中国経済新論:実事求是

中国の台頭で変貌する世界貿易

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

改革開放以来、中国は貿易の自由化と直接投資の受け入れを通じて世界経済との一体化を進めている。2001年の世界貿易機関(WTO)加盟を経て、そのペースは一段と加速し、中国はまもなく米国を抜いて世界一の貿易大国になろうとしている。これを背景に、日米をはじめ、主要国にとって、中国は輸入先としてだけでなく、輸出先としての重要性も増しており、「米中間」と「日中間」貿易は、「日米間」貿易に取って代わって、太平洋貿易の中心となった。また、中国は、世界の工場としてだけでなく、世界の市場としての重要性も高まっている。

世界一の貿易大国となる中国

中国の輸出入は、1978年には計206億ドルと世界第29位であり、2001年でもまだ世界第6位だった。だが2010年になると、輸出は1.58兆ドル、輸入は1.39兆ドルに達し、輸出入合計では2.97兆ドルと、米国(輸出は1.28兆ドル、輸入は1.91兆ドル、輸出入計では3.19兆ドル)に次ぐ世界第2位となっている。2011年に入ってから、輸出入の月別データでは、米国との差がさらに縮まり、7月以降、ついに逆転している。年間では、早ければ今年に、遅くても来年に中国が米国を抜いて世界一の貿易大国になる可能性が高い(図1)。

図1 米国を上回るようになった中国の貿易規模
図1 米国を上回るようになった中国の貿易規模
(注)貿易規模は輸出額と輸入額の合計。
(出所)中国と米国の通関統計より作成

輸出に限ってみると、2000年に世界7位だった中国の輸出総額は、WTOに加盟する2001年にカナダを抜いて第6位に、2002年には英国を抜いて第5位に、2003年にはフランスを抜いて第4位に、2004年には日本を抜いて第3位に、2007年には米国を抜いて世界第2位に、2009年にはついにドイツを抜いて世界第1位となった(図2)。

図2 中国の輸出総額と世界ランキングの推移
図2 中国の輸出総額と世界ランキングの推移
(出所)WTO, International Trade Statistics 各年版より作成

貿易規模の急拡大とともに、世界貿易に占める中国のシェアは高まっている。2000年から2010年にかけて、輸出は、3.9%から10.4%へ、また、輸入は3.4%から9.1%に上昇している(図3)。これに対して、米国と日本のシェアは輸出においても、輸入においても、大幅に低下してきている。

図3 日、米、中の世界貿易総額に占めるシェアの推移
図3 日、米、中の世界貿易総額に占めるシェアの推移
(出所)WTO, International Trade Statistics 各年版より作成

太平洋貿易の主役交代

これを背景に、日米をはじめとする主要先進国にとって、貿易相手国としての中国の重要性が高まっている(表1)。

表1 中国、米国、日本の二国間貿易概況(2010年と2000年の比較)
表1 中国、米国、日本の二国間貿易概況(2010年と2000年の比較)
(注)日本の輸出入額は各年の年平均レートを使って円からドルに換算している。
( )内は「対世界」に占めるシェア。
(出所)中国、米国、日本の通関統計より作成

まず、2000年から2010年にかけて、米国の輸出に占める中国の割合は2.1%から7.2%へ、輸入に占める中国の割合は8.2%から19.1%へと上昇している。米国にとって、中国はすでに隣国のカナダとメキシコを抜いて、最大の輸入相手国となっている。一方、米国の対日輸出依存度は8.3%から4.7%へ、輸入依存度も12.0%から6.3%へと低下している。

また、同じ時期に、日本の輸出に占める中国の割合は6.3%から19.4%へ、輸入に占める中国の割合は14.5%から22.1%へと上昇している。これに対して、日本の輸出に占める米国の割合は29.7%から15.4%へ、輸入に占める米国の割合は19.0%から9.7%へと低下している。日本にとって、2002年以降中国は米国に代わり最大の輸入相手国となっており、2009年には、対中輸出も対米輸出を上回るようになった。

これに対して、中国にとって、日米両国の貿易相手国としての重要性はむしろ低下している。2000年から2010年にかけて、中国の輸出に占める米国と日本の割合は、それぞれ20.9%から18.0%へ、16.7%から7.7%へ、また輸入に占める米国と日本の割合もそれぞれ9.9%から7.3%へ、18.4%から12.7%へと低下している。

米国と日本は、お互いに対する輸出と輸入の依存度が低下しているだけでなく、二国間の貿易額も縮小しており、太平洋貿易の主役は、日米貿易から、米中貿易と日中貿易にシフトしてきている(図4)。

図4 変貌する日、米、中貿易トライアングル
-2010年と2000年の日米、日中、米中貿易額の比較-

図4 変貌する日、米、中貿易トライアングル
(注)輸出入計。ただし、双方の輸出をベースに計算(例えば、日中貿易額は日本の対中輸出と中国の対日輸出の合計)。日本の輸出額は各年の年平均レートを使って円からドルに換算している。
(出所)中国、米国、日本の通関統計より作成

「世界の工場」から「世界の市場」へ

工業製品の輸出が急速に伸びてきたことを背景に、中国はWTOに加盟した2001年頃から世界の工場と呼ばれるようになった。輸出の拡大とともに輸入も伸びているが、加工貿易のウェイトが極めて高いことから、輸入の中で国内市場向けの最終製品よりも中間財の割合が高かった。しかし、所得が向上するにつれて、中国が最終製品の市場としての魅力も増している。現に輸入に占める加工貿易の割合は、2000年の41.1%から2010年には30.0%に低下してきている。その代わりに非加工貿易の割合は上昇しており、それに比例して、国内市場向けの最終製品の割合も高まっていると見られる。

直接投資の面においても、中国は、生産基地としてだけでなく、最終製品の市場としての重要性も増している。経済産業省の「海外現地法人四半期調査」によると、日本企業の中国(香港を含む)での生産の内、現地販売の割合は2002年の35.1%から2010年には63.4%に上昇してきている。特に、自動車の場合、日系メーカーにとどまらず、各国メーカーも中国での生産の大半を現地で販売している。2009年に中国の自動車販売台数は米国を抜いて世界一の規模となり、2010年には1,806万台に達した(米国は1,177万台)。

このように、中国は、世界の工場としてだけでなく、世界の市場としてもその地位を固めている。中国は、すでに日本を抜いて世界第二位のGDP大国となっており、これからも先進国を上回るペースで成長し、そのエンジンも外需から内需に転換することが予想されることを合わせて考えると、世界経済をけん引していく力がますます高まっていくだろう。

2011年11月30日掲載

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