世界の視点から

ギリシャはなぜユーロ離脱によって救われないのか:輸出神話を覆す

Guntram B. WOLFF Bruegel 所長

取り返しのつかない状況になった。ヨーロッパでは再びギリシャのユーロ離脱の可能性が議論されている。また、ユーロ離脱はギリシャにとってメリットになるのか否か、他のユーロ圏諸国への波及についても議論が再浮上している。言うまでもなく、重要な問題は、ギリシャの金融システムが債務を再編し、ユーロ離脱をどう乗り切るのか、金融市場へのアクセスが再び開かれるまでにどれくらいの時間が必要なのか、比較的小さい金利負担を前提とした場合、債務再編による恩恵はどれくらいなのかということである。外からの支援を受けられなくなることは、ギリシャにとってさらに重くのしかかる要因であろう。ギリシャの視点から見て、これらすべては明らかにユーロ離脱に反対する要因だが、本稿はこの点について詳しく論じない。

むしろ本稿では、「ギリシャが再び成長するには、通貨の切り下げと競争力の回復が必要で、そのためにはユーロから離脱すべきである」という主張に焦点を当てたい。これは主に、ミュンヘンIfo経済研究所のHans-Werner Sinn教授による論点である。

それでは、データから何がわかるのか。2007年以降、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペインはいずれも経常収支の巨額な赤字から、ほぼ均衡状態、あるいは黒字へと大幅な調整を遂げた。しかしながら、その調整の中身は各国で大きく異なっている(図1)。アイルランド、スペイン、ポルトガルでは調整の大部分が輸出の増加によるものだった。つまり、3カ国では生産構造を改革し、輸出を大幅に増やした。これは望ましい、健全な調整方法であり、3カ国における対外収支の調整は、主に需要縮小によるものではないということも示されている。イタリアにおいても、輸出の増加分が輸入の減少分を上回った。

ギリシャは、対外収支の調整において突出したアウトライヤーである。その調整はほとんど輸入の縮小分によるもので、輸出がプラスに転じたのはごく最近のことである。

図1:経常収支の推移(2007-2014年)
図1:経常収支の推移(2007-2014年)
出典:AMECO Autumn 2014 Forecast。
注:名目の変化は2014年のGDPに占める率としてユーロで示した。 輸入の変化は逆方向に表されており、輸入の増加は経常収支に負の影響を及ぼす。

このことから、何がギリシャの輸出を妨げているのかという疑問が生じる。高い賃金、あるいは実質的な通貨価値が低下しなかったことが、他のユーロ圏諸国とギリシャの調整が異なっている主な要因なのか。図2は公共部門・民間部門の賃金をユーロベースで示している。

図2:公共部門と民間部門の1時間あたりの労働報酬(ユーロ)
図2:公共部門と民間部門の1時間あたりの労働報酬(ユーロ)
[ 図を拡大 ]
出典:Eurostatの四半期毎の国民経済計算データ(労働時間で除した労働報酬)を用いて計算。
注:ドイツ、アイルランド、イタリア、ポルトガルについては、2014年第2四半期のデータが入手できないため2014年第1四半期のデータを使用。

図に示されるように、財政状況が厳しいユーロ圏の国すべて(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリア)において公共部門の時間給は低下、もしくは据え置かれているが、ドイツとフランスでは上昇している。さらに興味深いことに、ギリシャのみが民間部門の賃金においても大幅に低下している。他の支援プログラム対象3カ国(アイルランド、ポルトガル、スペイン)では調整の取り組みがあったにも関わらず民間部門の時間給が上昇しており、この点は対照的である。

輸出の推移と民間部門の賃金の推移を相関させると、ギリシャはアウトライヤーである。2007-2014年の間、名目賃金の伸びは著しく低下したにも関わらず、輸出の不振が続き、他の国で見られたようには回復しなかった。さらに、下記の散布図では、リトアニアやスロバキアと同様、ギリシャが明らかにアウトライヤーであることが示されている。

図3:名目賃金の推移(2007-2014年)と名目輸出の推移(2007-2014年)
図3:名目賃金の推移(2007-2014年)と名目輸出の推移(2007-2014年)
出典:AMECO Autumn 2014 ForecastおよびEurostatの四半期毎の国民経済計算データ。
注:名目輸出の推移は2014年のGDPに占める割合で示されている。名目賃金の推移は2007年第4四半期から2014年第1四半期の間の名目賃金変化率を計算。

総合的に見て、私の結論は、ギリシャ経済は期待されたほど通貨価値の急激な低下の恩恵を受けられないということである。ギリシャの輸出不振は、とりわけ製品市場の硬直性、真の変革を妨げ少数の利益を保証する政治システム、そしてブルッキングス研究所のPelagidis氏が的確に述べているが、能力主義の欠如などの理由によるものである。トロイカ制度がギリシャの改革に役立つ限り、ギリシャのユーロ離脱は逆効果を招くことになるだろう。

これは、現在の債務の推移や債務水準が持続可能であるというわけではない。特に、低インフレが続き、成長がトロイカの想定を下回る場合、ギリシャの債務負担をさらに軽減する必要があるかもしれない。これまで公的債権者によってそのような債務救済策が何度も採られてきたが、今後も、ユーロ圏の債権者に損失を与えることなくギリシャの債務負担を軽減する方策の可能性もある。実際、現在平均で30年となっている返済期限が延長される可能性がある。また、欧州の融資の貸出金利がさらに引き下げられる可能性もある。以上はいずれも、ギリシャにとってすぐに使える資金の増加にはつながらないが、債務負担の持続可能性を大幅に向上させることになるであろう。

ギリシャのユーロ離脱は広範囲にわたる金融の混乱や経済的混乱につながり、国内経済に多大な悪影響を及ぼし、銀行取り付け騒ぎやギリシャからの資本逃避を引き起こすことになるだろう。資本規制の実施が必要になるが、キプロスの例が示すように、容易には解除されるものではない。新たに導入されるギリシャ通貨は価値が暴落し、高インフレにつながり、また一方では多額の外貨建て債務を抱える銀行や企業は破綻に追い込まれるであろう。さらに、ギリシャは一定の期間、市場から締め出され、ギリシャの企業や社会の借入コストは急騰し、再び景気後退局面に陥ることにつながるだろう。

2012年と比較して、金融上の悪影響が他のユーロ圏諸国へ波及するリスクは低い。現在欧州中央銀行(ECB)が「最後の貸し手」として機能しており、金融システムの健全性も向上し、欧州の新しいガバナンス構造が整っているからである。しかしながら、ギリシャの新通貨の価値は大幅に低下し、ひいてはギリシャの銀行、ノンバンクの債務不履行につながり、説明責任を負う公的部門の損失に加え、ユーロ圏各地の対ギリシャ民間債権者を脅かすことになるだろう。また、ユーロの不可逆性による長期の政治的影響を甘く見るべきではない。すなわち、ユーロ圏は最も弱小な国の存続を保証する手段の確立に失敗したことを意味する。

本稿の結論は、ユーロ圏からの離脱はギリシャ経済の救済にあまり寄与しないということである。経済が硬直しているため、賃金コストの変化に輸出が大きく反応しないからである。むしろ、ギリシャとユーロ圏諸国双方にとって、債務不履行とユーロ離脱を回避する包括的合意を見出すことが利益になるのは確かである。

本コラムの原文(英語:2015年2月9日掲載)を読む

2015年3月2日掲載

2015年3月2日掲載

この著者の記事