Special Report

男女比が崩れた中国では本当に女性は「選び放題」なのか?
―中国北京市の婚姻登録業務データからわかった結婚の実態―

殷 婷 研究員

少子高齢化時代に入った成熟社会の日本にとって、晩婚化・非婚化問題は大きな社会問題となっているが、中国の場合、地域によってはすでに少子高齢化時代を迎える「未富先老」(豊かになる前に高齢化が進む)となり、日本以上に深刻かつ複雑な状況になっている。

中国では、世間でもドラマの題材として、「剰女」と呼ばれる30歳前後の未婚女性がしばしば取り上げられる一方、「結婚できない男」は2020年に3000万人から3500万人に達する見込みで「男余り」の状態も深刻であることはよく指摘されている。

これらの問題の背景には、70年代末から実施された「一人っ子政策」の影響により、男女の人口バランスが崩れていることがある。すなわち、男女比(女性100人当たりの男性の数)の問題である。通常は女性100人に対して男性が102~107人までの間であれば自然の状態だと言われるが、中国の国家計画出産委員会の統計によると、中国における男女比は118である。つまり女性を100人としたとき男性が118人となることを意味しており、世界の平均的男女比を大幅に上回っている。しかも、男女比の不均衡が深刻化するということは単に数の問題ではなく、都市部と農村部では問題の性質が異なっている。簡単に言えば、農村部では男子の誕生を喜ばれる風潮があるため、嫁不足に悩む男性が増えているのに対し、都市部では、女性が格下の男性と結婚するより独身でいることを好むという伝統的な思想の影響により、数多くの高学歴・高収入な女性は「都市剰女」となっている。

首都である北京は、政治、経済、文化の中心である。北京に住む人々の最近の婚姻行動を検証することは、ひいては全国の婚姻実態を把握し、晩婚化・非婚化に関する政策提言を行う上で先導的な役割を果たせると言っても過言ではない。北京市民政部情報センターは「数字民政」というプロジェクトの一環として、2004年から北京市婚姻登録業務データベースを構築している。合計で約170万組の夫婦の婚姻情報が集計されている。この膨大なデータによって近年の北京市在住者の婚姻行動の特徴、およびその決定要因を明らかにすることができる。筆者の共同研究者でもある北京師範大学社会発展・公共政策学院の高穎副教授は、このプロジェクトの主要な担当者である。われわれはこの貴重で膨大なデータを用いて、結婚行動、離婚行動、再離婚行動および国際結婚について分析を行う予定である。現段階では、結婚行動のみに焦点を絞って、その実態と決定要因をまとめた。

1. 学歴から見た結婚状況

中国は「超学歴社会」に突き進んでいるため、学歴が高ければ高いほど、いい職業、高い所得、高い地位、いい結婚相手、いい人生などが手に入れられる可能性が高い。男女の学歴別にみた結婚行動は表1で示されている。

表1:最終学歴別に見た結婚している夫婦の割合(北京市)
女性
小学校中学校高校専門学校
(中学校卒業後)
短大・大学大学院総計
男性小学校0.500.680.180.150.090.001.6
中学校0.896.541.951.751.450.0212.60
高校0.232.203.261.432.840.0610.02
専門学校
(中学校卒業後)
0.211.971.324.153.600.0411.29
短大・大学0.121.382.333.2939.054.3550.51
大学院0.000.040.080.116.147.6314.00
総計1.9512.819.1210.8853.1712.1100
出所:北京市婚姻登録業務データより著者作成

表1によると、同じ程度の学歴を持つ夫婦の割合は61.13%で、最終学歴が同じ夫婦の組み合わせは同類婚の主要なパターンである。女性の学歴が男性より低い夫婦の割合は20.31%、男性の学歴が女性より低い夫婦の割合は18.59%である。すなわち、「男高女低」パターンは「女高男低」より多い。先行研究によると、夫婦間の学歴の差は経済発展と共にU字型になっている。すなわち、経済発展によって社会保障制度が改善し、生活水準の上昇によって、結婚相手を通じて自分の社会地位や生活水準を高めようとする人々のインセンティブは弱まっている。その結果、夫婦間の学歴差は拡大していく。北京はすでに先進地域であるが、夫婦が同程度の学歴を持つ割合は依然として高く、夫婦間の学歴差が拡大する傾向はまだ見られない。これは北京の社会構造の変化と経済構造の調整に問題があるため、社会全体として見た場合、理論上予想されるほど開放的にはなっていないことが主因である。同じことは、北京以外の先進地域、たとえば、上海についてもいえるだろう。

2. 戸籍分類からみた結婚状況

かつては東アジアの広い地域で戸籍制度が存在していたが、現在では中国と日本でのみ存在している。中国の戸籍制度は非常に特徴的で、日本の戸籍制度の概念と根本的に異なっており、日本の感覚でいえば国籍のようなものである。1958年に施行された戸籍登記条令により、「都市戸籍」と「農村戸籍」は厳格に区別され、まったく異なる社会的待遇を受けるという「二重社会構造」が出現している。中国戸籍制度の下には移動の自由がない。同じ国民であるにもかかわらず、農村戸籍を持つ農民は二等国民の扱いを受ける。こうした都市と農村の戸籍の差別によって、所得、社会保障、就業および教育といった面で深刻な格差が生じている。

格差拡大の原因となってきた戸籍制度は言うまでもなく、前述の格差を含むさまざまな点が結婚行動に影響を与えるだろう。そのため、中国国務院は7月30日に「戸籍制度改革の推進に関する意見」を発表した。「意見」に基づき、戸籍制度改革を推進し、都市部と農村部の戸籍登録制度を統一する方針が明らかになった。このような背景の下、戸籍が結婚行動に与える影響を検証することは意義深い。

表2:夫婦の戸籍別結婚実態(北京市、構成比:%)
年度男(北京)女(北京)男(北京)女(北京以外)男(北京以外)女(北京)
200459.6229.3811.00
200553.7133.7312.53
200658.3927.8911.24
200752.5233.4413.64
200851.9033.9614.13
200952.6233.3314.04
201050.2635.2214.49
201152.8432.9014.26
全体54.1332.3213.06
出所:北京市婚姻登録業務データより著者作成

表2は夫婦の戸籍別に見た結婚の実態を示している。まず、全体を見ると、夫婦が共に北京戸籍をもっている割合は、年々減少している傾向が見られるが、依然として最も高く、54.13%にのぼる。共通の文化、風習、言葉および生活習慣などは結婚する際に重要な前提条件となっており、同類婚が主流となっていることを示唆する(Becker, 1973 参照)。

注目すべきは、男性が北京戸籍を持ち、女性が持っていない夫婦の割合は32.32%であるのに対し、女性が北京戸籍を持ち、男性が持っていない夫婦の割合(13.06%)はわずかその約5分の2であるという事実である。このことと表1の結果を考えあわせると、北京戸籍を持つ女性の方が、より同類婚する傾向、すなわち、北京戸籍の異性、あるいは自分と同等に優秀な異性と結婚する傾向が強いことが分かる(Bernard,1982参照)。農村の嫁不足と、「都市剰女」の実態が、データから確認できる。

このように夫婦のどちらかが北京戸籍を持っていない夫婦の割合は、年々少しずつ上昇し、近い将来、同類婚の割合と肩を並べるであろう。これに加え、一人っ子政策時代に生まれた一人っ子世代が結婚適齢期に入りつつある。将来的に、北京以外に居住している片方の老親は、元々差別的な戸籍制度から生じた社会保障面の不平等に加え、唯一の子供に身近で老後の面倒を見てもらえないという、深刻な老後の問題に二重に直面することが予想される。この問題に対応できる社会保障体制の構築と運用、戸籍制度改善との一体改革が急務である。

3. 戸籍効果が夫婦の年齢差に与える影響について

次に、夫の年齢から妻の年齢を引いた夫婦の年齢差を1つの主要な指標として結婚行動を検証した。既述の統計によると、「男小女大」「男女同年齢」「男大女小」の比例は1:1:3.6となっている。時系列で見ると、「男大女小」の割合は年々減少していく傾向がある。また夫婦の年齢差は平均で2歳であり、年と共にその年齢差は縮小している。これは「男小女大」の組み合わせの増加と「男大女小」の組み合わせの減少によるものである。

学歴や都市戸籍の有無を考慮に入れても、こうした傾向はみられるのだろうか。この点を明らかにするために、筆者と広島大学国際協力研究科の川田恵介准教授は、夫婦の年齢差の決定要因について、計量経済学の手法を用いて検証した。夫婦の戸籍の種類、年齢、学歴、就業状況および結婚年をコントロールした上で、以下のような結果が得られた。

北京全体では、北京戸籍を持っている女性の方が、より自分に近い年齢の男性と結婚する可能性が高い。また、2004~2013年までの時系列データから見ると、その傾向はほぼ安定的である。

また、男女ともに年齢が上がれば上がるほど、自分より年下の異性と結婚する可能性が高くなると予想される。特に「都市剰女」と呼ばれる30代の女性は、自分より約2歳半年下の男性と結婚する傾向が見られる。しかし、時系列で見ると、この10年間において、女性の場合は、年齢差は縮小していることが分かる。男性の場合は安定傾向だが、30代男性は年と共に女性との年齢差が縮小していることが分かる。

学歴について、男女は共に学歴が高ければ高いほど、より年下の相手と結婚する可能性が高い。時系列で見ると、男女は年と共に相手との年齢差が広がっていくことが分かる。

まとめ

結婚問題はマッチング問題の1つである。中国を代表する大都市である北京の10年間の婚姻登録業務データを用いて、戸籍および学歴別にみた結婚の実態、また戸籍が夫婦の年齢差に与える影響について回帰分析を行った。その結果によると、戸籍と学歴は、結婚行動に影響を与えている。しかも、すべての面から同類婚の特徴が見られる。さらに、学歴や年齢、戸籍から、女性は自分より優秀な男性を選ぶ傾向が見られる一方、時系列で見ると、特に年齢と学歴の場合、都市における女性の初婚年齢が上がっていること、また、高学歴の女性が増えていることは、夫婦間の年齢差と学歴差が縮小していく傾向を強めている。男性は自分より優秀な女性を選ばないという伝統的な結婚行動は依然として存在しているので、大都市において、量的には、男女比が崩れているといっても、単純な男余り・女不足ということではなく、低学歴の男性だけでなく優秀な女性も結婚市場における深刻なマッチング問題に直面し、余ってしまう。

したがって、社会におけるお見合いや合コン産業をいかに発達させても、その成功にはあまり楽観的になれない。犯人は、人々の考え方である。すなわち、まず自分より優秀な妻を選ばない、あるいは、自分より優秀ではない夫を選ばないという「男尊女卑」の古い考え方を捨てなければならない。以上から、政府や世間はいくら「剰女」への偏見を捨てるよう国民に呼びかけても、また、いくら合コン産業に力を入れても、効果は限定的であろう。結婚行動を分析する際、外見、健康、内面および家庭背景なども考慮に入れるべきであるが、そういった情報を利用したより厳密な分析は今後の課題である。

最後に、政策的インプリケーションを述べる。中国における晩婚化・非婚化問題を解決するためには、戸籍制度の改善が必要で、都市と農村の戸籍の差別から生じた結婚行動の歪みを矯正していくことである。また、一人っ子の結婚適齢世代は、4人の親と1人の子供の両方の世話をしなければならないという問題に直面している。このような一人っ子政策の影響を和らげるために、社会保障制度の改革も急務である。政府が主導する部分と、市場に任せる部分は、明確に分けられる必要がある。たとえば、介護保険制度の導入も考えられる。さらに、夫婦共働きが主流となる中で、出産・育児に関する支援策も必要である。たとえば、育児短期間勤務制度の導入などが考えられる。すなわち、戸籍制度の改革と、介護・子育てに関する社会保障制度改革は、切り離さず一体的に推進していく必要がある。

謝辞:本レポートの作成にあたり、森川正之氏から有益なコメントをいただいた。ここに謝意を記したい。

2014年9月5日
参考文献
  • Becker, Gary. S. (1973), A Theory of Marriage: Part 1. Journal of Political Economy. 81(4):813-846.
  • Bernard, J. (1982), The Future of Marriage. New Haven: Yale University Press.
  • Melvyn G. Coles and Marco Francesconi (2011), On The Emergence of Toyboys: The Timing of Marriage with Aging and Uncertain Careers. International Economic Review. 52(3):825-853.
  • Paula England and Elizabeth Aura McClintock (2009), The Gendered Double Standard of Aging in US Marriage Markets. Population and Development Review. 35(4):797-816.
  • 高颖, 张秀兰(2011)≪北京市近年婚配状况的特征及分析≫, ≪中国人口科学≫, 第6期.
  • 陈瑾(2014)≪“数”说北京婚姻之9年变迁≫, ≪北京社区报≫.

2014年9月5日掲載