは、産業構造に占めるサービス産業(第三次産業)のシェアが高まることを意味する。高度成長期以降、「工業立国」としての地位を築いてきたわが国の産業構造は、米国、英国などの欧米先進国に比べるとサービス産業の占めるシェアが小さい。すなわち、経済のサービス化が後れているのである。これは、裏を返せば、我が国は相対的にサービスの潜在需要を多く有しているということである。したがって、我が国の内需を拡大するためには、エコカー減税により自動車を購入させるなどのモノに着目した需要喚起策よりも、むしろ対個人サービスなど国民が潜在的に持つサービス需要を喚起するための政策に注力すべきなのである。

鍵となる概念は「可処分時間」

それでは、公的資金の注入に頼らず国民のサービス需要を喚起する良い策はあるのだろうか。鍵となるのは「可処分時間」という概念である。可処分時間とは、労働などにより拘束される時間を除いた自由に使える時間のことを指す。わかりやすい言葉に言い換えれば「余暇」である。この可処分時間が多ければ多いほど、ヒトは趣味に時間を費やしたり、モノやサービスを消費するため、経済・社会活動の活性化につながるのである。特に、飲食店、エステサロン、娯楽などの対個人サービスの消費は、必然的に時間を伴うものであるため、これらの消費を拡大させるためには国民の可処分時間の拡大が必須となる。このように、我が国のサービス需要ひいては内需を拡大するためには、可処分時間の拡大を避けては通れないのである(注1)

週休3日制の導入により可処分時間の拡大とワーク・ライフ・バランスの改善を

国民の可処分時間を拡大させるための最も効果的な政策は週休日数の増加である。現行の週休2日制を週休3日制に改めれば、勤労者の可処分時間は飛躍的に増大する。さらに、週休3日制の導入は、可処分時間の増加にとどまらず、さまざまな付随的効果をもたらす(注2)

第1に、労働生産性の向上である。現行の週休2日制では、5日間連続で勤務することとなるため、木曜日、金曜日あたりになると心身の疲労により労働生産性は低下してしまう。ところが、仮に水曜日を土、日に次ぐ第三の休日とすれば、連続勤務日数は2日間となり、心身ともにリフレッシュされた状態を保ちながら仕事することが可能となり、勤労意欲ひいては労働生産性の向上に寄与するだろう。加えて、企業側においても、週休3日制の導入により従来5日間でさばいていた業務を4日間でさばかなければならなくなるため、生産性向上のための抜本的な対策(IT利活用の見直し、ワークシェアリングの導入など)を真面目に検討する良いきっかけにもなるだろう。

第二に、ワーク・ライフ・バランス(WLB)の変革である。週休3日制の導入により、現在「ワーク」に偏っている我が国のWLBは「ライフ」にその重心を移し、公私のバランスに抜本的な変革がもたらされることとなる。さらに、国民のライフスタイルにも質的な変化がもたらされるだろう。今から15年前、週休2日制が導入された際にも、それまで不可能だった土日を利用した宿泊旅行が可能となるなど、国民の休日の過ごし方に変革がもたらされた。水曜日が第3の休日となったら、国民のライフスタイルはどのように変わるだろうか。各自の想像にゆだねることとしたい。

週休3日制を導入した国の例

週休3日制を厳格な制度として導入している国を私は把握していないが、週休3日制の是非を検討するに当たって参考となるのがオランダモデルである。オランダは、世界で最もワークシェアリングが進んでいる国の例として取り上げられることが多い。オランダの雇用システムの特徴は、パートタイマーが多いことである。OECD統計によれば、オランダでは労働者の約3分の1がパートタイマーであり、それらのパートタイマーのうち多くが週休3日で働いている。このように、オランダでは週休3日で働くスタイルがある程度浸透しているのである。

週休3日制の本格的な検討を

週休3日制を実際に導入するためには、労働基準法をはじめとする各種法令の改正、国民の理解の取り付け、企業に対する支援など、さまざまな課題をクリアする必要がある。しかし、これまで見てきたように、週休3日制は、効果が不明確な月並みな政策とは異なり、経済・社会に着実に変革をもたらす力強さを持ち合わせている。

今後、本政策が政府与党を中心に本格的に検討されることを、一行政官として、そしてまた一国民として、切に期待したい。

2010年1月26日

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脚注
  1. 休暇の拡充に伴う経済効果を推計した先行研究として、「休暇制度のあり方と経済社会への影響に関する調査研究委員会報告書(経済産業省・国土交通省、平成14年)」がある。この報告書では、年休の全取得による経済波及効果は11.8兆円、これによって新たに創出される雇用は148万人と推計している。
  2. インターネット上で約2万人を対象にして行われた希望する週休日数に関するアンケート調査の結果では、約半数に相当する1万759人が週休3日制を希望すると回答している。この結果からもわかるように、週休3日制は国民にも大きく支持されている。

2010年1月26日掲載