中国経済新論:中国の産業と企業

「中国インターネット発展状況統計報告」から見る中国のインターネットの現状と課題

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

インターネットの登場に象徴されるIT革命の大波は世界を席巻し、中国大陸も例外なくその荒波に呑み込まれつつある。現在の中国のインターネット事情を知るには、中国インターネット情報センター(CNNIC)が1998年以降、毎年二回発表している「中国インターネット発展状況統計報告」の信用度と権威性が最も高い。今年1月の最新の報告は、中国インターネット事情、とりわけ中国における電子商取引の環境を理解する良い材料を提供した。

一、インターネットの普及が急激に進められ、さらなる大きな潜在性を持っている

2001年12年31日時点の中国全土のインターネット利用者(平均で週一時間以上インターネットを利用している人)は3370万人に達していた。この数字は、前年同期より49.8%の増加を記録し、中国におけるインターネット利用者数の急増を物語っている。これと同時に、インターネットに接続されるコンピュータ台数も昨年同期より40.6%増の1254万台にも達している。インターネット利用者のアクセス方法を見ると、依然としてダイヤルアップ式が最も多く(1020万台)、専用線による接続台数の234万台を大きく上回っている。

インターネット利用者の四割は女性であり、利用者全体で週平均8.5時間インターネットを利用している。地域別には、北京、上海、江蘇、浙江、広東といった5つの地域の利用者が総利用者に占める割合は62.7%に達しており、西北、西南といった従来インターネット環境が整備されていない地域におけるインターネット利用者数は依然として低い。

中国におけるインターネットの利用者は急増したものの、総人口に占める普及率はわずか2.6%に留まっており、普及率は先進諸国と雲泥の差があるだけではなく、アジア太平洋地域全体においても、むしろ下位国にランクされているのが現状である。だが、90年代以降の中国経済の高度成長は、中国の人々を確実に豊かに導いた。13億という世界最大の人口は、中国におけるインターネット市場の今後のさらなる成長に、相当大きな可能性が潜んでいると予想しても差し支えないだろう。

二、中国におけるインターネット利用の実態と電子商取引の可能性

今度の調査によると、利用者のインターネット使用の目的は、情報の入手(46.1%)と興味・娯楽(31.1%)であり、電子メール(92.2%)、コンテンツ閲覧ないし情報検索(62.7%)、ソフトのダウロード(55.3%)などがよく利用するサービスの上位にランクされている。

インターネットを通じて、電子商取引(支払い、オンライン・ショッピング、株取引)を利用する比率はまだ低く、十分に展開されたとは言いがたい。その理由には、いくつかの要因が考えられる。

まず、インフラがまだ充分に整備されていないことは、電子商取引の展開を根本から妨げている。インターネットで取引をする商慣行は基本的に中国社会に根付いたことがなく、クレジットカードが普及していないという点で、決済手段も欠如している。そして、過去一年間で、63%の利用者がクラッキングされた経験があり、セキュリティーの問題が深刻で(31.0%)、商品の品質ないし商品購入後のサービスに対する不安(30.2%)、商品の届け時間がかかり過ぎる(11.8%)といった問題点も、電子商取引の推進を妨げている。

中国は依然として一人あたりGDPが1000ドル未満の低所得国である。しかも、中国における24歳以下のインターネット利用者は、利用者総数のほぼ半数を占めており、無収入ないし収入が毎月1000元(現在の為替レートでは1ドルは約8.27人民元)を下回る利用者が占める割合も61.2%にも達している社会事情は、電子商取引の展開を制限しているもう1つの要因であることが考えられる。

このように、中国における電子商取引の展開は様々な問題点を抱えているが、EC市場は依然として大きな可能性を含んでいる。

今回の調査では、31.6%の利用者は過去の一年間で、オンライン・ショッピングを実際に利用したことが報告されている(図)。そしてオンライン・ショッピング未経験者の54.5%がオンライン・ショッピングに対する強い関心を寄せていた。利用者が最も求めているのは、書籍(51.6%)、パソコン関係の機器(41.0%)、教育関係(34.6%)、オーディオ機器(30.1%)といった商品やサービスであることも今度の調査によって明らかにされた。さらに、電子商取引に関するホームページのコンテンツを普段から閲覧している利用者は71.7%にも達しており、電子商取引に対する利用者の関心度の高さが窺われる。

中国における電子商取引は様々な制限要因によって、その普及にはなお長い時間が必要であると思われる。しかし、中国におけるインターネット利用人口の増大、またインフラ整備の改善に伴い、電子商取引も新たな発展を遂げることは間違いないだろう。

三、中国インターネット市場の前景と見通し

情報のボーダーレス化が急激に進む中、中国政府はこれまでネット規制を厳しく制定してきた。96年初、中国当局はインターネット管理の暫定規則を制定、施行した。国際ネットワークを利用するには、政府が直接管理する電信網を使用しなければならず、ネットワークに接続するプロバイダ―も政府の許可が必要とされていた。2000年10月、中国政府は新しいインターネット規制法を公表し、ネット規制をより一層強化した。

新しい管理規定によれば、ポルノや賭博といった道徳に反する内容から、中国共産党が安全を脅かすと認めた政治的論評にいたるまで、ウェブサイトの責任でそれらのすべてを排除しなければならない。ウェブサイトには、違法な内容を検閲し報告する義務があり、またサイト上に表示されたすべての内容を必要に応じて警察へ開示することが義務付けられた。さらに、ウェブサイトの運営には許可を受けなければならず、もし明記された事業計画から逸脱したり、内容規制に違反したりするような場合、罰金を課されるか、サイトを閉鎖されることもあり得るという。

しかし、実際、インターネットにおける言論の統制は技術的に難しく、当局はある程度の言論の自由を認めざるを得ない。現に、新聞など政府が強い影響力を持つ従来のマスコミと比べ、インターネット上では多様な意見が交わされている。

WTO加盟の実現をきっかけに、世界との一体化が決定的に促された中国は、グローバル的に進められている情報化の中、世界に遅れないように情報化を進めながら、一党統治の維持に必要な情報統制を展開していかなければならない。このジレンマをどうやって乗り越えるのか、大いに注目されている。

図 中国におけるインターネット利用者数とインターネットショッピング経験者数の推移
図 中国におけるインターネット利用者数とインターネットショッピング経験者数の推移
(出所)CINNIC

2002年3月5日掲載

2002年3月5日掲載