世界の視点から

所得格差の「怪物」を放ったのは誰か? その原因を探る

Davide FURCERI IMF エコノミスト

Prakash LOUNGANI IMF シニアリソースマネージャー・顧問

過去20年間にわたり、多くの国で所得格差が拡大し、今や歴史的にも高い水準となっている。本稿では、格差拡大の一般的な説明に加え、新たに2つの要因を紹介したい。まず、近年の財政危機後に行われた財政再建は失業を長期化させ、格差拡大につながった可能性がある。持続的な格差拡大を招く2つ目の要因は、資本勘定の自由化である。政策の策定にあたっては、この2つが格差に与える影響を考慮するべきである。

先月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)は、富裕層が所得格差について認識することになった会議として人々の記憶に残るだろう。以前から所得格差の事実についてうっすら気づいていたとしても、格差の度合いには愕然としたようである。

  • 所得格差は史上最高の水準に達している。
  • 2012年には、米国の上位10%の富裕層が富の半分を手にしているが、1920年代以降、冨の集中がこれ程の水準に達したことはない。
  • OECD諸国においては、2010年までの3年間とそれ以前の12年間と比較すると、2010年までの3年間でより格差が大きくなった。

過去20年間、先進国の多くで拡大した格差に輪をかけ、最近の拡大幅はさらに大きくなっている(Levy and Temin 2007, D'Alessio et al. 2013)。

格差拡大の背景に何があるのか?

ここ数十年間の技術変化に伴い、コンピュータや情報技術に習熟した労働者が優位な立場にあるというのが一般的な説明である。さらに、グローバルサプライチェーンの出現により、非熟練の仕事は先進国から消えてしまった。つまり、先進国では熟練労働者への需要が高まり、非熟練労働者と比べて相対的に所得が上昇しているのだ。

われわれの最近の研究の結果、格差拡大の要因はこれ以外に2つあることがわかった。

  • 外資の参入と競争に対して資本市場を開放する、資本勘定の自由化。
  • 財政赤字削減のために政府がとる政策措置。

このような政策措置は経済用語で財政再建と呼ばれ、批判的に「緊縮」政策とも呼ばれる。

痛みを受けるのは誰か

2007~2009年の世界不況後、税収の低下、銀行や企業救済の費用、経済危機発生直後に多くの国で実施された財政刺激策により、先進国の公的債務は大幅に増加した。公的債務の平均的な対GDP比は2007年に70% だったが、2011年には100% にまで上昇、過去50年間で最高水準となった。こうした状況を背景に、近年、多くの政府が財政再建に乗り出した。

このような財政再建策、つまり財政赤字削減のための支出削減と増税の組み合わせは、政府の措置として一般的である。すなわち、財政再建策が格差に与える影響を研究する上で、歴史は素晴らしい指針となる。われわれの研究でサンプルとした先進国17カ国において、過去30年間に財政再建の事例が173件あった。事例全体で見ると、財政再建策によってGDPは平均約1%低下する。

財政赤字削減後に格差が拡大することを示す明らかなエビデンスがある。格差の指標として最も一般的に用いられているジニ係数は、財政再建の2年後に0.3ポイント、8年後には約1ポイント上昇した(図1)。

図1:財政再建策着手後に拡がる格差(財政再建策着手後の時期におけるジニ係数への影響)
図1:財政再建策着手後に拡がる格差
注記:推定値と標準誤差の幅を示す。詳細はBall, Furceri, Leigh, and Loungani (2013) を参照。財政再建の事例についてはGuajardo, Leigh and Pescatori (近刊予定, JEEA)より。

影響は量的に有意である。ジニ係数は0から100までの間の値で計測され、サンプルの平均値は25である。したがって、GDPの1%という平均的な財政再建の場合、ジニ係数は約4%上昇する。

財政再建と格差拡大が同時に起こるとしても、実際には第3の要因が両方の変動の原因となり、以上のような結果をもたらしているという説明もできる。たとえば、不況や景気後退は格差を拡大すると同時に、債務対GDP比の上昇を招き、財政再建に着手する可能性を高めるかもしれない。しかしながら、不況や景気後退の影響を排除した場合でも、財政再建策が格差拡大に及ぼす影響は変わらない。このような結果の頑健性に関する検証に関しては、最近の論文2本に報告されている (Ball, Furceri, Leigh, and Loungani, 2013, Woo, Bova, Kinda, and Zhang, 2013)。

財政再建によって格差を拡大させる経路は多数ある。たとえば財政再建に伴い、社会保障給付や公共部門の賃金・雇用が削減されるケースは多いが、この結果低所得者層に影響が集中する可能性がある。この他に、財政再建が長期失業に及ぼす影響を通じた経路もある。というのも、長期間にわたる失業は収入の著しい損失を伴う可能性が高いからである。われわれの研究の結果、財政再建が長期失業の増加につながることを裏付ける複数のエビデンスが見つかった。財政再建の4年後、長期の失業率は0.5ポイント上昇するが、対照的に短期の失業率への影響は極めて小さい(図2)。

図2:財政再建後に増加する長期失業
図2:財政再建後に増加する長期失業
注記:推定値と標準誤差の幅を示す。詳細はBall, Furceri, Leigh, and Loungani (2013) を参照。財政再建の事例についてはGuajardo, Leigh and Pescatori (近刊予定, JEEA)より。

格差への開放?

IMFの『為替制度と取引規制年報』で示されているように、過去30年間、国際的金融取引に各国が課してきた規制は着実に減少している。同年報に基づいて構築された、資本勘定の開放度を示す指標は着実に上昇しており、つまり、国際取引に関する規制は着実に撤廃されている。

資本勘定の開放度と格差の間の関連を調べるため、資本勘定の開放度指数が大きく変化した事例を調査したが、このような事例は金融部門自由化を目的とした政府の計画的な政策措置である可能性が高い。この基準を用いると、先進国17カ国のサンプルのうち、大規模な資本勘定改革の事例が58件あった。

資本勘定改革の影響を受けて、格差はどうなったのか。ほとんどの場合、資本勘定の自由化後、著しくかつ継続的に格差が拡大した。自由化1年後にジニ係数は約1.5%、5年後には2%、上昇した(図3)。

図3:資本勘定の自由化後、格差は拡大する(資本勘定自由化後の数年間におけるジニ係数への影響)
図3:資本勘定の自由化後、格差は拡大する(資本勘定自由化後の数年間におけるジニ係数への影響)
注記:推定値と標準誤差の幅を示す。詳細はBall, Furceri, Leigh, and Loungani (2013) を参照。

調査結果の頑健性はわれわれの論文中にて十分に実証されている (Furceri, Jaumotte and Loungani 2013)。特に、産出、貿易開放度、政府規模の変化、産業構造の変化、人口動態の変化、製品や労働市場および金融市場に関する規制など、無数にあるその他の格差の決定要因を考慮した場合でも、資本勘定の自由化は格差に影響を及ぼすことがわかった。

資本勘定の自由化に伴って格差が拡大する経路は多数ある。たとえば、自由化された場合、財政的に厳しい企業は海外から資金を調達できるようになる。資本と熟練労働者に対する補完性がより高ければ、自由化によって熟練労働者への相対的な需要が高まり、所得格差がさらに拡大する。実際、国外からの資金調達への依存度が高く、資本と熟練労働者の補完性が高い産業ほど、自由化が賃金格差に及ぼす影響が大きいことが証明された (Larrain 2013)。

政策への教訓

以上の結果は、各国は資本勘定の自由化や財政再建を行うべきでないということを意味しているのではない。結局のところ、そのような政策措置は気まぐれにとられているのではなく、経済に利益をもたらすという評価を反映しているのである。資本勘定の自由化によって国内企業は海外資本プールを利用できるようになり、特に海外直接投資を通じ、これに伴って技術にアクセスできるようになるケースも多い。さらに、国内の預金者は国外の資産に投資できるようになる。適切に管理されれば、このような機会の拡大は有益である。同様に財政再建の目的は、一般に、政府債務をより安全な水準まで削減することである。債務削減によって金利が下がり、経済の活性化につながり、やがて債務の利払い負担が軽くなれば政府は減税できるようになる。

しかしながら、多くの政府にとって格差の拡大が懸念材料である場合、自由化のメリットと所得再分配効果を比較検討することも重要である。政府によっては、所得再分配効果を認識し、分配上の影響を是正できるように政策措置を設計するだろう。たとえば、累進課税強化や社会的弱者対象の社会保障給付を維持することで、財政再建策が格差拡大に及ぼす影響を和らげることができるだろう。また、低中所得労働者向けの教育訓練を促進することにより、政府は長期的な格差拡大の影響力を緩和することができるだろう。

本稿は、2014年2月13日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2014年3月6日掲載)を読む

2014年3月14日掲載
参考文献
  • Ball, Laurence, Davide Furceri, Daniel Leigh and Prakash Loungani (2013), "The Distributional Effects of Fiscal Consolidation," IMF Working Paper 13/151 (Washington: International Monetary Fund).
  • D'Alessio, Giovanni, Romina Gambacorta, Giuseppe Ilardi (2013), "Are Germans poorer than other Europeans? The principal Eurozone differences in wealth and income", VoxEU.org, 24 May.
  • Furceri, Davide, Florence Jaumotte and Prakash Loungani (2013), "The Distributional Effects of Capital Account Liberalization," forthcoming IMF Working Paper (Washington: International Monetary Fund).
  • Larrain, Mauricio (2013), "Capital Account Liberalization and Wage Inequality," Columbia Business School Working Paper (June).
  • Levy, Frank and Peter Temin (2007), "Inequality and institutions in 20th century America", VoxEU.org, 15 June.
  • Woo, Bova, Kinda and Zhang (2013), "Distributional Effects of Fiscal Consolidation and the Role of Fiscal Policy: What Do the Data Say?" IMF Working Paper 13/195 (Washington: International Monetary Fund, September).

2014年3月14日掲載

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