中国経済新論:実事求是

Fortune 500社に見る中国企業の実力
― 国有企業の優位はいつまで続くか ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

米経済誌「フォーチュン」は今年7月に、2003年の売上高(金融機関の場合、営業収益)を基にした企業番付「世界500社」を発表し、ランクインした中国(本土)企業は10年前の3社から14社に増えた。今回新たに登場したのは国家電網、上海宝鋼、上海汽車の3社である。前回に引き続き「世界500社」入りした中国企業はこのほか、中国石油化工、中国石油天然気、中国人寿、中国移動通信、中国工商銀行、中国電信、中国化工進出口、中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行、中糧集団の11社である(表)。しかし、これらはすべて政府の規制によって守られた独占力の強い国有企業であり、近年目覚しい成長を見せている多くの非国有企業は、いまだ上位に姿を現していない。

これらの企業は巨大ではあるが、その資本と労働の生産性といった面において、世界のトップ企業との格差はまだ大きいと言わざるを得ない。その典型例は、膨大な人員と多額の不良債権を抱えている四大国有銀行である。繰り返される公的資金による不良債権の処理と資本強化にもかわわらず、その従業員一人当たり営業収益と総資産収益率(ROA)はいずれも非常に低い水準に留まっている。政府からの政策面と資金面の支援がなければ、四大銀行は、利益を上げるどころか、もはや債務超過の状況に陥っているはずである。

一方、上海宝鋼と上海汽車が中国の製造業企業として、初めて「世界500社」入りを果たし、これは、世界の工場として中国が浮上してきたことを象徴する快挙であると中国では大いに取り上げられている。しかし、世界の工場としての中国がまだ脆弱であるように、これを支える製造業企業も世界との距離が非常に遠いと言わざるを得ない。

全体で461位にランクされた上海汽車は、世界の自動車メーカーの中でも32位にランクされているが、その売り上げは業界首位である米国のゼネラルモータースの6%に過ぎない。その上、2003年に上海汽車が生産した乗用車の大半はフォルクスワーゲンとゼネラルモータースとの合弁によるもので、自前の製品開発または製造能力を持っているわけではない。それでも、売上高利益率と総資産利益率(ROA)は同業の中でそれぞれ4位と1位にランクされているが、これは、中国の自動車市場が高い関税に守られているという特殊事情に依っている。実際、上海汽車をはじめ、中国の自動車メーカーはいまだ国際競争力を持たず、その製品が中国から一歩でも外に出ると、まったく通用しなくなる。

一方、全体で372位に位置する上海宝鋼は、世界の鉄鋼メーカーの中では、第7位にランクされている。収益性が比較的に高いのに対して、労働生産性は同業他社よりずっと低い。たとえば、業界第2位の新日鉄と比べて、上海宝鋼の従業員の数は2.2倍であるのに対して、売り上げは56.2%しかなく、一人当たり売上高は、その25.5%に留まっている。逆に従業員一人当たり利益は新日鉄を超えている。低い生産性と高い収益性が両立できていることは、政府の産業政策に守られて、市場競争が欠如していることを表している。

海爾(ハイアール)を始め、多くの中国企業が、「世界500社」入りを目指している。この目標を達成するためには、コーポレート・ガバナンスの構築はもちろんのこと、国有企業による独占を打破し、非国有企業に平等な競争環境を与えなければならないなど、乗り越えなければならないたくさんのハードルが待ちかまえている。

表 Fortune 500社にランクインした中国企業
表 Fortune 500社にランクインした中国企業
*同誌はその後中国石油天然気集団公司の順位を52位(中国2位)に訂正している
(出所)2004 Global 500 『FORTUNE』July 26, 2004

2004年8月11日掲載

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