世界の視点から

対外債権国、対内債務国の日本:この状況は持続可能か?

Rolf J. LANGHAMMER キール世界経済研究所教授

日本はこれまで長い間、世界有数の対外債権国(経常収支黒字ベース)であると同時に、自国民に対しては世界最大の債務国(一般政府総債務残高の対GDP比約220%、という記録的な高さ)であった。2011年に日本の貿易収支は、1980年以来、初の赤字に転落した。東日本大震災の発生に伴う、福島第一原子力発電所の事故によって国際的なサプライチェーンが一時的に混乱したうえに円高も進行し、輸出が減少する一方、燃料の輸入が増加したことによる。2012年も貿易収支が黒字に転じたり、国内の債務状況が目に見えて改善するとは考えにくい。

日本の貿易収支の悪化を一時的な現象とする旨もある。原発事故などの外的ショックと、円の「キャリートレード」活用による円高圧力が重なった結果だという。しかし、この見方は誤解を招きかねない。日本の経常収支の構成とその3要素(貿易・サービス収支、所得収支、経常移転収支)の動きを、10年移動平均を使って長期的に見ると、短期的な変動と言うよりはむしろ、ある傾向が浮かび上がる。この傾向とは、1980年代半ば以降の経常収支構成の著しい変化である(図1参照(注1))。貿易・サービス収支(青色)の比重が低下する一方、所得収支(緑色)の比重が増している。就労者による海外送金以上に、日本から海外への開発援助資金に影響を受ける経常移転収支(赤色)は相対的に比重が低く、ほとんど変化していない。ドイツや米国などの先進諸国と比べると、やや特異なパターンである。ドイツと米国では、貿易・サービス収支は依然としてそれぞれの黒字、赤字の最大要因である。しかし、立地拠点としての国際的競争力を著しく欠くフランスとイタリアでは、日本と似た傾向がみられる。日本の経常収支構成の変化から、以下の所見と疑問点が導き出される。

  • 国内で生み出された付加価値の総額である国内総生産 (GDP) よりも国民総生産(GNP、海外からの純所得受取を含む)のほうが成熟した高齢化社会である日本の経済成長率をより適切に表すようである。
  • 日本はこれまで常に、民間リスク資本(海外直接投資と資産運用投資)の受入国というよりも出し手として重要な役割を果たしてきた。このため、日本の外国人投資家が本国に送金する純投資収益額は、海外の日本人投資家が日本に環流させる純投資収益額をはるかに下回る状態が続いてきた。
  • 日本の経済成長率が1% 前後の「定常状態の成長率」にとどまると仮定し、かつ、政府が巨額の国内債務返済を継続するため、国内の税基盤を拡大する(あるいは今後3年間で消費税率倍増のような税率引き上げ、もしくはその両方)と仮定した場合、日本の民間部門はどういう反応を示すのだろうか? 増税により国内需要が冷え込む、との懸念から国内投資ではなく海外投資を選択するだろうか、そして実際に海外投資を選択した場合、投資収益を引き続き日本に還流させるのか、あるいは投資先国に再投資するのか?

最後の質問の答えは、日本の経常収支黒字を維持する上で最も重要な要素である、所得収支の昨今の動向に左右されるだろう。もちろん、日本国内の資本ストックを再構築するため、海外投資所得の国内への還流を促すような特別な出来事も起こり得る。たとえば1995年の阪神大震災や福島第一原子力発電所の事故である。しかし、このような特別な出来事の有無にかかわらず、リスク資本の国際収益率と日本国内の収益率の差が将来的に拡大し、国内生産拠点の国際競争力を高める円安によっても、その差を十分に(あるいは全く)解消できない可能性がある。問題はこの差が拡大するのか、縮小するのかである。(為替変動調整後の)国内外の収益率の差が拡大すれば、経常収支黒字の継続にはマイナスである。一方、差が縮小すれば、日本人投資家は海外での投資を減らして国内投資に乗り出し、すでに海外で投資をしている投資家は現地への再投資を止め、収益を日本に還流させる可能性が高い。これはもちろん、日本の経常収支にはプラスである。また、外国人投資家も日本への投資とその収益の再投資を増やす方向に動くだろう。これも所得収支を黒字方向に動かす材料である。

国内外の収益率の差が拡大するのか、あるいは縮小するのかは、世界経済の動向と(日本はほとんど影響力を持たない)、日本経済の動向で決まる(日本が改革を進めるか遅らせるかは全面的に日本の責任である。改革が進めば、外国人投資家から見た「魅力的な投資先」上位に食い込める)。

国内外の収益率の差は縮小するという見方:

  • 欧州と米国が財政再建に取り組む間に、中国と韓国の経済成長率が景気循環を超えて減速する。中国では急速な投資主導型成長が終わりを遂げ、より緩やかなイノベーション主導型の成長にとって替わられる。この間に成長は鈍化し、投資のリスク回避傾向が強まり、銀行は無分別な貸出への抵抗を強め、製品イノベーションは後退するだろう。これは国際的な投資収益率の低下につながる。
  • 原発事故を経て日本国内のエネルギー基盤を再構築する必要性に加え、国境を越えた付加価値チェーンを短縮し、製造工程における国内部品比率を引き上げようという、日本企業の決断が最終的に引き金となり、日本人投資家の日本回帰が高まる。日本企業がこのような決断に至るにはさまざまな要因が影響する。たとえば、景気後退期における貿易金融コストの増大、国内の過剰生産能力の増加、アジア近隣諸国との政治的対立によって差別待遇を受けることへの懸念、あるいは名目為替レートに上限を設けたスイス中央銀行の例に倣って円高傾向に歯止めがかかる、などである。

国内外の収益率の差が拡大するという見方:

  • (景気循環の底が続く)日本と景気が回復する諸外国との不均衡。多くの要因が考えられる。たとえば、商品価格の上昇、日本が輸出を得意としていないサービス分野へと世界の需要が構造的にシフトする、あるいは中国が第三国間の調整費用を一部負担し、国際貿易と世界金融構造において「善意の覇者」の役割を引き受ける、などである。
  • 日本以外の国への投資と相対的に比較して、日本企業の改革意志や日本の改革能力に対する信頼が失われている。

以上の2つの見方のうち、どちらが妥当でより現実的なのか、そして公的債務の返済にどのような影響を与えるのか?

個人的には、当面、国内外の収益率の差が縮小するとの見方に説得力があると思う。基本的に日本にとっても、日本政府の公的債務返済能力向上の面でも朗報である。一時的ではあるが、時間的な猶予を得られるからだ。しかし、こういった追い風を受け続けるためには、偶発的であてにできない世界経済の要因がプラスに働いただけ、というのでは心もとない。日本国内の抜本的改革を行い、構造改革を加速させなければならない。差が縮小すると考える理由は、財政再建と低成長の局面が予想より長く続く可能性が高いこと、そして新興国における急成長の終焉である。また、同時に欧州の債務危機は依然として解決せず、米ドルも世界一の国際通貨(中国人民元がその座を奪う状況でなくとも)として生き残れるかどうか懸念される。全体として考えると、このような要因はリスク・プレミアムを引き上げ、国際的な収益率を低下させる可能性がある。

同時に日本では、損なわれた生産能力を再構築し、エネルギー政策を転換し、公共インフラの資本ストックへ再投資することが不可欠になる。このため、日本の投資家にとって、海外で得た投資収益を国内に還流し、国内に投資しようという動機がこれまでより高まる。日本の投資家は、国内の税基盤を拡大させ、民間部門における納税を通じて国内債務の返済に貢献できるだろう。しかし、世界経済からの追い風はあてにならない上に、風向きは変わりやすい。国内政策によってさらに追い風を吹かせる必要がある。日本の経済的利益という基準で、移民政策に関する社会全体の合意を形成し、起業コストの高い現状(注2)是正の戦略などの国内政策が例としてあげられる。いずれも日本国内の大転換が必要である。大転換は困難で時間を要するが、政府はその緊急性を有権者に広く訴えなければならない。歴史を振り返って見ると、平時に大改革を進めるには、現職にあぐらをかくのではなく、次回選挙での落選をも覚悟できる、真の政治家が必要である。さもなければ、日本が経常収支黒字を債務返済にあてようとする際、世界経済の一時的な追い風や猶予を活かせずに終わってしまうだろう。

図:日本 - 経常収支構造(対GDP比)
図:日本 - 経常収支構造(対GDP比)

本コラムの原文(英語:2012年12月3日掲載)を読む

2012年12月17日掲載
脚注
  1. ^ 図はRolf J. Langhammer, "The Importance of Investment Income and Transfers in the Current Account. A New Look on Imbalances," Kiel Policy Brief, No 48, May 2012から引用。
    http://www.ifw-kiel.de/wirtschaftspolitik/politikberatung/kiel-policy-brief/KPB_48.pdf
  2. ^ 世界銀行のDoing Business 2013では、日本は114位。
    http://www.doingbusiness.org/data/exploreeconomies/japan

2012年12月17日掲載

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