中国経済新論:実事求是

トップ500社から見た中国企業の実力
― 依然として大きい世界との格差 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

米国のFortune誌が毎年、世界企業上位500社を発表しているが、その中国企業版ともいうべき「中国企業発展報告」が今年初めて中国企業連合会、中国企業家協会から発表された。中国上位500社の営業収益は中国のGDPの6割強にあたり、今や中国国民経済の主体となっている。しかし、中国上位500社と世界上位500社との間には依然として大きな格差が存在しており、また様々な深刻な問題を抱えているのである。

第一に、中国上位500社の企業規模は大きく拡大しつつあるとはいえ、世界上位500社と比べると依然として小さく、しかも労働生産性が非常に低くなっている。2001年の中国上位500社の平均資産規模と平均営業収益は、世界上位500社のそれぞれ6.5%と5.3%に過ぎず、また一人当たり営業収益、一人当たり利潤、一人当たり資産はそれぞれ12.9%、29.6%、15.9%に過ぎないのである(表1)。

第二に、企業の利益をあげる能力や革新能力にも大きな格差がある。2001年の中国上位500社の平均利潤は、世界上位500社のわずか12.1%に過ぎない。また、技術革新に関するインセンティブシステムが整っていないため、中国企業の技術革新に対する投入が少なくなっている。営業収益に占めるR&D支出額の割合を見てみると、世界上位500社の多くが10%を超えているのに対し、中国上位500社は3.8%にしか過ぎない。この結果、中国企業の技術革新は非常に制限され、いまだにコア技術を持たず、製品の高度化および付加価値の増加を妨げているのである。

第三に、国際化の水準にも大きな格差がある。中国の大企業は、ほとんどが輸出を通じて国際市場へ参入しており、直接海外で生産を展開し、グローバルな販売ルートを獲得した企業は数える程しかない。つまり多国籍企業にふさわしい組織構造や経営戦略を持つ企業はほとんど存在していないのである。

最後に、500社の内、国有企業は企業数の6割を占め、営業収益、利潤、資産、従業員数についてもそれぞれ80%以上を占めている(表2)。中国トップの11企業(国家電力公司、中国石油化工集団公司、中国石油天然気集団公司、中国工商銀行、中国銀行、中国移動通信集団公司、中国化工輸出入総公司、中国電信集団公司、中国糧油食品輸出入有限公司、中国建設銀行、中国農業銀行)が世界上位500社にもランクインしているが、これらすべては政府の規制によって守られた、独占力の強い国有企業である。しかもその中には多額の不良債権を抱えている四大銀行が含まれており、その体力は非常に疑わしいものである。実際、国有企業は巨大ではあるが、その資本と労働の生産性は他の所有形態には遠く及ばない。これに対して、近年、目覚しい成長を見せている多くの非国有企業は、まだ上位に姿を現していない。

海爾(ハイアール)を始め、多くの中国企業が規模の拡大を通じて、世界のトップ500入りを目指している。この目標を達成するためには、コーポレート・ガバナンスの構築はもちろんのこと、国有企業による独占を打破し、非国有企業に平等な競争環境を与えなければならないなど、乗り越えなければならないたくさんのハードルが待ちかまえている。

表1 中国と世界のトップ500企業の比較
表1 中国と世界のトップ500企業の比較
(出所)『中国企業発展報告』(2002)企業管理出版社、Fortune誌(2002年7月23日)
表2 中国のトップ500企業の所有形態構成
表2 中国のトップ500企業の所有形態構成
(出所)『中国企業発展報告』(2002)、企業管理出版社

2002年11月29日掲載

2002年11月29日掲載