中国経済新論:中国の経済改革

警戒すべき地方政府融資プラットフォーム会社の債務リスク

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国経済が減速し、中でも不動産市場が調整局面に入ったことを背景に、主にインフラ投資の資金調達のために設立された「地方政府融資プラットフォーム会社」(以下、融資プラットフォーム会社)が抱えている債務問題に対して、懸念が高まっている。

融資プラットフォーム会社の急成長

ここでいう融資プラットフォーム会社とは、地方政府およびその機関が、財政資金や土地、株式などを以て出資して設立した、政府の投資プロジェクトの資金調達機能を担う、独立した法人格を持つ経済主体のことである。その目的は、インフラ投資の必要性と限られた財源という矛盾を解消することである。現在の財政制度の下では、地方政府は、恒常的に財源の不足に悩まされている上、自ら債券を発行することが禁止されている。このような制約の下で、インフラ投資の資金を調達するために、各地の地方政府は、多くの融資プラットフォーム会社を設立したのである。その資金調達の手段は、銀行からの借り入れと債券の発行が中心となる。融資プラットフォーム会社には、投資の対象となるインフラの建設と運営を自らが行うものと関連会社に委ねるものがあるが、前者の場合は直接的に、後者の場合は間接的に、営業収入、公共施設の使用料、そして財政資金を得て、それを債務返済の財源に充てる。

融資プラットフォーム会社の第一号は1992年に設立された上海市城市建設投資開発総公司に遡るが、設立のブームを迎えたのは、2008年9月のリーマンショック以降のことである。世界的金融危機を乗り越えるために、中国政府はインフラ投資を中心に4兆元の経済刺激策を実施した。そのうち、中央政府が1.18兆元を負担するが、残りの部分は地方政府が独自の財源を以て賄わなければならなかった。この資金不足を補うために、当局は、「条件の揃った地方政府が融資プラットフォーム会社を設立し、企業債や中期手形といった調達手段を通じて、中央政府の投資プロジェクトをサポートする融資ルートの開拓を支持する」という方針を発表した(中国人民銀行・中国銀行業監督管理委員会(銀監会)、「貸付の更なる構造調整を進め、国民経済の安定的発展を促すことに関する指導意見」、2009年3月23日)。金融緩和の実施も加わり、全国の融資プラットフォーム会社の数と債務は急増した。銀監会によると、2009年末現在の融資プラットフォーム会社の負債総額は前年同期比で70.4%急増し、金融機関の人民元貸出全体の約2割に当たる7.38兆元に達した。

高まる債務不履行のリスク

融資プラットフォーム会社はインフラ整備に必要な資金を調達することを通じて、世界的な金融危機がもたらす中国への影響を和らげ、景気の早期回復に貢献したが、融資規模が拡大するにつれて、さまざまな問題が顕在化してきた。

まず、多くの融資プラットフォーム会社では、経営者は地方政府の役人が中心であり、独立性がほとんどない。それ故に、コーポレートガバナンスが不健全で、市場原理に沿わない経営が行われている。

また、地方政府は、融資プラットフォーム会社に対し、法律に反して(暗黙に)債務保証を与えている。その結果、融資プラットフォーム会社が債務を返済できなくなると、その代わりに返済義務を負うようになり、財政の負担が重くなる。

さらに、一部の銀行・金融機関はリスク意識が低く、融資プラットフォーム会社に対する融資管理がずさんである。その一方で、融資プラットフォーム会社は、金融機関から多重の融資を受けながら、本来の目的以外に資金を流用する現象もしばしば発生している。

銀監会によると、2010年6月現在、商業銀行による融資プラットフォーム会社への融資規模は7.66兆元に達しており、そのうちの23%は、借り手の返済能力や担保に問題があると見られる。また、土地が融資の担保の大半を占めているため、土地価格が大幅に低下することになれば、銀行融資が不良債権になる確率が高くなる。

事態を重く見た銀監会は、最近、一部の銀行を対象に、ストレステスト(健全性審査)を実施した。これにより、住宅価格が30%低下し、金利が1.08%上昇した場合、銀行の不良債権比率が2.2ポイント上昇するという測定結果が得られ、中国が直面している財政・金融リスクが高まっていることが浮き彫りになった。

本格化する当局の対応

2010年に入ってから、温家宝総理や、劉明康・銀監会主席をはじめとする政府の要人は、財政・金融リスクを有効に防ぎ、経済の持続的かつ健全な発展と社会の安定を維持するには、融資プラットフォーム会社に対する管理を強化すべきだという認識を繰り返し示してきた。問題の解決に向けて、2010年6月10日に「地方政府融資プラットフォーム会社の管理強化に関する問題についての国務院通知」が発表され、その中には、次の4つの対策が盛り込まれている。

(1)債務整理
まず、今回の整理対象となる債務には、融資プラットフォーム会社の直接借り入れと返済遅延に加え、担保提供など信用補完を行った債務も含まれる。

第二に、各種の資金を進行中のプロジェクトの完成に優先的に使い、新規プロジェクトの着工を厳しく制限する。

第三に、独自の営業収入がなく、返済を主に地方政府の財政資金に頼る公益性の高いプロジェクトについては、進行中の分を含めて、融資プラットフォーム会社経由の新規融資をただちに中止する。今後、このようなプロジェクトの実施に伴う費用は財政予算などの公的資金で賄う。

第四に、その他の進行中のプロジェクトの中でも、政府の産業政策、土地政策、環境保全政策、「貸付慎重管理規定」及びマクロ調整政策の方針に沿わないものについては、債務を早急に整理する。

最後に、融資プラットフォーム会社は、既存の債務について、契約通りに返済義務を果たさなければならない。

(2)融資プラットフォーム会社の整理
まず、融資プラットフォーム会社を、①公共公益プロジェクトを担当し、主に財政資金で返済するもの、②公共公益プロジェクトを担当し、安定した営業収入があり、それを以て返済するもの、③非公共公益プロジェクトを担当するものという三つのタイプに分けた上で、①についてはただちに資金調達業務を中止し(前項の債務整理で述べられた三点目に対応)、②と③については、資本金の充実と債務の整理を行う。

また、地方政府による融資プラットフォーム会社の設立が必要である場合、関連法規に基づいた手続きを徹底させるとともに、学校・病院・公園などの公益性の高い資産を資本として融資プラットフォーム会社に注入することを認めない。

(3)金融機関の融資管理の強化
金融機関などに対して、融資管理の一層の強化やリスク意識・管理の向上を求め、返済能力が乏しい融資プラットフォーム会社に対する貸付けを禁止する。

(4)地方政府による債務保証の禁止
地方政府は、融資プラットフォーム会社に対して、違法な債務保証を行ってはならず、出資額の範囲を超えた責任を負ってはいけない。

これらの対策は妥当かつ必要だと思われるが、あくまでも問題解決への第一歩に過ぎない。今後、抜本的対策として、中央政府と地方政府間の税収の分配率を見直すことや、地方政府に直接債券を発行する権利を与えることなど、財政改革を通じて、地方政府の財源を増やさなければならない。

2010年8月27日掲載

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