中国経済新論:中国経済学

産業政策を巡る大論争
― 問われる政府と市場の役割分担 ―

関志雄
経済産業研究所

中国では、労働力不足という供給側の制約を受けて、従来と比べて経済成長率は大幅に低下しており、「投入量の拡大から、イノベーションを通じた生産性の上昇へ」という経済発展パターンの転換を迫られている。これを背景に、経済政策の在り方を巡って、活発な議論が交わされている。中でも、この秋に5年ぶりに開催される中国共産党全国代表大会を前に、政府と世論に強い影響力を持つ北京大学の林毅夫教授と張維迎教授の間で起こった産業政策の是非を巡る論争が、メディアでも大きく取り上げられ、広く関心を集めている。

ここでいう産業政策とは、狭義では、政府が次に国を牽引する産業部門(リーディングセクター)を選び、その産業を優遇措置によって保護し育成する政策のことである。その具体的手段として、政府主導による融資資金の配分、関税などの貿易保護政策、税制優遇措置、研究開発への補助金の支給、土地価格の優遇措置、政府調達における国内産品優遇措置などが挙げられる。広義では、政府が市場に代わって財・サービス(公共財)を供給する政策を含む。

今回の論争の主役となった林毅夫教授と張維迎教授は、いずれも欧米のトップ大学で博士号を取得した中国を代表する経済学者である(BOX参照)。二人とも、1995年に近代経済学を中国に伝える最初の本格的拠点として設立された北京大学中国経済研究センター(2008年に北京大学国家発展研究院に再編)の創設に尽力した。しかし、林教授と張教授は、政府と市場の役割分担についての考え方が大きく異なっており、経済政策を巡って、絶えず論争してきた。

林毅夫教授と張維迎教授の間でこれまで交わされた論争

林毅夫教授と張維迎教授の間で交わされた最初の論争は、1995年に起こった国有企業改革の進め方を巡るものだった。張教授は、国有企業が経営者を選抜し、経営者に対して長期的なインセンティブを与えるメカニズムには致命的な欠陥が存在するという認識の下で、国有企業に残された唯一の道は、民営化改革を通じて、経営者を選ぶ権利を政府の役人の手から資産を所有している人の手に移すことであると主張した。一方、林教授は民営化こそ国有企業改革を成功に導く唯一の方法であるという考え方に反対である。それよりも、市場経済を実現し、合理的市場価格メカニズム、そして競争的市場と情報指標の体系を形成させることで、国有企業改革に対し良好的な外部環境を提供することが重要であると強調した。また、国有企業を(課せられた社会保障と産業政策の機能による)政策的負担から解放し、その「自生能力」を育成することが、国有企業改革を成功に導く鍵であり、仮に国有企業が「自生能力」を持っていなければ、民営化しても改革は成功できないと考えた。

続いて、2004年に、北京大学中国経済研究センター創立10周年記念のイベントで、林毅夫教授と張維迎教授が「中国経済の発展」について対照的な予測を発表した。林教授は、中国経済が8%の成長率を保ちながら20、30年の間持続的に発展し、2030年には中国が世界一の経済大国になるに違いないという楽観論を展開した。これに対して、張教授は、今後、中国が企業の所有制問題を解決できなければ、持続的な経済成長ができないだろうと警告した。

さらに、2014年7月に開催された「楊小凱の没後10周年記念シンポジウム」において、「後発優位」を発揮するために政府と企業家(市場)が発揮すべき役割を巡って論争した(注1)。林教授は「新構造経済学」から出発し、「途上国の場合、政府は自国の比較優位を発見する必要がある」と主張した。その上、議論の焦点は、「政府介入の必要性」ではなく、どのような政府介入が経済発展を促進できるのか、どのような政府介入は失敗を引き起こすのかでなければならないと指摘した。これに対して、張教授は、企業家しか自身の比較優位を見つけることはできず、政府が市場に対する介入から身を引かなければ、中国が本来享受できる「後発優位」が「後発劣位」に変質してしまいかねないと警告した。

経済発展における政府と市場の役割は、2016年夏に、再び林毅夫教授と張維迎教授の「産業政策」を巡る論争の焦点となった。8月21日に林教授は復旦大学で開催された「産業政策:総括、反省と展望」というシンポジウムで行った「経済発展を成功させるために産業政策が欠かせない」と題した基調演説において、途上国が後発優位を発揮し、先進国を追い上げるために、比較優位に基づいて産業政策を策定・実施することが必要であると強調した。これに対して、張教授は、8月25日に西安で行われた「亜布力中国企業家論壇」で、産業政策が計画経済と同様に政府の能力への過信に基づいたもので、必ず失敗すると反論した。これをきっかけに、両者の間の論争が再燃し、2016年11月9日に、北京大学国家発展研究院が主催する「産業政策討論会」で、ついに直接対決が実現された(注2)。

林毅夫教授の産業政策擁護論

今回の論争において、経済発展における政府の役割を重視する林毅夫教授は、産業政策の必要性について、次のように訴えている。

先進国か途上国かを問わず、経済を発展させるための技術のイノベーションと産業の高度化を実現するには、企業家個人の努力だけではなく、産業政策を通じた政府による支援も必要である。経済学者は、産業政策の失敗を恐れて、産業政策に一律に反対してはならない。むろん、産業政策は経済発展の必要条件だからと無条件で賛成してもいけない。大切なのは産業政策の成功と失敗の原因を究明し、政府が産業政策を実施する際に、失敗の確率を抑え、成功の確率を高めることである。

経済発展を判断する基準は一人当たり所得の増加であり、その前提は生産性の向上である。生産性の向上には二つの方法がある。一つは技術の面におけるイノベーションを通じて、既存産業の商品の品質を向上させる一方で生産コストを低下させること、もう一つは産業の高度化を通じて、労動力、土地、資本などの生産要素を付加価値のより高い産業に配置することである。これらを実現させるには「有効な市場」と「有為な政府」の共同作業が必要である。

技術のイノベーションと産業の高度化に向けて、新しい分野への進出に挑む企業家(イノベーター)が求められているが、政府は彼らに一定のインセンティブを与えるべきである。彼らが成功できるかどうかは、個人の勇気、知恵、才能だけで決まるものではない。特に、新興産業が必要とする資本とリスクの規模は従来の産業より大きいため、それに相応するさらなる資本動員、リスクを効果的に分散させる金融制度が必要である。また、技術のイノベーションと産業の高度化、資本集約度の上昇と経済規模の拡大に伴って、市場範囲と取引額も拡大されるため、交通、電力、港などインフラ関係や、法律・法規といった制度環境も整備する必要がある。最後に、イノベーターは失敗した場合、すべてのコストを負う一方で、成功した場合、真似をする人が後をたたないため、利益を独占できない。これらの問題の解決は個別のイノベーターの能力を超えており、政府の支援が求められている。

途上国の政府が産業政策を実施する際、支援の対象を潜在的な比較優位を持つ産業に限定すべきである。政府がもしそれらの産業で先行している企業に対して、補助や、ソフト面とハード面のインフラを整備していくような形で支援できるならば、潜在的な比較優位が発揮されるだろう。具体的に、先進国への追い上げを目指す途上国は、産業政策を策定する際、六つのステップを踏むべきである(表1)。

表1 途上国が産業政策を策定する際に踏むべき六つのステップ
―林毅夫教授による提案―
政府は、経済が高度成長を遂げ、自国と似た生産要素の賦存状況を持ちながら、一人当たりの所得が自国の倍ぐらいに当たる国を選び、過去20年間で、それらの国で急成長した産業をリストアップする。
それらの産業に、国内の一部の民営企業がすでに進出しているならば、該当産業の技術向上、参入を妨げる障害を見つけ、排除する。
国内企業がまだ参入していない分野について、当局は海外から直接投資を誘致すると同時に、新しい企業育成計画を作成する。
ステップ①でリストアップした産業に加え、政府は民営企業が自ら発掘する新しい産業への進出も支援する。
インフラとビジネス環境が遅れている国では、経済特区や工業パークなどを通じて、参入や外資直接投資の障害を排除し、産業群の形成を支援する。
上記産業に率先して参入しようとする企業に対し、政府は一定期間の税制優遇措置を与え、投融資協力を実施し、外貨の取得を容易にすべきである。
(出所)張維迎、林毅夫『政府の限界 張維迎、林毅夫が注目した中国経済改革の核心的問題』民主と建設出版社、2017年3月より筆者作成

しかし、実際は、多くの途上国において、政府が「追いつけ、追い越せ」を目標に、比較優位のない産業を支援してしまい、それらの企業は市場において競争力を持たず、政府の補助金を頼りに生き延びている。先進国においても、米国と欧州の農業政策に象徴されるように、雇用維持のために、比較優位を失った産業を支援し続けることがしばしばである。このように、比較優位に沿うかどうかは、産業政策の成否を決めるカギであるという。

張維迎教授の産業政策反対論

林毅夫教授の産業政策擁護論に対して、張維迎教授は、市場メカニズム重視の立場から、次のように批判している。

産業政策は姿を変えた計画経済に過ぎない。中国政府は、改革開放に転換してから、公式には計画経済を放棄したが、政府が相次ぎ打ち出した数多くの産業政策は、依然として企業家精神の発揮や市場経済の発展を妨げている。中国だけでなく、海外においても、産業政策の成功例はめったになく、失敗例が多い。その原因は、当局の政策立案能力には限界があることと、産業政策の実施により官僚と企業家のインセンティブが歪められること(モラルハザードの問題)にある。

まず、産業政策の支持者は、技術進步と新興産業が予測可能であるという前提を立てるため、計画できると主張するが、この前提は全く成り立たない。イノベーションには不確定性がつきもので、将来どういう産業が生まれるのか、どういう技術が最も大切なのかは予測できない。今、世界を牽引している主要産業であるインターネット、新エネルギー、バイオ医薬品などは、30年前の人々は一つも予測できなかった。同じように、今の人も30年後のことを予測できないだろう。

それにもかかわらず、産業政策に沿って、限られた資源を政府が選定した優先目標に注ぎ込むことは、まさに大きな賭けであると言える。そもそも官僚がある技術の重要性を認識した時、その技術は大体時代遅れになっている。仮に専門家に産業政策を作ってもらってもうまくいかないだろう。専門家は専門知識を持っているが、イノベーションが必要とする機敏さを持っていない。仮に企業家に頼んで産業政策を作ってもらっても無理である。政策の作成を任せられるほどの企業家は大体成功者であるが、過去の成功は未来の成功の保証にはならない。経済発展に大きなインパクトを与えたイノベーションのほとんどは、名も知られていない企業家によるもので、ビジネス界の著名なリーダーによるものではない。

また、官僚のインセンティブは企業家と全く違う。企業家の失敗や成功は、完全に自分の「損失」もしくは「収益」につながる。それに対し、官僚は成功しても相応の収益を得られないが、失敗したら出世に響きかねないため責任逃ればかり考える。具体的なやり方は、専門家の意見を伺うことや、中央や上層部の政策や命令を忠実に実行すること、もしくはほかの地域のやり方を真似することだけである。どの産業を優先させるかは、多くの場合、科学と知見に基づいたものではなく、利益調整の結果であるにすぎない。実際のところ、利益を享受するのはイノベーション精神を持っている本当の企業家ではなく、補助金などを目当てにするレントシーカーばかりである。中国における太陽光発電システムや新エネルギー車への優遇措置がその典型である。その上、政府が特定の産業を支援する場合、失敗するまでやめず、時にはミスを隠すために失敗してからもやめないことすらある。それゆえに、これらの産業は、生産過剰になりがちである。

林毅夫教授は、経済発展における比較優位の利用と産業政策の実施を通じた比較優位の発揮を同時に強調しているが、それは論理的に矛盾しており、事実とも合わない。最初に比較優位の理論を提唱したリカードをはじめ、多くの経済学者が指摘しているように、市場こそ比較優位を最もうまく発揮させる仕組みである。改革開放前の中国において比較優位が発揮できなかったのは、まさに当時の計画経済体制の下で、市場の役割が完全に否定されていたからである。これに対して、その後、市場経済化が進むにつれて、比較優位が発揮できるようになったのである。

以上を合わせて考えると、あらゆる形の産業政策を放棄すべきである。政府はどの企業、どの産業であっても優遇する必要はなく、正真正銘の企業家はそれを求めるべきではない。特に強調したいのは、企業家が求めるべきなのは自分への特権ではなく、全員への平等な権利であるという。

産業政策よりも競争政策を優先せよ

このように林毅夫教授と張維迎教授の産業政策を巡る主張は正反対になっているが、これは主に経済発展における政府と市場の果たすべき役割への認識の相違を反映している(表2)。

表2 産業政策を巡る大論争の論点整理
賛成派 反対派
主な論者 北京大学林毅夫教授
シカゴ大学経済学博士
元世界銀行チーフエコノミスト(2008-12年)
北京大学張維迎教授
オックスフォード大学経済学博士
賛成/反対の理由 イノベーターがすべてのコストを負担するが、収益の一部は、競争の相手による模倣などを通じて外部に漏れてしまうため、彼らに一定の補償を与えるべき。 産業政策は姿を変えた計画経済に過ぎない
産業政策が失敗する理由 政府は比較優位に反する産業を優遇する。
例えば、途上国における重工業の育成と先進国による農業の保護。
官僚は必要な知識がない
汚職の温床
過剰設備の原因に
市場の失敗Vs政府の失敗 市場の失敗を補うために産業政策が必要 政府の失敗は市場の失敗より深刻
政府が果たすべき役割 経済発展に積極的役割を果たすべき
(有為な政府)
公共財の提供に限定すべき
(有限な政府)
産業政策Vs競争政策 産業政策を優先すべき 競争政策を優先すべき
(出所)筆者作成

林教授の産業政策擁護論は、政府への厚い信任に立脚しているのに対して、張教授の産業政策反対論は、政府よりも市場メカニズム、ひいては企業と企業家が信頼できることを前提としている。張教授によると、政府が分かることは自由な市場環境におかれている企業家がとっくに分かっており、企業家が分からないことは、政府に分かるはずもない。情報不十分・非対称の状況の下で、政府が的確に市場状況を把握することができないのに、企業や市場を自らが決める方向に無理やりに誘導する産業政策は、失敗してしまう可能性が高いという。

一般的に、公共財、外部性、情報の非対称性、規模の経済の存在といった「市場の失敗」が、政府による市場への介入の根拠となる。林毅夫教授はまさに「市場の失敗」を補うために、政府による産業政策の実施が必要であると主張しているのである。これに対して、張維迎教授は、産業政策の名の下で公共財以外の分野に政府が介入すること(狭義の産業政策)には反対し、警戒すべきは「市場の失敗」よりも「政府の失敗」であるという立場を取っている。

そもそも、産業政策と称して一部の産業に対して優遇措置を実施することは、逆にその他の産業への差別につながりかねない。これは「競争」と「公平」という市場経済の原則に反している。市場の資源配分の機能を発揮させるためには、産業政策よりも、参入障壁の除去などを通じて市場における公平かつ自由な競争を積極的に促進する「競争政策」を優先すべきである。科学技術のイノベーションは予測不可能であり、どの企業が成功できるのかは誰も分からない。政府がすべきことは、競争環境の整備を通じて、企業のイノベーション活動を活発化させ、イノベーションの成功率を高めることである。

中国経済が1980年代以降、高成長を遂げたが、これはまさに計画経済から市場経済への移行が進むにつれて、競争政策が産業政策に取って代わって経済運営の主軸となってきたことによってもたらされたものである。しかし、近年、一部の分野で見られる「国進民退」に象徴されるように、市場経済化の歩調は停滞していると言わざるを得ない。更なる市場化改革を目指して、習近平政権の経済政策綱領を示した「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」(2013年11月9日〜12日に開催された中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議において審議・採択)において、「市場に資源配分における決定的役割を担わせる」ことが明記されているが、この方針を貫くためにも、産業政策よりも競争政策を優先すべきである。

中国では、経済学者の意見は、政府の政策立案に参考されることが多い。2012年の秋に開催された前回の党大会に向けて、「中所得の罠を如何に回避するのか」、また「(リーマンショック後に実施された)4兆人民元に上る景気刺激策の功罪」を巡って経済学者の間で活発な議論が交わされ、これらは最終的には「供給側改革」の実施につながった。今回の産業政策を巡る論争も、今後の政策運営にどういう影響を与えることになるのかに注目したい。

BOX 林毅夫教授と張維迎教授の略歴

林毅夫教授は1952年に台湾に生まれ、台湾で大学教育を受けた後、1979年に現役の軍人として、対立関係にあった中国大陸に亡命した。その後、北京大学経済学部に入学し、経済学修士課程を経て、1982年にシカゴ大学に留学し、1986年に経済学博士号を取得した。1987年にエール大学のポストドクターを終え、改革開放後の経済学「洋博士」(注)の第一号として帰国した。国務院農村発展研究センター発展研究所副所長、国務院発展研究センター農村部副部長などの要職を歴任した後、1994年に北京大学中国経済研究センターの初代所長となり、2008年から2012年まで世界銀行のチーフエコノミストを務めた。学者として研究と教育に励みながら、中国政府のブレーンとしても活躍しており、政策に大きな影響力を持っている。林教授は、市場メカニズムの重要性を肯定しながらも、それを正しい方向に導く責任が政府にあると主張している。彼は発展には産業や企業などの構造変化が必要であることに着目し、その構造変化に対して政府がどのように関与すべきかに焦点を当てる「新構造経済学」を提唱している。

一方、張維迎教授は、1959年に陝西省の貧しい農村に生まれ、文化大革命後の大学入学統一試験再開の一期生として1978年に西北大学経済学部に入学した。修士号取得を経て、国家体制改革委員会中国経済体制改革研究所において改革の理論と政策の研究に携わった。1987年と1990年の二度にわたってイギリスのオックスフォード大学に留学し、1994年に同大学において経済学博士号を取得後、中国に帰国し、北京大学中国経済研究センターを経て、同大学の光華管理学院に移り、2006年9月に同院長に就任した。張教授は、企業理論に造詣が深く、1980年代から一貫して国有企業の民営化と民営企業への支援の必要性を主張してきた。近年繰り広げられている市場経済化を巡る論争において、常に「新自由主義」陣営の先頭に立っており、「利益集団の代弁者」という批判を恐れずに、企業家を擁護する立場を貫いている。

(注)中国語で海外で博士号を取得した人の意味。

脚注
  1. ^ モナッシュ大学の故楊小凱教授(1948-2004年)は、経済発展のプロセスにおいて、後発国は先進国の制度よりも技術を模倣する傾向が見られるが、これが「後発劣位」を招いてしまう恐れがあると警告した。すなわち、制度革新を行うことは従来の社会に対する変革を意味し、大規模な利害調整が必要になるため、常に大きな苦痛と高いリスクが伴う。従って、技術模倣の余地が大きいほど、制度改革が速まるどころか、むしろ改革が遅れてしまう恐れすらある。しかし、制度革新の代わりに技術ばかりを模倣することは、短期的には効果的であっても、長期的に見ると、コストが極めて高く、最終的には失敗してしまうことになる。楊教授は、その好例として、日本の明治維新とほぼ同時期に行われた清朝の「洋務運動」が対照的な結果をもたらしたことを挙げている。
  2. ^ 2016年夏以降の産業政策を巡る論争にかかわる文献は、『政府の限界 張維迎、林毅夫が注目した中国経済改革の核心的問題』(張維迎、林毅夫著、民主と建設出版社、2017年)に収録されている。
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2017年5月31日掲載