中国経済新論:中国の産業と企業

中国における高速鉄道の発展の新段階
― 技術導入から独自の研究開発を経て海外展開へ ―

関志雄 経済産業研究所

中国が高速鉄道網を建設する夢を見始めたのは、鄧小平氏の1978年の訪日に遡る。同年10月26日に鄧氏は新幹線で東京から京都に向かった。新幹線に乗った感想を求められ、「速い。とても速い。後ろからムチで追い立てられているようだ。これこそ我々が求めている速さだ」「我々は今走らなければならない」と述べた。それを聞いた多くの中国人は、高速鉄道が近代化のシンボルとして中国の大地で疾走する日を待ち望んでいたに違いない。

その直後の1978年12月に中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議が開催され、これをきっかけに、中国は改革開放路線に転換し、高度経済成長期に入った。21世紀に入ってから、目覚ましい経済発展を遂げた中国は、高速鉄道の建設に本格的に取り組むようになった。そして、高速鉄道の発展は、中国経済を牽引するエンジンになってきている。

2015年末現在、中国における高速鉄道の営業距離は、国土を縦横に結ぶ8つの路線からなる「四縦四横」を中心に、1万9,000kmに達しており、世界全体の6割を超えている(李克強、全国人民代表大会で行われた「政府活動報告」、2016年3月5日)。これをベースに、中国は2016年7月に発表された新しい「中長期鉄道網計画」において、「八縦八横」を中心に、高速鉄道の営業距離の目標を2020年には3万km、2025年には3万8,000kmとしている。

中国は、高速鉄道の発展のプロセスにおいて、海外からの技術導入を梃に、独自の研究開発の能力を向上させた。これまで蓄積した技術と低コストを武器に、高速鉄道の海外展開を目指している。

高速鉄道網の拡大:「四縦四横」から「八縦八横」へ

中国では、1997年4月から2007年4月までの10年間に合計6回にわたり、主に在来線の改良を通じて鉄道の高速化が行われてきた。2004年4月の5回目の高速化には時速200km、2007年の6回目の高速化には時速250kmの路線が初めて登場したことで、中国における鉄道の発展は、ようやく「快速」の段階から「高速」の段階に入った。

中国が高速鉄道網の整備に向けて、在来線の改良を通じた高速化を超えて、旅客専用線の建設に取り組むようになったのは、2004年に「中長期鉄道網計画」が策定されて以降のことである。同計画では、2020年までに鉄道の総営業距離が10万km、うち高速鉄道の旅客専用線が1万2,000kmに上るという目標が定められた。「四縦四横」に加え、環渤海湾地域、長江デルタ地域、珠江デルタ地域など、広域経済圏内の主要都市を結ぶ旅客専用線が高速鉄道網建設の中心と位置づけられた。

2008年8月1日、北京と天津を結ぶ京津城際鉄道が中国における最初の高速鉄道の旅客専用線として開業した。路線の最高設計速度は時速350kmと、鉄輪式として当時の世界最速となった。

2008年9月に起きたリーマンショックを受けて、同年10月に内需拡大策の一環として、「中長期鉄道網計画」が改訂され、鉄道の総営業距離の目標が2020年までに12万km、うち高速鉄道の旅客専用線は1万6,000kmに達すると上方修正された。

2011年2月に劉志軍部長をはじめ、多くの鉄道部の幹部が汚職などの問題で解任され、また、同年の7月23日に甬台温線で衝突脱線事故が発生し、多くの死傷者を出した。これを受けて、国内外で中国における高速鉄道の安全性に対する不信感が高まり、高速鉄道の建設が急に減速したが、この影響は一時的なものにとどまった。

その後、計画が順調に進み、2015年末現在、高速鉄道の営業距離は1万9,000kmに達し、「中長期鉄道網計画」の目標を前倒しで実現した。特に、「四縦四横」の中で最も規模が大きく、旅客輸送量の多い京滬高速鉄道と京広高速鉄道は、それぞれ2011年6月30日と2012年12月26日に開通した。京滬高速鉄道は全長1,318kmに及び、北京と上海を約5時間で結ぶ。総工費は2,209億元に上った。また、京広高速鉄道は全長2,298kmに及び、高速鉄道の路線としては世界最長となる。北京と広州を約8時間で結び、香港までの延伸計画も進められている。

高速鉄道網のさらなる拡大を目指して、2016年7月に、政府は、「四縦四横」を拡張した「八縦八横」を中心とする高速鉄道網の構築を目指す新しい「中長期鉄道網計画」を発表した(図1)。同計画では、2020年までに鉄道網の規模を15万kmとし、うち高速鉄道は3万kmで、8割以上の大都市を網羅し、2025年までに鉄道網の規模を17万5,000km前後、うち高速鉄道は3万8,000km前後とする目標が設定されている(表1)。

図1 新しい「中長期鉄道網計画」で示された「八縦八横」
図1 新しい「中長期鉄道網計画」で示された「八縦八横」
(出所)中国国家発展改革委員会・交通運輸部・中国鉄路総公司、「中長期鉄道網計画」(2016年7月13日)より作成
表1 中国の「中長期鉄道網計画」(単位:km)
-上方修正された2020年の鉄道網の営業距離目標-
計画策定時期 全体
高速鉄道
2004年 100,000 12,000
2008年 120,000 16,000
2016年 150,000 30,000
参考:2015年(実績) 121,000 19,000
(出所)国家発展改革委員会など「中長期鉄道網計画」2004年、2008年、2016年版より作成

目覚ましい技術革新:海外からの技術導入から独自の研究開発へ

中国における高速鉄道網の目覚ましい発展を可能にしたのは、財政などの面における政府による支援に加え、海外からの技術導入を梃に加速する国内の独自の研究開発による技術革新である。

中国は、長い間、鉄道の高速化に向けて、独自の研究開発を行っていた。そのシンボルとなったのは、2002年12月に試験走行で321.5kmという最高時速を記録した「中華の星」である。しかし、「中華の星」は、その後の試運転だけでなく、時速160kmに落とした営業運転においても、電気系統やブレーキ系統の故障の頻発などトラブルが相次ぎ、独自の研究開発が挫折した。そうした中で、政府は、高速鉄道を発展させる手段を、海外からの技術導入に切り替えた。

その目玉として、2004年から鉄道車両大手の中国南車と中国北車(2015年に両者が合併して中国中車となった)の子会社は、日本の川崎重工、カナダのボンバルディア、ドイツのシーメンス、フランスのアルストムから技術移転を受け、高速鉄道車両をライセンス生産するようになった。これを通じて、中国は、高速鉄道の国産化とさらなる技術革新を進め、独自の研究開発を行うという路線に短期間で回帰することができ、また、大きな成果を上げている。

京滬高速鉄道の開通に合わせて、中国の鉄道関係者は、『人民日報』において、中国の高速鉄道における研究開発が6年足らずの間に三つのステップを踏んだと、次のように説明した(「中国は高速鉄道の知的財産権について自信満々」、『人民日報』、2011年7月8日)。

「一つ目のステップは、導入、消化、吸収、改良を通じて、時速200〜250kmの高速車両製造技術を習得したことで、中国の高速車両の技術が世界のトップクラスの仲間入りしたことを象徴している。二つ目のステップは、時速200〜250kmの高速車両技術を習得したことを土台として、時速350kmの高速車両を独自に研究開発し生産したことで、中国高速車両の技術が世界トップレベルに達したことを象徴している。三つ目のステップは、中国が時速350kmの高速車両の技術プラットフォームを土台として、新世代の高速車両CRH380シリーズの開発に成功したことで、世界の高速車両技術が新たな水準に発展したことを象徴している」。

その一方で、海外では中国の高速鉄道は日本の新幹線の「パクリ」であるなど、技術を供与する側の知的財産権が侵害されているといった批判が出ている。これに対して、中国の鉄道関係者は、「中国高速鉄道の技術水準はすでに日本の新幹線を超えている」という認識を示した上で、次のように反論した(前掲記事『人民日報』、2011年7月8日)。

自主知的財産権には3つの基本的な要素がある。一つ目は独創性で、人と違うかどうか、その違いに価値があるかどうかである。二つ目は自主性で、イノベーションが主体的に生み出されたものかどうかである。三つ目は特許の有無である。このような要素を踏まえると、中国の高速鉄道は、高速車両、中でもその中核技術において自主知的財産権をしっかり持っている。

また、中国はいま、世界の高速鉄道の技術レベルを時速250km級から350km級に引き上げた。かつて日本が欧州の技術を参考にしながら、車両の時速を100km余りから200km以上に引き上げたのと同じことであり、どちらも世界の鉄道の発展における重大な進歩である。この2つの進歩はいずれも、国際法における知的財産権に関する規定の趣旨を遵守しているという。

2011年以降も、中国における高速鉄道における技術革新は目を見張るものがある。

まず、2012年12月1日に、ハルビンと大連を結ぶ世界初の高緯度・寒冷地の高速鉄道が開通した。投入されたCRH380B型車両はマイナス40度までの気温に適応できる上、砂、雨、雪、霧など、悪天気への対応力も高い。

また、中国が独自に開発し、自主知的財産権を有する「中国規格高速車両」(中国語は「中国標準動車組」)は、2016年7月15日に鄭洲と徐州を結ぶ高速鉄道上で行われたすれ違い実験で、世界最高速度の時速420km(相対時速840km)を記録し、同年8月15日に大連-瀋陽間の営業運転を開始した。「中国規格高速車両」は、国産化率は90%以上に上り、「中国規格」と呼ばれるのは、同列車の研究開発に用いられる各種規格が、すべて中国が自ら設定したものだからである。同車両は低騒音、軽量、高安全性などの特長を持ち、各種性能の指標が現在のCRH380シリーズから大きく改善されている。

このように、中国は高速鉄道の分野において、海外からの技術導入からわずか10年ほどの間で、独自の研究開発の能力を身につけることができた。それを支えてきたのは、「挙国体制」というべき巨大なイノベーションシステムである。それには、国内トップレベルの重点大学25校、トップレベルの科学研究所11カ所、国家級実験室およびプロジェクト研究センター計51カ所、(中国科学院・中国工程院)院士(Academician)63人、教授約500人、研究者約200人、技術者1万人以上が参与している(前掲記事『人民日報』、2011年7月8日)。

本格化する高速鉄道の海外展開

中国の高速鉄道は、建設が急ピッチに進み、技術が大幅に向上する中で、海外展開も本格化している。日本などの競争相手と比べて、中国は、次の点において、優位に立っている。

まず、建設コストが低い。世界銀行が発表したリポートによると、中国が時速350kmの高速鉄道を建設するには、1km当たりのインフラ建設コスト(土地取得費などを除く)は通常1,700万〜2,100万ドルと、ヨーロッパの場合の2,500万〜3,900万ドル、アメリカのカリフォルニア州の場合の5,200万ドルを大きく下回っている(Ollivier, Gerald Paul; Sondhi, Jitendra; Zhou, Nanyan. 2014. "High-speed Railways in China: A Look at Construction Costs." China Transport Topics, No. 9, July, 2014, World Bank Group.)中国の高速鉄道の低コストの原因として、国内の人件費の安さに加え、産業の大きさに伴う規模の経済性も挙げられる。特に、後者は海外市場における強い価格競争力にもつながっている。

また、中国政府が資金面において高速鉄道の海外展開を支援している。多くの場合は、車両、建設工事、そして資金の提供がセットとなっている。これは、特に潜在的需要が見込まれる多くの発展途上国にとって魅力的である。

さらに、高速鉄道の建設と運営において、豊富な経験を持っている。中国における高速鉄道は時速200〜350kmまでレベル別でいくつかの規格と設備を持っている。中国の広い国土、複雑な地質条件、変化の多い気候に鍛えられたおかげで、建設と運営において中国は豊かな経験を持っており、環境の異なる国・地域のニーズに柔軟に対応することができる。

機が熟したと判断した中国政府は、2009年に高速鉄道の海外展開戦略を打ち出した。その際、①ロシア経由で欧州につながる「欧亜高速鉄道」、②ウルムチから中央アジア経由でドイツとつながる「中亜鉄道」、③昆明から東南アジア経由で、シンガポールにつながる「汎亜鉄道網」という三つのルートを目標に掲げた。特に、2013年以降、政府による「一帯一路」(新シルクロード)構想の推進をきっかけに、高速鉄道の海外展開は好機を迎えた。

これまでの実績としては、中国企業が路線の一部の建設に参与したトルコの首都アンカラとイスタンブールを結ぶ高速鉄道(全長533km、設計上の時速は250km)が、2014年7月に運行を開始している。現在、中国が受注している建設中の大型高速鉄道関連プロジェクトには、中国-ラオス高速鉄道、中国-タイ高速鉄道、ハンガリー-セルビア高速鉄道、インドネシア・ジャカルタ-バンドン高速鉄道などがある。また、今後の目標として、ロシア・モスクワ-カザン高速鉄道、マレーシア-シンガポール高速鉄道、南米大陸横断の両洋鉄道、タンザニア・ザンビア鉄道などが挙げられる。

もっとも、ベネズエラのティナコ-アナコ間、メキシコのメキシコ市とメキシコ中部ケレタロ間、米国ラスベガスとロサンゼルスの間を結ぶ計画など、中止または白紙撤回を余儀なくされたプロジェクトもあるように、中国の高速鉄道の海外展開は必ずしも順風満帆とは言えない。これまでの挫折の経験を踏まえれば、次の課題が浮かんでくる。

まず、海外の市場規模が限られており、他の国との受注競争が激しい。高速鉄道の建設の規模と採算性を考えれば、対象国における十分な資金力、高い人口密度、十分な電力供給、ある程度の国民の所得水準が成功の前提となるが、それらを満たしている国はそれほど多くない。その上、日本や、スペイン、フランス、ドイツなどは、独自の高速鉄道網の建設に取り組んでおり、中国はそれらの市場に参入できる可能性はほとんどない。中国は、「一帯一路」沿いの途上国に照準を合わせているが、日本をはじめとする他の輸出国との激しい受注競争にさらされている。その際、単にコストや技術だけでなく、外交や安全保障といった考慮も勝負の決め手となる場合も多い。その上、中国は、高速鉄道建設の歴史がまだ浅く、2011年に温州で起こった大事故の影響もあって、信頼されるブランドを確立するにはなお時間がかかりそうである。

また、知的財産権を巡って紛争が起こりかねない。中国の高速鉄道の技術の多くは海外から導入した技術をベースに改良したものである。一部の技術は元となる導入されたものより優れているにもかかわらず、海外ではなかなか評価されない。しかも、競合相手は、中国の高速鉄道関連企業に対して、法的手段を以て、知的財産権の侵害を訴えたり、特許出願の権利化を阻害したりしかねない。

さらに、海外の規格に合わせなければならない。中国における高速鉄道の一部の技術はすでに国内規格として定着しているが、国際規格とは異なっている。このことは、高速鉄道関連の商品輸出の妨げとなり、海外展開を遅らせてしまう。世界市場において、「中国規格」を広めることは急務となっている。

そして、投資に伴うリスクが高い。「一帯一路」のように、一部の紛争地域を含め、対象国の多くは、政治、経済、社会の面において、安定していない上、電力、道路や港湾などのハード面のみならず、法律や税制といったソフト面でのインフラもまだ整備されておらず、改善を待たなければならない。

最後に、中国の鉄道関連企業は海外進出の経験がまだ浅く、プロジェクトの進行に伴う、労務管理や、環境保護、文化、土地の収用などの面において、トラブルを避けるために、現地の法規や習俗に対する理解を深めなければならない。

中国にとって、自らの優位性を最大限に発揮しながら、これらの課題にうまく対処していくことは、高速鉄道の海外展開を成功させるカギとなる。

経済成長のエンジンとなる高速鉄道の発展

国家プロジェクトとして進められている高速鉄道の発展は、次のルートを通じて、中国経済に大きな影響を与えている。

まず、高速鉄道網を建設するための巨額の投資は、直接に多くの雇用機会を創出しているだけでなく、関連産業にも多くのビジネスチャンスをもたらしている。

第二に、高速鉄道網の建設は、沿線の不動産開発や、観光業などの発展を加速させている。

第三に、高速鉄道網の建設は、工業化と都市化を促している。高速鉄道で結ばれた主要都市と周辺都市とのヒト、モノ、カネの流れが活発になり、相互補完を活かした分業体制の構築が促される。これにより、発展が進んでいる沿海地域から遅れている内陸部への産業移転が加速していく。

第四に、高速鉄道網の建設は、省エネと環境にやさしい社会作りに有利である。高速鉄道は自動車などの他の輸送手段と比べて、エネルギー効率が優れており、CO₂排出量を低く抑えることができる。

最後に、高速鉄道の発展は、関連産業における技術革新を促し、特に海外展開を通じて、中国製品の国際市場でのイメージと競争力の向上や、輸出構造の高度化にもつながる。

このように、中国にとって、高速鉄道の発展は、需要と供給の両面から、経済全体を牽引するエンジンになってきている。

関連記事

2016年10月20日掲載