世界の視点から

大不況後の財政緊縮

Christopher HOUSE ミシガン大学経済学部准教授

Christian PROEBSTING スイス連邦工科大学ローザンヌ校科学共同研究員

Linda TESAR ミシガン大学経済学部教授

欧州各国の景気がなかなか回復しない理由は、大不況の最中に実施された緊縮的な財政政策であるといわれている。本稿は、先進29カ国のデータを利用し、緊縮政策がGDPやインフレ率、消費、投資を抑制し、景気に悪影響を及ぼしているということを示す。さらに、不況の最中に、財政緊縮を行って債務を減らそうとすると、かえって逆効果になると警鐘を鳴らす。

2008–2009年の大不況以降、欧州の景気回復のペースは国によって大きく異なる。最も苦しい状況にあるのがギリシャで、そもそも景気は一度も回復していない。2014年末時点におけるギリシャ国民1人当たりの所得は、2009年の水準に比べて25%以上も急落している。ギリシャのGDPはひときわ著しく縮小したが、金融危機後のGDP縮小はギリシャに限った話ではない。欧州全体の約3分の1の国において、2009年から2014年の間にGDPが純減している。逆に好調なのがリトアニアである。リトアニアもギリシャと同様、不況期に大幅なマイナス成長に見舞われた。ところがギリシャとは異なり、その後間もなくして急速な経済成長軌道に回帰している。

金融関連メディアや経済学者の多くは、政府支出の削減と税率引き上げを伴う緊縮政策が、欧州の一部の国の景気回復を遅らせている元凶だと指摘している(たとえばBlanchard and Leigh 2013, Krugman 2015)。我々の分析によると、実際のところ、緊縮政策の差異が異なる景気の原因になっている可能性があり、こうした政策は政府債務GDP比率の高い国の比率をさらに高めるという逆効果をもたらすことがわかった (House et al. 2017)。

財政緊縮策の尺度

財政緊縮の度合いを計測するため、我々は政府支出の予測値と実績値の差を使用した (Blanchard and Leigh 2013)。政府支出に関する我々の予測には、経済情勢についての情報も反映されている。したがって、予測結果の誤差は、景気変動に対する財政政策の「正常な」反応からの逸脱と解釈できる。通常、不況期には支出が増加するが、金融危機後に支出が増えていない場合、このような支出のあり方を「緊縮的である」と分類した。

財政緊縮の度合いを計測する独自の尺度を、GDP、インフレ率、景気を示すその他の指標について同様に構築した予測誤差と比較した。図1で示した散布図は、危機後の期間(2010–2014年)における、GDPの予測誤差の平均と政府支出の予測誤差の平均との関係を示している。赤い点はユーロ圏諸国、あるいは自国通貨をユーロに連動させている国を、白い点は変動相場制の国を、それぞれ示している。右下の端に位置するのがギリシャ(GRC)である。ギリシャの政府支出GDP比率は、危機前と比較して約9%低下している。同時に、ギリシャのGDP自体も約20%低下した。これとは対照的に、スイス、ドイツ、スウェーデンでは、政府支出とGDPの実績値が予測値とほぼ等しい。平均すると、緊縮的な財政政策を採った国ほど、GDPの低下が著しい。国レベルの横断的な乗数(図中の近似線の傾き)は-2である。つまり、政府支出が1ユーロ減れば、GDPが2ユーロ減少することを示している。この推定値は、税、生産性、債務比率、金利スプレッドに関して観察された変化を、統計的にコントロールしている。

図1:政府支出とGDPの予測誤差
図1:政府支出とGDPの予測誤差
出典:House et al (2017).

また政府支出の引き締めは、インフレ率、消費、投資とも負の相関にある。支出が減少した国では、純輸出が増加し(特にユーロ圏諸国)、名目実効為替レートが減価する(特に変動相場制の国)。租税政策が景気に大きな影響を与えることを示すエビデンスははっきりみられなかった。

財政緊縮が経済活動と債務に与える影響

マクロ経済モデルは、世界同時不況とその後の状況をもたらした主な原因について説明できない、と再三、批判を浴びてきた。我々はこの批判に応えるため、国の経済規模、貿易のつながり、為替レジームのデータと適合するように調整された、多国間ニュー・ケインジアン型動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルを開発した。財政緊縮ショックに加えて企業の信用コストショックや金融政策ショックもモデルに取り込んでいる。このモデルを使うことにより、経済のどの特徴が、そしてどのような種類のショックが、国の経済規模などのデータを説明する上で重要なのかを突きとめられる。全体的に見て、このモデルから出てくる予測は、データをもとに得られた予測にかなり近い。このモデルにおける国レベルの横断的な政府支出乗数は約-2であり、これは我々の誘導型の推定値とも合致している。モデルでは財政緊縮は純輸出と正で相関し、インフレ率とは負で強く相関している。

このモデルが実際の政策変更に対する欧州諸国の反応を再現している限り、そのモデルを使って異なる政策が採られた場合にどんなことが起きたかもしれないかについて検討できる。図2は、3つの反実仮想的なシナリオを示している。財政緊縮が実施されない場合、変動為替相場制を採用している場合、そして財政緊縮が行われた場合とそうでない場合の政府債務GDP比のダイナミクスである。図2の上段は、EU10諸国(ベルギー、ドイツ、エストニア、フランス、ルクセンブルク、オランダ、オーストリア、スロベニア、スロバキア共和国、フィンランド)についてシミュレーションにより得られたGDPの軌跡を示している。下段は、GIIPS(ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペイン)におけるその軌跡を示している。我々は最初の実験において、各国は名目金利がゼロ下限制約(ZLB)下にある状況に直面しているという条件を課した。Nakamura and Steinsson (2014) とよく似た結果となり、ZLBは政府支出とGDPの時間を通じた関係性を決める際には重要であるが、国レベルの横断的な乗数を説明する上では重要な役割ではない(実際のところ、ZLBは図1の近似線の傾きを不変のまま、すべての点を押し下げる)。

図2:反実仮想的な政策シミュレーション
図2:反実仮想的な政策シミュレーション
出典:House et al (2017).

本モデルによると、各国が財政緊縮ショックを受けなかった場合、EU10のGDPは危機前とほぼ同水準となり(実際は3%減)、GIIPS諸国のGDPは1%減にとどまっている(実際には、GDPはそのトレンドよりほぼ18%減。図2の左列パネルを参照)。

欧州各国が財政緊縮ショックに対して独自に金融政策を行うことができれば、GDPの落ち込み幅を小さくできる(図2の中央列パネルを参照)。ベンチマークのモデルと比べて、各国が独自に金融政策を行えた場合、GIIPS各国の産出量は増えるが、EU10では減少する。なぜなら、GIIPSの名目為替レートが下落し、輸出と生産が促進されるためである。これとは対照的にEU10はユーロに対する相対的な通貨安による輸出促進をすでに享受しているため、変動為替レートがもたらす追加的なメリットを得ることはできない。

最後に、本モデルを使うことによって、さまざまな条件下における政府債務GDP比率のダイナミクスについて考察できる。緊縮的な財政政策実施の主な論理的根拠は、ユーロ圏全体でみられる政府債務GDP比率の上昇を遅らせることにあった(2010年時点で、EU10は80%弱、GIIPS諸国は95%まで上昇)。図2の右列のパネルは、さまざまな仮定の下、EU10とGIIPSの政府債務GDP比率の推移を比較したものである。薄い点線は静学的な推定値を示しており、政府支出が変化してもGDPと税収は影響を受けないと仮定する。この評価尺度に従えば、GIIPS諸国が緊縮的な財政政策を実施することによって、政府債務GDP比率は、2008年から2014年の間に20ポイント以上低下していたはずだ。ところが実際には、政府債務GDP比率は20ポイントも上昇している。

このような静学的な推定法は、我々のモデルが捉えた3つの内生的反応を見落としている。
1) 政府支出の縮小はGDPの低下をもたらす。
2) GDPの低下は、税収の減少につながる(以上2つの影響により、政府債務GDP比率が上昇する)。
3) 財政緊縮は部分的に他の国にも影響を及ぼす。

これらの経路を考慮に入れると(図の"benchmark" 系列)、我々のモデルは、GIIPS諸国の政府債務GDP比率が、データ上観測されたのと同程度、実際に上昇すると予測している。本モデルは、緊縮的な財政政策が実施されなかった場合、GIIPS諸国の政府債務GDP比率はこれほど上昇しなかったと予測している。我々は、本モデルが導き出す結論を、欧州債務危機の処方箋としてそのまま受け入れるわけではないが、本モデルは、不況の真っ只中に財政緊縮を行って債務を減らそうとするのはかえって逆効果であることを示唆している。

本稿は、2017年4月11日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2017年5月18日掲載)を読む

参考文献
  • Alesina, A, G Azzalini, C Favero, F Giavazzi and A Miano (2016), "Is it the ‘how’ or the ‘when’ that matters in fiscal adjustments?," NBER Working Paper.
  • Alesina, A, C Favero and F Giavazzi (2015), "The output effect of fiscal consolidation plans," Journal of International Economics 96(S1): S19–S42.
  • Blanchard, O and D Leigh (2013), "Growth forecast errors and fiscal multipliers," American Economic Review: Papers and Proceedings 103(3): 117–20.
  • Christiano, L J, M Eichenbaum and S Rebelo (2011), "When is the government spending multiplier large?," Journal of Political Economy 119(1): 78–121.
  • Eggertson, G B. (2011), "What fiscal policy is effective at zero interest rates?," NBER Macroeconomics Annual 25(1): 59–112.
  • Greenwood, J, Z Hercowitz and G W Huffman (1988), "Investment, capacity utilization, and the real business cycle," American Economic Review 78(3): 402–17.
  • House, C L, C Proebsting and L L Tesar (2017), "Austerity in the aftermath of the Great Recession," NBER Working Paper.
  • Krugman, P (2015), "Austerity arithmetic," New York Times, July 5.
  • Nakamura, E and J Steinsson (2014), "Fiscal stimulus in a monetary union: Evidence from US regions," American Economic Review 104 (3): 753–92.

2017年6月30日掲載

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