中国経済新論:世界の中の中国

保護主義に向かう米国・グローバル化を堅持する中国
― トランプ大統領の誕生で逆転する米中の立場 ―

関志雄 経済産業研究所

米国では、トランプ大統領の誕生を受けて、通商政策の保護主義色が鮮明になってきた。その一方で、中国は、米国との貿易摩擦を懸念しながらも、自由貿易を堅持し、グローバル化を目指している。対照的になった両国のスタンスは、トランプ大統領の就任演説(2017年1月20日)と習近平国家主席の世界経済フォーラム年次総会2017(ダボス会議)での基調講演(2017年1月17日)から伺うことができる。

保護主義を前面に出すトランプ大統領の就任演説

トランプ大統領は、就任演説において、米国における産業の衰退の原因をグローバル化に求め、対策として保護主義を掲げている。その要旨は、次のようにまとめられる。

何十年もの間、米国は、自国の産業を犠牲にして、外国の産業を豊かにしてきた。何兆ドルも海外で使う一方で、自国のインフラは荒廃し衰退してきた。取り残される何百万人もの米国の労働者のことを考えもせず、1つまた1つと、工場は閉鎖し、この国をあとにしていった。中間層の富は、彼らの家庭から奪われ、世界中で再分配されてきた。

しかし、それは過去のことである。これから「アメリカ第一」となる。貿易、税金、移民、外交問題に関するすべての決断は、米国の労働者とその家族を利するために下される。ほかの国々が、米国の製品を作り、米国の企業から盗み、米国の職を破壊する外国の侵害から、米国の国境を守らなければならない。保護こそが偉大な繁栄と強さにつながるのである。米国は雇用を取り戻す。国境を取り戻す。富を取り戻す。そして、夢を取り戻す。そのために「米国のものを買い、米国人を雇用する」というルールを守らなければならない、という。

トランプ大統領は、就任初日に、選挙公約を実行する形で、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱と、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を宣言した。三日後の1月23日には、TPP離脱の大統領令に署名した。

グローバル化を擁護する習近平国家主席のダボス会議における基調講演

トランプ大統領とは対照的に、中国の習近平国家主席はダボス会議の開幕式で行われた「共に時代の責任を担い、共に世界の発展を促す」と題した基調講演において、厳しく保護主義を批判した上、中国がグローバル化を堅持し、これを通じて自ら利益を享受しながら、世界にさらに貢献したいというスタンスをアピールしている。その要旨は、次のようにまとめられる。

揺るぎなく開かれた世界経済を発展させ、チャンスと利益を分かち合い、ウィンウィンを実現していく。波風に出会うたびに港に引き返していては、永遠に目的地にたどり着けない。グローバル規模でつながっていくことに全力を尽くし、世界各国がともに成長を果たし、繁栄に向かう。世界の自由貿易と投資を発展させ、開放的な環境で貿易と投資の自由化と利便性を促進し、保護主義に断固として反対する。保護主義は自分を暗闇に閉じこめるようなもので、雨風を避けたように見えるが、光と空気も得られなくなる。貿易戦争の結末は共倒れになるだけである。

また、中国の発展は世界にとってはチャンスであり、中国は経済グローバル化の受益者であり、貢献者でもある。中国経済の急成長は、世界経済の安定と成長にとって大きな推進力となっている。中国が多くの国々とともに発展することは、世界経済のよりバランスのとれた発展に貢献している。中国の貧困削減事業が収めた大きな成果は、世界経済の成長をより包摂的なものにした。中国の改革開放の推進は、開かれた世界経済の発展にとって重要な原動力となっている。

更なる対外開放に向けて、中国は、積極的に規制が緩く、秩序のある投資環境を作り、外資の参入規制を緩和し、レベルの高い自由貿易試験区を建設し、知的所有権の保護を強化し、公平な競争を促進し、中国市場をより透明的で、より規範化されたものにする。今後5年間で、中国が合計8兆ドルの商品を輸入し、6,000億ドルの外国投資を誘致することを目指す。各国企業にとって、中国の発展は相変わらずチャンスである。中国の門は世界に向けて、いつでも開かれており、閉ざされることはない。このようにすれば、世界が中国に入ることができ、中国も世界に進出できる。世界各国も中国の投資者に公平に門を開くことを期待している。

各国とのウィンウィン関係を構築するために、中国は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の建設と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉を推進し、世界に向けた自由貿易ネットワークを構築する。また、中国は人民元の切り下げによって貿易競争力を強化する意図はなく、ましてや、通貨戦争をする気などはまったくない。さらに、「一带一路」(新シルクロード)構想を積極的に推進する、という。

習近平国家主席のダボスでの講演に合わせて、国務院は、「対外開放の更なる拡大」「更なる公平な競争環境の整備」「外資招致の更なる強化」を謳った「対外開放の拡大と外資の積極的利用の若干の措置に関する通知」を発表した(表1)。

表1 「対外開放の拡大と外資の積極的利用の若干の措置に関する通知」の概要
対外開放の更なる拡大
金融、証券会社、保険などのサービス業、先端製造業や知能化製造、グリーン製造、エネルギー、交通、水利、環境保護をはじめとするインフラ建設、鉱業など、これまで外国資本の参入を制限していた分野を中心に、外資参入の規制を緩和する。
更なる公平な競争環境の整備
業務ライセンスの審査、基準の作成、政府調達、知的財産権の保護、融資チャネル、企業登録などのあらゆる面において、統一された基準で内外資企業に対応し、公平な市場を促進する。
外資招致の強化
地方政府が法に定められた範囲内で、外資招致の優遇政策を策定できる。就職、経済発展、技術革新に大きく貢献したプロジェクトを支援し、企業投資と運営のコストを削減する。引き続き中西部の発展を支援し、東北地域に更なる外資を集める。外資による投資への管理を改善し、投資の利便性を高める。
(出所)国務院、「対外開放の拡大と外資の積極的利用の若干の措置に関する通知」(2017年1月17日公布)より作者作成

中国にとっての機会と挑戦

更なるグローバル化を目指す中国にとって、米国における保護主義の台頭は挑戦であると同時に機会でもある。

まず、トランプ政権の下で、米国の保護主義の矛先は、中国に向かっている。トランプ大統領は、選挙中から、中国を「為替操作国」として指定するように要求し、中国からの輸入に対して45%の関税をかける、と繰り返している。その上、新設した「国家通商会議」のトップに、対中強硬派で知られ、『中国は世界に復讐する』『中国による死』など、中国の政策を強く批判する著書があるカリフォルニア大学のピーター・ナヴァロ教授を起用している(注1)。こうした中で、米中間の貿易摩擦が激化する懸念が高まっている。中国と米国はお互いにとって、最大の貿易相手国である(表2)。貿易戦争が起これば、双方とも大きい打撃を受けることになるだろう。もっとも、中国の輸出の内、外資企業によるものの割合は43.7%(2016年、中国海関総署による)と高く、対米輸出に占める米国企業による逆輸入の割合も高いと見られ、米中貿易摩擦は、米米貿易摩擦の側面もある。このことは、摩擦に一定の歯止めをかけると思われる。

表2 中国と米国の主要貿易相手国・地域(2016年)
相手国・地域 輸出入合計 輸出 輸入 貿易収支
金額(10億ドル) シェア(%) 金額(10億ドル) シェア(%) 金額(10億ドル) シェア(%) 金額(10億ドル)
中国 米国 519.5 14.1 385.1 18.4 134.4 8.5 250.7
香港 304.6 8.3 287.7 13.7 16.8 1.1 270.9
日本 274.8 7.5 129.3 6.2 145.5 9.2 -16.3
韓国 252.6 6.9 93.7 4.5 158.9 10.0 -65.2
台湾 179.6 4.9 40.4 1.9 139.2 8.8 -98.8
世界 3,685.6 100.0 2,098.2 100.0 1,587.4 100.0 510.7
米国 中国 578.6 15.9 115.8 8.0 462.8 21.1 -347.0
カナダ 544.9 15.0 266.8 18.3 278.1 12.7 -11.3
メキシコ 525.1 14.4 231.0 15.9 294.2 13.4 -63.2
日本 195.5 5.4 63.3 4.4 132.2 6.0 -68.9
ドイツ 163.6 4.5 49.4 3.4 114.2 5.2 -64.8
世界 3,643.6 100.0 1,454.6 100.0 2,188.9 100.0 -734.3
(注)概念的に、中国の対米輸出(輸入)は米国の対中輸入(輸出)に当たるが、実際、双方の統計の間に大きなギャップが存在している。これは、輸入には運賃・保険料のコストを上乗せしていることに加え、中国の香港向け輸出の中で、一部が米国に再輸出される(米国の統計では中国からの輸入として計上される)ことによる。
(出所)中国はCEIC データベース(原データは中国海関総署)、米国はU.S. Census Bureau より作者作成

一方、米国のTPP離脱は、中国にとって米国が主導する対中包囲網が崩れたことを意味する。米通商代表部(USTR)で中国問題を担当した経歴を持つオルブライト・ストーンブリッジ・グループのバイスプレジデント、エリック・オルトバック氏が指摘しているように、米国のTPP離脱は、「中国への巨大な贈り物だ。中国は今後、貿易自由化の牽引役として自国を売り込むことができるようになるからだ」(注2)。今後、アジアにおける地域統合は、中国が主導するRCEPを中心に進められる可能性が高い。

中国は、地域統合にとどまらず、新設されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)とBRICS5ヵ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が運営する新開発銀行(NDB)に加え、IMFや世界銀行といった既存の国際機関においても、出資比率の引き上げなどを通じて、存在感を増していくだろう。

実際、習近平のダボス会議に出席するためのスイス訪問とトランプ氏の米国大統領の就任を受けて、中国外務省国際経済局の張軍局長は、中国としては世界のリーダーとなることを望んでいないが、他国がその地位から退く場合は引き受けざるを得ないこともあるとの見解を示した(注3)。習近平氏のダボス会議での講演は、まさに中国がこのような覚悟と能力があることを、世界に向けて宣言したものである。

脚注
  1. ^ Navarro, Peter, The Coming China Wars: Where they will be Fought and How they will be Won. FT Press, 2006(邦訳『中国は世界に復讐する』、小坂恵理訳、イースト・プレス、2009年); Navarro, Peter and Greg Autry, Death by China: Confronting the Dragon - A Global Call to Action, Pearson Prentice Hall, 2011.
  2. ^ Sink, Justin, Toluse Olorunnipa, and Enda Curran "China Eager to Fill Political Vacuum," Bloomberg, January 24, 2017.
  3. ^ Blanchard, Ben, "Diplomat Says China would Assume World Leadership if Needed" Reuter, January 23, 2017.
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2017年2月15日掲載