世界の視点から

地理、特異ショック、マクロ的変動

Esteban ROSSI-HANSBERG プリンストン大学教授

経済はさまざまな地域的ショックを受ける。たとえば、自然災害や気象に関連した混乱、天然資源の発見、特定貿易ルートの寸断、企業の倒産や地元企業にとってのショック、また労働者のストライキなどである。さらに、各産業は空間的に偏って分布しているため、産業のショックは局地的なものである。このような地域的ショックの大半は、経済全体への影響という意味では小さく、直接的に影響が及ぶ町や企業、産業の範囲を超えて影響を及ぼすことはない。しかしながら、州や他部門、さらに重要なことに経済全体に広く影響を及ぼすようなショックもある。

日本は震災と津波の経済的影響でこのような大きなショックを直接的に経験したが、ハリケーン・カトリーナに襲われたニューオーリンズなどの都市、米国自動車メーカーの問題を抱えるミシガン州、またハイテク産業で発明が行われるカリフォルニア州なども同様である。地域的ショックの例は枚挙にいとまがないが、経済全体にも大きな影響を与えるのだろうか。地域的ショックが経済全体の結果に及ぼす影響について測定・評価できるのだろうか。経済全体の生産性の弾力性、産出、雇用は何に基づいているのであろうか。以上の質問に対する答えを理解することは、経済へのショックの影響を軽減し、対応できるような政策を設計する上で不可欠である。

特異なショックが経済全体に変動をもたらすという、潜在的重要性については以前より認識されてきた。それにもかかわらず、「大数の法則」に基づく議論により、特異なショックが経済全体に変動をもたらす重要な原因、とは考えられてこなかった。つまり、多数の「小さな」ショックを合算すると、特異なショックはマクロ的な平均に集約されるという考え方である。最近、この考え方に対しては理論的、実証的にさまざまな形で異議が唱えられている。たとえば、Gabaix (2011) は、ショックを受ける経済主体が企業の場合、企業数が非現実的なほど多くなければ、ショックは平均に集約されないと主張している。なぜなら、企業規模の分布はパレート分布で近似でき、裾野が広く(ファットテイル)、大数の法則に収れんする速度が非常に遅いことを意味する。アメリカ全土の企業数すべてをもってしても、収れんの速度が非常に遅いため、企業レベルの特異なショックは全体に影響を与えてしてしまう。したがって、ゼネラルモーターズ(GM)やウォルマートのような米国の一部大企業が受けるショックは、総生産高に大きな影響を及ぼす。

また、産業ショックが経済全体の結果に与える影響に焦点を当てる研究もある(Acemoglu, et.al, 2012など)。この研究によると、詳細な産業レベルで生産性が変動した場合においても、経済の産業連関構造のため、このような変動は平均に集約されないという。特に、米国経済における一部部門の中心性によって、部門間のつながりに偏った分布がもたらされ、特異なショックが経済全体の結果に大きな影響を及ぼす場合もある。企業のケースと同じ論理だが、この場合、産業とその前方連関・後方連関にかかわるものである。石油産業は中心的産業のよい例で、多数の部門において重要な原材料として利用されている。

企業ショックや産業ショックがマクロ的変動を引きおこす重要な要因であるというエビデンスは説得力がある。しかしながら、空間という重要な側面について考慮されていない。特異なショックの多くが空間的な性質を持っているだけではなく、企業や産業固有のショックにも重要な空間的側面がある。特定の産業へのショックは、その産業や別の産業から供給される投入物、さらには投入物の供給元を変える可能性もある。ひいては各地で異なる取引形態や明確な労働力配分につながる。すなわち、これらのショックは地域の生産者全体に影響を与える場合があるということだけでなく、特定の場所で操業する部門や企業があるため、空間は重要だといえる。経済活動は空間に均一的に分布しているという状況からはほど遠く、このことは特異なショックの伝播と関連している。すなわち、ある部門における生産性ショックに対する産出量弾力性や生産弾力性は、空間におけるその部門の分布と相関関係がある。

以上のパターンを理解し、異なる伝達ネットワークの重要性を評価するためにはまず、ある場所を特徴づける重要な要素を特定する必要がある。"The Impact of Regional and Sectoral Productivity Changes on the U.S. Economy"(Caliendo、Parro、Sarteとの共著)で、私たちは見解を明らかにしている。提案したモデルにおいては、各地(私たちの定量的分析では全米50州)にはさまざまな部門別技術、移動不可能な生産要素のストック、(部門別の州間の輸送コストに関する)地理的条件がある。労働力は地域間を自由に移動できると仮定する。

詳細な仮定がそろったので、特異なショックに対する経済活動全体の弾力性において、空間が果たす重要性について考えたい。特定の州に集中している特定の部門がプラスのショックを受けると、その一部の州における生産や生産性は向上し、流入人口が増え、それらの州の生産物を中間投入財として用いる州が増えることになり、地域で行われている取引の一部はそれらの州との取引に取って代わられるようになる。直接的影響の結果、生産性は向上するが、企業の選択が甘くなることから、生産性向上の割合は比較的低い伸びに止まる。一方、それ以外の地域では、このようなショックの結果、生産者が他の場所に移転して州経済から退出し、企業の選択がより厳しくなるため、生産性が高まる傾向がある。

以上の影響はすべて、経済の地理的条件と関係している。州間の取引コストに反映されるように、相対的に隔絶された州では、ショックに対して、中心に位置する州とは異なる反応を示す。隔絶された州は、他州への中間財の供給という観点で相対的に劣勢で、生産性ショックの結果としての産出の拡大幅は相対的に小さくなる傾向がある。

さらに、人口移動の役割と地域的な生産要素について考察したい。地域的な生産要素は、地域ショック、および産業ショックの弾力性を測定するうえで、特に重要な役割を果たす。一部の生産要素は明らかに固定的である。(たしかに生産や住宅用に改良の余地のある土地もあるが)州の土地は本質的に非弾力的である。幹線道路、港湾、競技場、コンサートホールなどの建造物を建設する場合、その整備には数十年とはいわないまでも、数年間かかる。住宅やビルのような建造物の整備はより頻繁に行われ、機械や設備といった資本は、柔軟性と可動性が高い。生産要素を単純に移動可能か固定的かに区別するだけだと、明らかに、このような潜在的に重要な違いが考慮に入れられていない。この区別をつけることは、分析の時間的条件を決定することを意味する。われわれの論文では、労働力は移動可能、設備は他の有形投入要素と同様に毎期ごとに売買される、それ以外の建造物は固定的という考え方であり、全米の固定的要素のうち13%を占めるという計算になる(計算はGreenwood, Hercowitz and Krussell, 1997 による)。ただし、この割合は州によって大きく異なる点は重要である。1人当たりの移動不可能な生産要素のストックが非常に低い州について考えてみる。その州がプラスの生産性ショックを受けた場合、移住してきた人々は地域の資源に負担をかける。1人当たりの移動不可能な生産要素は以前よりも減少し、景気の拡大幅は相対的に小さくなる。移動不可能な生産要素の価格は上昇し、州内のあらゆるものの価格が高くなり、当初の人口流入は減少する。地域的な要素の多い州では正反対の影響を受けるであろう。米国では、イリノイがその例である。したがって、イリノイにプラスの影響を与えるショックは、州に与えるマイナスの影響のショックと比較して、全体として大きな弾力性を持つだろう。

私たちは、部門別の州間取引フロー、地域別所得と生産要素使用に関するデータ、および国全体の産業連関表など、豊富なデータを利用して定量化できる枠組みを提案している。次に、大規模な均衡取引モデルの解明を可能にした、最新の計量経済学による取引に関する研究を利用し、前述した地域的特徴を加味し、貿易の枠組みを国際間から地域間の枠組みへと転換する。この結果、地域的ショックおよび部門レベルのショックが、経済全体や地域経済に及ぼす影響を定量化できるモデルとなった。現時点では、米国のみに使用されているが、いろいろな国に容易に適用できる。

コンピュータ・エレクトロニクス産業が受けた10%の生産性ショックを例とし、得られた結果の一部を取り上げたい。同産業は2007年(すべての計算の基準年)の米国の国内総生産(GDP)の約2.5%を占めている。この産業が受けるショックに対する産出量全体の弾力性は0.94である。この結果は、地域的な生産要素が比較的豊富なカリフォルニア1州にこの産業が地理的にかなり集中していることもその理由の1つである。対照的に、集中度の低い部門である建設業(非貿易財)の弾力性は0.54である。

図1~3(私たちの論文の図15からの転載)は、コンピュータ・エレクトロニクス産業が10%の生産性ショックを受けた結果、全米各州におけるGDP、全要素生産性(TFP)、雇用がそれぞれどのように変化するか、われわれのモデルによる予測を示している。その影響は州によって極めて多様である。カリフォルニアやマサチューセッツのような、伝統的にこの産業の重要な生産地である州は、ショックの結果、成長が見られた。カリフォルニア全体のGDPは0.66%、雇用は0.27%、また計測されたTFPは0.24%増加する。しかしながら、コンピュータ・エレクトロニクス産業が受けたショックによって、最も成長したのはオレゴンである。オレゴンは同産業において比較的重要な存在であることに加え、カリフォルニアやワシントン(マイクロソフト社の地元)という同産業の主要生産地2州に近接していることによる恩恵を受けている。

特に興味深いことは、同産業の2大生産地(カリフォルニアとマサチューセッツ)の周辺に位置する多くの州において、生産性ショックを受けた結果、産出と雇用においてマイナスの影響が見られる。マサチューセッツに隣接するバーモント、コネチカット、ロードアイランドでは産出量が減少する。カリフォルニアに隣接するネバダでも産出量が減少する。生産性ショックは、コンピュータ・エレクトロニクス産業内でより生産性の高い州により多くの利益をもたらし、他の州から労働者を引き付ける。衰退が見られる州は、同産業を生産における重要な投入先として利用していない隣接州である。

図1:GDPの変化 (%)
図1:GDPの変化 (%)

図2:TFPの変化 (%)
図2:TFPの変化 (%)

図3:雇用の変化 (%)
図3:雇用の変化 (%)

前述の論文"The impact of Regional and Sectoral Productivity Changes on the U.S. Economy" において、私たちは他にもさまざまな反事実的な実験を行った。おそらく、最近実際に起こった経済的ショックによって、実験への関心は左右されるだろう。いずれの実験においても、上述のように、ショックの伝達に経済の空間的特性が重要な役割を果たしていることがわかった。このことは、マクロ的な変動の分析にあたり、地域的な生産要素や空間的な相互作用の重要性を浮き彫りにしている。

今後、このような定量的分析が他の国の事例にも応用されることを期待している。特に興味深いのは日本のケースで、先の震災による津波とその後の混乱からもわかるように、島国なので天候の影響を受けやすい。定量的分析を行うことで、そうした事象が人口移動や生産性、雇用、福祉に与える中期的影響を評価できるだろう。さらに、日本経済がコンピュータ・エレクトロニクスのような部門に集中していることから、上記の分析は特に意義深いといえる。上記の分析は、米国における同産業への生産の集中が、産業ショックに対する実質GDPの高い弾力性につながっていることを示唆している。結局のところ、ある経済への依存の状況は、このような弾力性の大きさによって左右される。ある国の事例から他の国のケースを推定することは困難(あるいは不可能)だということに特に留意すべきである。それぞれの国について精査する必要がある。生産拠点移転の政策や災害復興の取り組み、政府資金による大型インフラプロジェクトの評価は、この分析にかかっている。

本コラムの原文(英語:2014年4月23日掲載)を読む

2014年6月5日掲載
参考文献
  • Acemoglu, D., V. Carvalho, A. Ozdaglar, and A. Tahbaz-Salehi, 2012, "The Network Origins of Aggregate Fluctuations," Econometrica, 80:5, 1977-2016.
  • Caliendo, L., F. Parro, E. ROSSI-HANSBERG, and P. Sarte, 2013, "The Impact of Regional and Sectoral Productivity Changes on the U.S. Economy," Working Paper 13-14, Federal Reserve Bank of Richmond.
  • Gabaix, X., 2011, "The Granular Origins of Aggregate Fluctuations," Econometrica, 79:3, 733-772.
  • Greenwood, J., Z. Hercowitz, and P. Krusell, 1997, "Long-Run Implications of Investment-Specific Technological Change," American Economic Review, 87:3, 342-362.

2014年6月5日掲載

この著者の記事