電力卸価格高騰の原因と市場設計への教訓

伊藤 公一朗
客員研究員

1 はじめに

2020年12月末から2021年1月中旬にかけて電力卸売価格の高騰が大きなニュースになった。これまでの日本卸電力取引所(JEPX)における取引価格は1キロワット・アワーあたり10円以下で推移することが多く、夏のピーク時間帯でも50円ほどが通常の高値であった。しかし、12月末から価格が200円を超える時間が続き、一時は251円にまで達した(図1)。

図1 日本卸電力取引所(JEPX)におけるスポット価格の推移
図1 日本卸電力取引所(JEPX)におけるスポット価格の推移
出典:電力・ガス取引監視等委員会「スポット市場価格の動向について」(2021年2月5日)

電力市場に直接関わりのない一般の方にとっては、そもそも電力が市場で取引されるという概念自体が耳慣れないことである。そのため、価格高騰の原因や改善策を考える際には、電力市場取引の仕組みや、従来型の「総括原価方式」との違いを理解する必要がある。本稿では電力市場について基礎的な解説を試みるとともに、著者の研究も含めて近年のエネルギー経済学研究で明らになってきている点を概説する。

2 市場導入前の制度「総括原価方式」

電力自由化改革前においては、電力の発電や小売は地域独占の1社によって行われてきた。そのため、電力価格は市場で決まるのではなく、独占企業と規制当局の間の話し合いで決まってきた。これが「総括原価方式」である。この方式では、企業側は発電によって生じた費用(原価)を規制当局に報告し、その原価に一定の事業報酬を加えたものを収入として得る。

経済学的な目線で見た場合に重要なのは、総括原価方式下では「価格=平均費用」が電力価格設定の柱になるということだ。例えば、地域独占企業が原子力、水力、火力、風力など多岐に渡る発電所を稼働している場合、全ての発電所費用の「平均費用」が価格に影響を及ぼすことになる。

3 電力卸売市場で行われるオークション(入札)の仕組み

総括原価方式には少なくとも3点の問題がある。1点目は競争が生じないので、費用を抑えて発電しようという経営効率化へのインセンティブ(誘引)が働かない点である。2点目は原価や自己資本に関する情報は事業者に偏在しているため、事業者と規制当局の間に情報の非対称性が存在する。そのため、規制当局が監視や規制によって発電費用を最小化するのは難しい。3点目は、経済学で考える社会厚生の最大化の点から言えば、「価格=平均費用」は社会全体での費用を最小化できないため望ましくないという点である(注1)。

その解決策として世界各国で1990年代から行われてきたのが電力システム改革である。改革の柱は発電部門と送配電部門を分離して電力網への公平なアクセスを可能にする「発送電分離」と「電力の卸売市場」の導入だ。発送電分離についての解説は筆者による別稿(伊藤2020a, 伊藤2020b)に譲り、本稿では電力の卸売市場に焦点をあてた解説を行う。

卸売市場は通常、取引日より前に行われる先物市場、取引前日に行われる前日市場と取引当日のリアルタイム市場によって形成される(注2)。

一般的に、前日市場とリアルタイム市場では、電力取引は入札によって行われる。売り手である発電所は発電量と希望販売価格を入札し、買い手も需要量と希望購入価格を入札する。すると図2のように、低コストで発電できる電源から高コストな電源までが階段状に並び、これが供給曲線となる。同様に、高コストでも購入したいという買い手から低コストでしか購入したくないという買い手が並び、需要曲線を形成し、需要と供給が交差する点で市場価格が決まることになる(注3)。まさに経済学の教科書で出てくるような価格決定の基本が電力市場では実際に採用されているわけである。

ここで重要なのは、総括原価方式と対照的に、卸売市場方式では「価格=限界費用」が電力価格設定の柱になるということだ。例えば、市場参加者が原子力、水力、火力、風力など多岐に渡る発電所を稼働している場合、全ての発電所費用の「平均費用」ではなく、あくまでも需要との交差点に位置する「限界電源」の「限界費用」が価格決定を行うことになる(注4)。

図2 電力卸売オークション市場の概念図
図2 電力卸売オークション市場の概念図
出典:著者作成。市場価格は需要曲線と供給曲線の交差する点で決まる。

4 電力自由化は「発電コスト」を下げるのか

入札制度による取引の強みは、先に挙げた総括原価方式の問題を解決できることだ。仮に経営効率化を怠り高コストでの発電を行う事業者がいた場合、総括原価方式下では発電が可能だが、入札市場のもとでは発電コストが市場均衡価格以上の場合は電力の販売ができない。発電費用に関する情報の非対称性も、規制当局の監視ではなく市場の見えざる手の作用によって解決することができる。

以上の議論はあくまでも経済学の理論にもとづく理論的予測である。では、実際の電力市場では、発送電分離と卸売市場導入による電力自由化は発電コストを下げたのだろうか。この20年間、経済学の実証研究ではこの問いに答える研究が盛んに行われてきた。各国で行われた研究を見ると、総じて電力自由化は「発電コスト」を下げるという結果が得られている。例えばナンシー・ローズ米マサチューセッツ工科大(MIT)教授らの研究グループは、発送電分離を進めたうえで発電部門の総括原価方式を廃止し、卸売市場取引での自由競争を導入すると、発電所の生産効率性が向上し、発電費用が下がることを示した(Fabrizio,Rose, and Wolfram. 2007)。

さらにスティーブ・シカラ米シカゴ大助教授は、全米の各発電所の毎時発電データと費用データを分析し、発送電分離後の卸売市場を通じた電力取引は高コストの発電所の生産量を減らし、低コストの発電所の生産量を増やすため、社会全体での発電費用も下がることを示した(Cicala, forthcoming)。いずれも国際的学術誌「アメリカン・エコノミック・レビュー」に発表されたもので、慎重に因果関係を検証した分析結果だ。

5 電力自由化は「電力価格」を下げるのか

では電力自由化は「電力価格」も下げるのと言い切れるのだろうか。新聞等で電力自由化が議論される場合、費用への影響と価格への影響が混同される場合が多く注意が必要だ。電力価格への影響を考える場合、ミクロ経済学の基本にもとづいた以下の3点の理解が鍵になる。

1点目の重要な点は、電力自由化は「価格=平均費用」から「価格=限界費用」というパラダイムシフトをもたらすということである。厚生経済学の点から考えると、「価格=限界費用」は社会全体の発電費用を最小化することで社会厚生を最大化するため、効率性の観点から見て自由化後の設計が理論的には優れていると言える。しかし、社会厚生最大化と価格の最小化は一対ではない。自由化によって価格が下がるか上がるかは、自由化を導入する地域における電源の平均費用と限界費用がどのような関係にあるかに依存する。

つまり「平均費用>限界費用」である地域で自由が行われれば、価格が下がる可能性が高く、「平均費用<限界費用」である地域で自由が行われれば、価格が上がる可能性が高いということだ。そのため、電力自由化は必ず価格を下げる、もしくは必ず価格をあげる、という議論はどちらも正しくない。

2点目の重要な点は、自由化後の価格決定で鍵となるのは「限界電源の」限界費用であるということだ。例えば、図2では天然ガス火力が限界電源(需要と交差する電源)である。すると、天然ガス価格の上下は電力価格へ直接的な影響を及ぼすことになる。一方、自由化前の価格決定は全ての電源の平均費用にもとづいて行われるため、単一電源の費用だけではなく、電源全体の費用の上下が価格へ影響を及ぼすことになる。

3点目の重要な点は、卸売市場は万能ではなく、市場の失敗を解決する手法との併用が必要だという点だ。電力の卸売市場における市場の失敗として最重要なのは大手電力会社による市場支配力(マーケット・パワー)の行使だ。市場シェアを多く持ち価格に影響を与える力がある事業者は、需給逼迫時に供給量を下げて価格をあげるインセンティブを持つ。特に電力市場において市場支配力の行使が問題になる理由は、電力市場の供給曲線は需要量がピークに近づくほど急な右上がりになり、極端な場合は完全に垂直になることである(図3)。これは、ピーク電源(需要がピーク時に発動する発電所)ほど限界費用が高い発電所であること、そして、売り入札が切れた時点で供給曲線が切れるためである。

図3のような状況では、独占力を持つ企業は市場での「販売量を減らす」ことで価格を吊り上げて「利益を上げる」ことができる。経済学に馴染みのない方には販売量が減るのに利益が上がるという点が直感的ではないかもしれない。この現象が起こるのは、供給曲線が急な右上がり、もしくは垂直の場合、少しの供給減が非常に大きな価格増を生むからである。

まさに経済学の教科書で解説されるような独占企業行動の様子が実際にデータからも観測でき、このことは著者の研究も含め多くの実証研究で明らかになっている(注5)。そのため、需要がピークに近づく時間帯ほど、市場支配力を持つ企業の「売り渋り」が市場で起きていないかを注視する必要があり、各国の電力卸売市場では市場支配力の行使を阻止する様々な手法が併用されている。

図3 売り入札減少による市場価格への影響
図3 売り入札減少による市場価格への影響
出典:著者作成。市場価格が供給曲線の垂直部分で決まっている状況の場合、売り入札の急激な減少は価格高騰に繋がりやすい。売り入札の減少は、価格操作を狙った故意の場合も起こりうるが、燃料の不足や発電所のメインテナンスなど、必ずしも価格操作の意図がない場合にも起こりうる。

6 今回の価格高騰から得られる教訓は

一点誤解をしてはならない点は、今回の価格高騰を根拠に「市場が機能していない」と結論づけるのは短絡的だということだ。実際に、この期間を除けば市場価格は非常に低水準で推移してきていたのも事実であり、買い手は低価格で電力を購入でき、発電側の費用削減努力にもつながったはずである。

しかし、2020年末からの卸売価格高騰は、高騰の程度と期間の長さのどちらをとっても異様であり、原因究明が必須である。この点については現在でも規制当局や市場参加者を中心にした調査が続いている。また、河野太郎規制改革相が率いる「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」が独自の調査を行い「電力価格高騰問題に対する緊急提言」を発表している。

日本の電力市場はデータ公開が進んでいないため、データに基づく分析がほぼ不可能である点が今回の問題をさらに難しくさせている。しかしその上で、限られた公開データと、本項で解説した卸売電力市場の仕組みを踏まえると2020年末からの卸売価格高騰から得られる教訓はどのようなものなのか以下で考えてみたい。

まず価格高騰の原因であるが、公開情報を見る限り、主原因は「市場での売り入札が減少したため」である可能性が高い。もちろん、寒波による需要増の影響もあった。しかし、データを見ると、需要量が高いにもかかわらず価格高騰が起きた時間帯と起きていない時間帯があったとがわかる。そのため、需要増が主要な影響とは言い難い。一方、価格高騰が起きた時間帯のみで起こっていたことは、売り入札の急激な減少である。まさに図3のような状況が生じ、垂直になった供給曲線上で市場価格が決まっていたため、売り入札の減少が価格に大きく影響したのである。

ではこういった状況が今後起こらないようにするために講ずることのできる策はどのようなものがあるのか。

まず1点目として挙げられるのが、発電側の競争促進である。日本の電力市場では現在でも卸売市場の売り手(つまり発電所)の約8割を占めるのは(かつての一般電気事業者である)数社の大手電力会社である。つまり、売り手の寡占市場になっており、寡占市場では市場シェアの多くを占める数社の行動がピーク需要時の価格決定に大きく影響する。これは、市場価格を操作しようという悪意の有無に関わらず発生する現象であり、この点は著者の研究を含めた近年のデータ分析からも明らかになっている点である(Ito and Reguant, 2016)。

例えば急激な需要増が起こった場合に大手電力会社が(自社の小売部門への発電量提供を優先して)卸売市場への販売を控えると、卸売市場の売り入札が急減し、価格高騰を招く。今後とも発電側が自らも多くの小売を抱える大手電力会社による寡占状態のままでは、急激な需要増加が起きた際に市場価格が不安定になる恐れは大いにある。

こういった事態を事前に防ぐ措置として、例えば海外における電力システム改革では、卸売市場の設置と同時に大手電力会社の発電部門の全てか一部が別会社に売却された。こういった措置を法令によって行うことで寡占状態を防ぎ、寡占・独占行動を事前に防ぐ取り組みが行われたのである。

2点目の教訓として挙げられるのが、データ公開の必要性である。海外の電力市場では、発電所ごとの発電量・入札額・入札量、および需要企業ごとの入札額と入札量が毎時間という単位で公開されている。こうした情報を公開することで市場の公平性と透明性を担保し、市場が円滑に進むようにしているのだ。そういった状況に比べて、日本の電力市場の情報公開は非常に遅れており、今回のような事象が起きた場合の原因解明も難しくさせている。

この点に関連して、実は1月22日から、限定的であるものの需給曲線の公開が始まった。図1からだけでは、因果関係は特定できないものの、1月22日の情報公開以降に価格の高騰が起こらなくなっており、情報公開が功を奏した可能性はある。

3点目の教訓は「価格は限界電源の入札行動に大きく影響される」という市場の基本概念が市場参加者や規制当局にとって非常に重要な意味を持つということである。特に、夏や冬に電力需要がピークに達した際に稼働する限界電源(ピーク電源とも呼ばれる)は、ピーク時の価格に大きな影響を持つので最重要である。昨年末における限界電源はLNG火力発電となることは当初から予想できたはずであるが、LNGの安定的な調達について規制当局や電力市場参加者の間でどれだけの事前予防措置が取られていたかが検証されて良い点である。

4点目は、もしも今後ともガス火力が限界電源となる可能性が高い場合、ガス火力の発電費用を安定させる取り組みが必要だということだ。日本は米国のようなシェールガス資源が国内に存在せず、ガスのパイプラインも存在しない。そのため、十分な貯蔵施設の存在や、安定したLNG調達の方法がないと、今回のような急激な電力の需要増に耐えられない。

関連して、米国ではガス火力発電所でも石油を用いることができるデュアル・フューエル型火力発電技術の導入が進んでいる。実は2020年末は、新型コロナウイルスによる世界的な石油の需要減により石油価格が安価であった。そのため、多くのガス火力発電所がデュアル・フューエル技術を備えていれば、価格が高騰したLNG ではなく比較的安価な石油での発電を行い、電力価格の高騰を抑制できた可能性がある。

5点目は、卸売スポット市場での価格を安定化させる仕組みの導入である。例えば、世界各国の電力市場では、様々な形態での先物市場の導入や、長期的相対契約の拡大促進を図ることで、卸売スポット市場の不安定性を抑制する政策が進んでいる。長期的相対契約が存在すれば、小売しか持たない企業も卸売市場のスポット契約だけに頼らずして電力を確保できるため、買い手側の混乱によるスポット価格を抑制することができる。

以上のように、市場は様々なメリットをもたらす一方で決して万能なものではなく、特に電力市場の市場設計は容易ではない。そのため、データに基づく緻密な検証が常に必要であり、そういった科学的検証をもとに、より良い市場設計(マーケット・デザイン)を構築していく必要がある。電力市場設計についてより詳細な議論は伊藤(2020b)を参照していただければ幸いである。

脚注
  1. ^ 経済学の基本理論の一つである厚生経済学では、価格が限界費用に一致する場合に社会厚生が最大化されると考える。限界費用とは「あと1単位追加的に電力を提供するための費用」であり、この費用と一致する価格が望ましいということである。電力のように一単位あたりの費用が発電量に対して一定でない場合、平均費用と限界費用には乖離が生じるため、「価格=平均費用」の政策は社会厚生を減少することになる。
  2. ^ 前日市場と取引当日のリアルタイム市場の関係についての詳細はIto and Reguant (2016)を参照。
  3. ^ 先述のように、限界費用とは「あと1単位電力を生産するために必要な費用」である。
  4. ^ 限界費用と同様、「限界電源」とは、あと1単位追加的に電力を発電する際に使われる発電所のことである。
  5. ^ 市場支配力の推定方法や結果の詳細はIto and Reguant (2016)を参照。
参考文献
  • Cicala, Steve. "Imperfect Markets versus Imperfect Regulation in U.S. Electricity Generation." Forthcoming, the American Economic Review.
  • Fabrizio, Kira, R., Nancy L. Rose, and Catherine D. Wolfram. 2007. "Do Markets Reduce Costs? Assessing the Impact of Regulatory Restructuring on US Electric Generation Efficiency." American Economic Review, 97 (4): 1250-1277.
  • Ito and Reguant (2016). "Sequential Markets, Market Power and Arbitrage," American Economic Review, 106 (7): 1921-57.
  • 伊藤 (2020a)「系統運用、公的機関へ移行を 発送電分離の課題」日本経済新聞 経済教室
  • 伊藤 (2020b). "経済理論と実証分析に基づく電力市場設計." 現代経済学の潮流 (2021): 67-98.

2021年3月9日掲載