中国経済新論:中国の産業と企業

中国企業と多国籍企業との距離

張鋭
中華工商時報

国民経済の実力は、その国内企業の実力によって体現される場合が多い。従って、多国籍企業がますます身近な存在となった今日、われわれにとって改めて中国企業の実力についてじっくりと考える良い機会である。

小さな規模

現代企業の競争は、多くの場合、企業の規模の競争によって行われる。従って、近年、国際市場における合併と買収(M&A)の荒波が逆巻いている。古い歴史を持つ多国籍企業あるいは新興の多国籍企業の前においては、中国の企業は非常に弱小である。多国籍企業は、中国企業にとって、まったく対抗できない巨人となっている。

中国の総合国力は決して低いものではない。生産額では、石炭、セメント、綿布、テレビが世界第一位、鉄鋼と化学繊維が世界第二位、電力は世界第四位、そして、原油と合成ゴムは世界第五位である。しかし、一社の規模が非常に小さい。2002年、中国の鉄鋼の生産高は、アメリカのそれを超えているのに、1700社に上る中国の鉄鋼企業は、一社も世界上位500社にランク・インしていない。126社に及ぶ中国の自動車メーカーによる一年の生産量は、わずか200万台あまりで、ゼネラルモーターズの一年間の生産量と同じである。

周知の通り、地方の保護主義、部門間の障壁、既得権益層による抵抗などは、中国企業の前進を妨げる重い足かせになっている。多くの中国企業は規模の拡大を図ろうとしたときに、行政による理不尽な介入に直面し、地域、部門、企業の所有制を越えた統合を実施することができず、仕方なく自力発展の道を選択しなければならない。従って、各地に似通っている産業構造ができてしまい、資源の無駄使いが深刻である。また、激しさを増す価格戦争により、多くの企業は体力を消耗し、瀕死の状態に陥っている。また、誰もが他社に買収されることを嫌うため、買収しようとしても相手がなかなか見つからない。一国の経済の強さと弱さを測るのは、一部の地域より、むしろ国家全体の競争力で判断すべきである。自国をベースにした強い多国籍企業を作り上げるには、分断された産業の連関をリンクさせ、企業間の実質的な統合を進めなければならないのである。

曖昧な所有権

20年間に及ぶ中国経済の高度成長のスピードは目を見張るものがある。それは、市場経済制度の優位性をよく物語っている。今後更に成長し多国籍企業を追い上げるには、一層の制度建設が必要である。

国務院発展研究センター技術経済部部長である郭励弘は、技術、資金、人材は、「後発優位性」を生かして乗り越えることができるが、しかし制度を越えることは不可能であると述べている。第二次世界大戦以降のアメリカ経済が、高度成長を遂げたことは、その経済制度によるものが大きい。開放的、かつ公平な競争制度、明白かつ有効な所有権制度ならびに柔軟性に満ちた融資のメカニズムがなければ、ニュー・エコノミーは、経済学者の幻想に留まるだけであろう。こうした市場経済の制度こそ、世界各地の資金、技術と人材に強大な吸引力を生み出し、アメリカ経済もまさしくこれを頼りに、繁栄を実現したのである。これまでの20年間、中国が世界最大の投資受け入れ国の一つとなっている背景には、改革開放を通じて、良好な投資環境が作り出されたことが挙げられる。「巣」を築き上げたからこそ、「鳳凰の受け入れ」(世界各地からの企業の中国への投資)や、「卵の孵化」(中国本土企業の世界上位500社入り)も初めて実現可能となったのである。

しかし、中国の企業は、明らかに多くの問題点を抱えている。まず、大型企業の大半を占める国有企業に対して、これまで多くの形で改革が行われてきたが、所有権改革の立ち遅れによって、所有権問題が解決できず、資金難の上に、従来の経営の硬直化と効率の低下が加わり、国有企業と多国籍企業との距離を短期間で縮小することは依然として難しい状態にある。また、中国工業上位500社の中、集体企業は25社で全体の5%を占めているが、こうした大企業の発展は、主に閉鎖的な所有権制度によって制限されている。中国にある大多数の集体企業では、企業の職員と集体企業の財産との関係がほぼ固定されているため、職員達の企業への就職や退職にとって障害となっている。これは、生産要素の自由な流動と資源の合理的な配置に不利であるだけではなく、企業規模の拡大と競争力の上昇をも制限している。さらに、民営経済のガバナンスは相対的に健全であるが、所有権の保護が不十分であるため、資本の蓄積が非常に緩慢であり、規模と実力の迅速な強化は不可能である。従って、短期間のうちに民営企業が多国籍企業を追い上げることは難しい。20数年という発展を経た現在においても、民営企業はいまだに主役になっていないのが現状である。中国工業上位500社に民営企業が2社しかない。民営企業の所有権の保護を強化しない限り、こうした企業の今後の発展は、度々挫折に見舞われるであろう。

資本市場は、企業の成長の中で最も重要な役割を果す。しかもこうした市場は、開放的かつ競争的でなければならない。だが、「国有株による一極支配」の現実は、一目瞭然である。さらに、現在の資本市場には、敗者を退場させるメカニズムがいまだに欠けている。市場には経営不振に陥っている企業が溢れているにもかかわらず、多くの優秀な企業が証券取引所に門前払いされ、資金調達に困っている。正常のルートから資金の調達ができなければ、企業は果たしてどのように規模の拡大を図ることができるのだろうか。株式市場の整備状況は決して十分ではなく、中小企業、とりわけ民営企業は、資金をのどから手が出るほど欲しがっているにもかかわらず、その調達の手段を持っていない。その一方で、株式市場には大量の投機的な資金が出回っている。このように、中国企業が多国籍企業を追い上げる長い道のりにおいて、資金面からの有効なサポートが必要である。

未熟な経営

多国籍企業と中国大企業との経営上の格差は、もはや明らかである。ローランド・ベルガー(Roland Berger Strategy Consultants)の宋新宇によれば、自らに適切な発展モデルを確定できたかどうか、コア・コンピタンスを持っているかどうか、R&D能力を重視しているかどうか、企業経営者のリーダーシップが発揮されているかどうかといった要素が、中国企業の経営における主要な問題である、という。

中国企業は、長期の企業戦略をあまり重視しない。宋新宇によれば、企業戦略は、企業集団戦略と業務競争戦略によって構成されている。企業集団戦略とは、企業はどのような分野に進出し、どの業務を維持、あるいは中止すべきかといったことを指す。それによって、企業の発展の方向は、多角化なのか、それとも専業化なのかということが確定される。これに対して、業務競争戦略とは、各業務の領域において、どのようにして市場、競争相手そして自分の状況を徹底的に理解した上で、長期的かつ有効な方策を設定するかということである。競争戦略を設定、そして実施することによって、企業は競争相手を弱体化させ、自らの競争能力の強化という目的を実現することができる。

近年、多角化経営は、多くの中国企業が積極的に推進してきた経営戦略である。企業は必死に新しい分野への拡張とそれに伴う相乗効果を追究するが、しかし成功したのは、ほんのわずかである。企業の規模が拡大すると、すぐ「大企業病」になる。近年、一部の高成長に成功した新興企業が現れてはすぐさま消えてしまったのは、経営が規模に追いつかないことと大きく関係している。なぜなら、多角化戦略を実施するためには、その必要な資源、主力業務の十分な発展、さらに企業のコア・コンピタンスが欠かせないからである。

企業経営機能の自由度の大きさは企業経営の組織構造に大きく左右される。海外企業のフラット型の組織構造と比べると、中国の組織構造は、ピラミッド型の集権経営という特徴を持っている。意思決定は上層部によってなされ、それが命令という形で下層に伝達される。多くの場合、一人が命令し、一部の人々がそれを実施し、さらに一部の人々がその流れを監督する。意思決定者は自らの経験あるいは構想で企画すると、各部門と職員は思考なしで実行に移すことになっている。彼らは全体の結果ではなく、ただ流れの具体的部分にしか責任を負わない。なぜなら、企業の総責任者が、その結果を負っているからである。このような分業体制の結果、人間はもはや機械の延長に過ぎなくなり、従業員達は単純な機械労働の繰り返しの中で自己を見失ってしまうのである。彼らには、達成感もインセンティブもなく、それゆえに効率も失ってしまう。従って、縦型の集権経営から横型の分権経営への移行を実現することは、中国企業と多国籍企業との距離を縮小する重要な一歩である。

世界上位500社に追いつくために、わが国では、シード選手の選別が行われた。「方正」、「長虹」、「ハイアール」、「華北製薬」などはその一部である。現在、「ハイアール」の営業利益は、米国の「Fortune」誌に公表された世界500社の最下位にある企業の半分である。500社入りを目指す作戦の中、その差を従来の19分の1から現在の2分の1にまでするには、丸5年間におよぶ困難に満ちた努力を必要とした。「ハイアール」が年間30%の成長率を達成すると計算すれば、二年おきにその規模が倍になるはずである。CEOである張瑞敏の話によれば、「世界上位500社への仲間入りには、更に5年間が必要である」というが、世界上位500社になるためのハードルは徐々に上がっている。中国の企業は、長いマラソンを走る心理的準備を整えなければならない。長い距離にわたる競争において、経営は最も重要である。それを重視しないと、われわれはシード選手達の途中退場を無念な思いで見届けることになりかねない。

研究開発力の欠如

市場経済制度の革新及びこれまでにない競争の激化によって、技術革新はすでに企業の運命を左右する最も重要な要素になっている。1970~80年代は「日本の時代」であったと言えよう。世界最上位の20社の殆どが日本の会社によって支配され、「日本はアメリカを買収する」と言う者さえ現れた。しかし、現在、IT革命及びバイオ技術革命が、産業発展の推進を大きく左右する中、アメリカ人がニュー・エコノミーの豊富な成果を収穫している時に、日本人は自らの対応が遅れ、チャンスを逃したことを悔やむしかないのである。

情報技術及びバイオ技術を起爆剤に、新しい経済成長の波が巻き起こっている。世界企業を見渡すと、技術革新が最も活発に行われている情報技術と生物化学という二つの業界が、最も速く成長し、最も利潤をあげているのである。かつてビル・ゲイツのマイクロソフト社は、31%の利潤率によって世界上位500社の首位を獲得した。つまり、100ドルの商品を売れば、31ドルの儲けができる計算となる。「チップの王様」であるインテル社が23.1%でその後につけていた。さらにデルといった新型企業がすばやく上位500社への仲間入りを果したことで、アメリカは全世界における覇権的地位を不動のものにしたのである。現在、ITバブルの崩壊という不安材料が、こうした企業の未来に影を落としているが、技術が企業の将来を決定付けるという信念が依然としてこうした企業を支えている。さらに、2001年「Fortune」誌に公表された世界最新上位500社の企業の中で、Glaxo & Welcome(英)とPfizer(米)がそれぞれ23%と22.8%の利潤率によって、自らの順位を6位および8位と上昇させている。

企業は独占的な技術とR&D能力を持たなければ、市場での成長と拡大は非常に難しい。多国籍企業と比べると、中国企業のR&D能力は非常に脆弱である。中国の工業企業の技術レベルは、先進諸国と比べ15~20年の差がある。中国の自動車産業は、いまだに独立して新しいモデルを開発する能力を持っていないことは、業界分析によって明らかにされている。多バルブエンジン、自動変速機、電子メーター、自動ナビゲーションなどは、基本的に全く開発していない。電子産業における超大規模集積回路に関していえば、先進諸国の電子部品のIC化率は70%と世界平均の40%を大きく上回るが、中国は10%以下になっている。世界上位500社がR&Dに投入した費用は、世界R&Dの総費用の65%以上を占めており、一企業がR&Dに投入した費用がその売上高に占める割合は、10-20%であるのに対して、中国の大中型工業企業のその割合は、わずか1.4%に留まっている。技術でのギャップは企業の格差より恐ろしいものである。仮に技術が世界に追いつけていかなければ、中国企業が多国籍企業に追いつくことは、遠い夢に過ぎない。

遅れた観念

われわれの心理的な準備ができているかに関係なく、多国籍企業は、今以上の規模で中国への進出を果たすであろう。多くの中国企業は、多国籍企業との格差を直感し、一部の大型企業では多国籍企業に学ぼうとする動きがすでに見られる。これは間違いなく、中国企業にとって良いことであるが、では、一体何を勉強すればいいのであろうか。

長い間、中国の経営者の間では一種の「国情論」が流行していた。すなわち、中国企業には自らの特殊性があり、欧米型の経営モデルをそのまま利用するわけにはいかないという考え方である。実際には、経営に国籍はなく、現代化の経営原則はどこの人にしても守らなければならないものである。専業ソフト開発における世界最大手であるアメリカCA社のCEOである王嘉廉によれば、中国企業が多国籍企業に仲間入りを果たすために最も重要な条件は、従来の考え方とルールを改めることであるという。

北京で開かれた「変革期における企業経営ゼミナール」において、王嘉廉は、仮に中国の企業家達が今後も従来の思考パターンで企業運営を行うと、非常に難しい状況が避けられないであろうと指摘した。それは、決して金銭上のロスだけではなく、むしろ時間と機会の喪失であり、結果的に、世界の流れに追いつけなくなることである。そして、最先端の技術を追求するより技術を使いこなそう、と王嘉廉は中国の企業に進言した。さらに、単純に技術のために技術を開発するのではなく、新たな発想が必要である、と彼は言う。つまり、実験室に閉じ籠もって、世界を驚かせる「大発見」を目指すより、現在持っている技術が、企業と業務にどのような付加価値をもたらすことが出来るのかを考えるべきである。欧米の人々は中国の四大発明を見習い、さらにそれを基礎にし、新たな発展を遂げたことで、中国を失敗に追い込む技術を開発した。従って、中国人も同様に、世界で最も優秀な技術を習い、さらにそれを応用することによって、自らの価値を作り出さなければならない。こうした学習と応用の基礎に立って、世界を追い越す技術革新がはじめて可能となるのである。

多くの場合、中国企業は少し成功すればすぐ満足してしまう。そして、長期的視野を持つ企業家が少ない。経営者にとって、自分がすでに成功者であるという意識は絶対持つべきではなく、むしろ永遠にハングリー精神と危機感、さらに絶えず前向きの精神を持つべきであると、王嘉廉は言う。現在、企業の競争が速度の競争である以上、企業は非常に速いスピードで意思決定を行うことが求められている。企業の規模が拡大するにつれ、ほんの小さなミスでも深刻な結果を招きかねない。過ちが発見されたら、すばやくそれを修正しなければならない。企業にとって、最も重要なのは、自らが成功するまでの方向と進路をよく理解することである。目先しか見えないと、すぐ袋小路に入って出られなくなる。

官僚主義は、企業の活力を蚕食するウィルスである。人治の思想と等級の観念は、いまだにわが国の企業の中に蔓延している。多くの企業には「家長」の影が見えており、企業文化が盛んに主張されているが、それは依然として「家文化」にの域を越えていない。これは、人間のコミュニーケションを妨げる一つの障害であり、企業の活力を失わせている。

そして、規模より競争力が重要である。中国石油化工集団公司、中国糧油食品輸出入有限公司、そして中国銀行といった中国企業は、すでに世界企業上位500社に選ばれている。しかし、こうした企業は、みな国家と政府の力を頼りにしている国有企業であり、国際市場においては依然として競争力に欠けている。多国籍企業は、その規模によって定義されているが、仮に企業が、単に規模だけが大きくて、競争力が殆どないとしたら、激しい市場競争からすぐ退場させられることになるだろう。従って、中国企業が本当に多国籍企業になろうとする場合、政府の保護と各種の優遇政策を頼りにするのではなく、厳しい市場競争を生き抜くことのできるスーパー戦士にならなければならないのである。

2003年5月26日掲載

出所

中華工商時報
※和文の掲載にあたり中華工商時報の許可を頂いている。

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2003年5月26日掲載

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