第31回──RIETI-CEPRコンファレンス「コーポレートファイナンスとコーポレートガバナンス:日本と欧州の比較」直前企画

日本に最適な企業統治改革を目指して

宮島 英昭 ファカルティフェロー

1990年代後半、マクロ環境の変化と規制緩和・制度改革の急進展の結果、日本企業では、これまで日本型と特徴づけられてきた企業統治構造に大規模な変化を生じつつあります。とくに、株式所有関係が大きく変化する一方、従来の内部昇進者を中心としたボード改革が急速に進み、しかも、近年は、M&Aの増加を背景に、経営支配権市場が形成されつつあります。RIETI-CEPRコンファレンス「コーポレートファイナンスとコーポレートガバナンス:日本と欧州の比較」では、これまで比較的実態の知られることの少ないEU諸国との比較を主題として、日本のコーポレートガバナンスの変化の実態をより的確に理解し、また、今後の改革の方向を検討します。本コーナーでは、シンポジウム開催直前企画として、宮島英昭ファカルティフェローに、日本企業の統治構造の現状、M&Aや事業再組織化の増加は我が国の企業や企業価値にどのような影響を及ぼしているか、本シンポジウムの論点等についてお話を伺いました。

RIETI編集部:
日本企業の統治構造の現状について、また、海外と比較した場合の我が国の特徴や問題点等を教えてください。

宮島:
日本の企業は、これまで、状態依存型ガバナンスあるいは、関係依存型ガバナンスといわれ、メインバンクが中心になる仕組みでした。本来取締役会というのは経営者を監視する仕組みなのですが、実際には日本企業の取締役会は、内部昇進者から構成され、いってみれば、プレイヤーとアンパイヤーが同一という特徴がありました。また、日本企業では株式の相互持ち合いが強く、株式市場の圧力が加わらないため、経営者が自ら、あるいは従業員の利益のみを追求して、株主の利益につながらないような決定をする可能性がありました。しかし、こうした問題には、これまでは、企業の株式を所有し、大きな貸出債権を持つメインバンクが、経営者に規律を加えるという仕組みがワークしていました。

日本企業は、1970年代末から80年代初頭ぐらいまで、こうした仕組みの点で同質的で、それなりにうまく機能していたと考えられます。ただ、その機能がバブルの時期に転換し、むしろ経営者が適切な行動から逸脱し、過剰投資や、必要な事業再組織化の遅れを引き起こしました。そして、90年代後半に入ると、そうした問題を背景にして、仕組み自体が大きく変化し始めたわけです。

では、どういうふうに変化しているかというと、まず、メインバンクの影響力が後退しました。メインバンクの力が弱まっているという意味は2つあって、1つは、企業自身が資金調達を銀行に依存しなくなり、企業に対してメインバンクの影響力がなくなるというものです。もう1つは、企業の銀行に対する依存度は、実は90年代になると一部の企業では上昇しているのですが、銀行がその企業に対してコミットし過ぎていて、経営を適切に矯正できなくなるというような問題があります。特に銀行が不良債権で苦しむようになり、問題のある企業を整理しようとすると、自分の不良債権がさらに目立ってしまうので、なかなか有効な再編政策のイニシアティブがとれないというような弊害が起きました。そういう意味で、メインバンクによる経営の規律が後退したというのが1点目です。

第2に、株式の相互持ち合いが問題点を生みました。それは、持ち合いが株式市場からの圧力を遮断する仕組みとして機能し、経営者の適切な行動からの逸脱を生み出したからです。それを背景にして、株式所有構造の変化が大いに進展しているというのが統治構造の変化の2番目です。90年代後半から、持ち合いの解消が急速に進展しており、かつてと違い、日本企業の多くの企業で外国人投資家が、あるいは機関投資家の保有比率が増えているという状況が発生しています。

3番目の大きな変化は、さっき言ったプレイヤーとアンパイヤーが同一であるという取締役会の仕組みです。こうした仕組みは、経営の監視にとっていかにも不適切で、国際的な標準に合致しない。だから、所有と経営、あるいは経営と監督を明確に分離しようという動きが97年ぐらいから出てきました。執行役員制が導入され、最近では、商法改正を背景に、企業が法的にも委員会等設置会社に移行して、経営と監督の分離を明確にしようという動きになっています。

また、かつて日本の企業は、経営者が従業員の代表という側面が非常に強かった。経営者に余り従業員とかけ離れた報酬を与えると、従業員の働くインセンティブに悪影響を与えると判断されて、なかなか経営者にインセンティブを使った報酬体系は入れられなかったのですが、近年、ストックオプション等が導入され始めて、一部の企業では変わり始めています。

というわけで、もともと非常に同質的であり、日本型といわれたような企業の特徴というものが今大きく音を立てて変わってきています。

ただ、ここで強調しておきたいのは、今言ったような変化が、日本の上場企業の全てで、均等に発生しているわけではないことです。たとえば、日本企業の所有構造は大きく変化していると申し上げましたが、実態は、必ずしも平均的に変化しているのではありません。外国人投資家が急速に増加し、資金調達をほぼ完全に市場(社債)に依存している企業群が出現する一方で、実は相対的に持ち合いを維持し、依然銀行に依存している企業が相当数存在します。また、取締役改革などをみても、自社の事業ポートフォリオや、組織に整合的に、取締役会や報酬体系を見直す企業がある一方で、実は余り改革が進んでないという企業も多い。このように両方に大きく分かれているのが97年の銀行危機から、最近までの大きな変化だと見ています。そして、特に問題なのは、この後者の企業群で、これら企業こそが、いわゆる企業改革とかコーポレート・ガバナンス改革の真の対象です。ただ、これらの企業では、マーケットの圧力が依然充分に加わらない仕組みになっていますから、こうした企業群の改革をいかに進めるかが重要な問題だと認識しています。

RIETI編集部:
M&A、事業再組織化の増加は我が国の企業や企業価値にどのような影響を及ぼしているのでしょうか?

宮島:
今言った改革が遅い企業群は、事業ポートフォリオの面から見ると、過剰な設備、雇用、負債を抱えている可能性の高い企業群、言い換えると、事業再組織化(リストラクチュアリング)が必要な企業群であるわけです。リストラが遅れているからこそ、企業価値が余り上がらず、株価が上がらないためにマーケットでの資金調達が難しいし、外国人投資家の投資先になりません。また、このようにマーケットからの圧力が加わらないから、改革が遅れ、リストラが進まないといった悪循環に陥っています。

このような企業群の改革、あるいは事業ポートフォリオの再編成が、1990年代に入ってずっと望まれており、02年を境に、進展し始めたわけですが、依然として不十分な面があります。M&Aは、こうした必要とされる事業再組織化、リストラの非常に重要な手段と考えられるわけです。直接投資でルノーが日産の株式を所有して、ルノーのイニシアティブで事業再組織化が進んでいる例、あるいは外資系の金融機関が破綻に陥った日本の銀行の経営に当たって、新たなノウハウを注入して企業価値を上げたというのはよく知られた事例です。そういう意味で、M&Aというのは企業価値に対してはポジティブな影響を及ぼしていると考えられるわけです。

それから、もう1つはこれはM&Aだけではないですけれども、広くいえばマーケットの圧力、狭くいえば最近問題になっている敵対的買収の脅威とか、実際に2000年ぐらいから東京スタイル等で起きたような大株主による株主提案等が企業の財務政策に変更を迫っています。たとえば、「あなたの企業はキャッシュがいっぱいありますね。しかしビジネスチャンスがないから投資先がありません。そのキャッシュというのは無駄に使われていますから、株主に還元してください」というような提案をするわけです。

そのことによって、今まで配当成功が非常に低い、株主に対して利益を還元していなかったような企業の財務政策というものがここ数年ではっきり変わりつつあります。これもM&Aだけの効果とはいえないですが、日本全体がマーケットの中に深く組み込まれていくことによって、生じた2つ目の大きな変化ではないでしょうか。

RIETI編集部:
M&A、事業再組織化の増加は我が国の企業統治構造の進化にどのような影響を与えているのでしょうか?

宮島:
一言で言えば、M&Aは、日本企業のコーポレート・ガバナンスに組み込まれていきつつあるということでしょう。今までの日本企業の統治行動の中心がメインバンクだったとすれば、メインバンクは明らかに後退して、それに代わってマーケットのプレッシャーとか、マーケットによる規律が働いてきて、敵対的買収を含めたM&Aが重要な役割を演じ始めています。ですから、日本でのマーケット・フォー・コーポレート・コントロール(経営権をめぐる市場)というのが次第に形成されつつあるし、機能し始めているという側面があります。

しかし、先ほどの統治構造の分化を強調した議論との関係でいくと、日本企業の間には、銀行との関係が依然非常に強いとか、持ち合いでマーケットの圧力を遮断している企業が存在し、この仕組みが必要なM&Aを通じた事業再組織化を妨げている可能性もあります。

RIETI編集部:
日本経済の活性化に有効な事業再組織化、M&Aを促進するために、行政ができることは何でしょうか? 我が国はポイズンピルや株式相互持ち合いなどに関して、どのような法整備をすべきなのでしょうか?

宮島:
この点は、コンファランスでも議論となると思いますが、大きな制度設計の問題としては、M&Aや、敵対的買収に関する世界各国の法的枠組みは、今後、世界標準、たとえば、米国型に収斂していくのか、それとも各国の多様性を維持していくのかという点に関する、展望と日本自体の戦略を検討することが不可欠です。これを前提として、具体的に見ますと、さしあたり3つぐらい問題を指摘できます。

1つはM&Aの促進ですね。企業のリストラ、あるいは事業ポートフォリオの再編の一環としてM&Aを使うということに関しては、97年ぐらいから持ち株会社の解禁、会社分割制度、株式交換など制度改革が急速に進展し、これを背景に、グループベースの再編成が急速に進展しました。この変化は、制度改革がM&Aをもたらしたという側面もありますが、グループ経営の面で、機動的なM&Aを必要とするような経済実態の変化が生じて、その結果、M&Aに対して制約的であった制度改革が進展し、結果、M&Aが進展したという関係だろうと思います。この面では、外国企業の買収に関する制度整備を除けば、大体制度改革の方は一服したという感じです。今後はそれをうまく運用してM&Aをさらに進めていくという段階に入っています。

2番目は株式所有構造に対する制度的対応ですね。しばしば日本企業の株式所有構造を特徴付けるといわれる持ち合いは、主として企業・銀行間と、事業法人間の持ち合いからなります。そのうち、銀行と企業の持ち合いに関して、銀行等株式保有制限法という法律が2001年にできまして、一定期間のうちに、銀行の株式保有を自己資本の範囲まで圧縮することを求めました。この法律の効果はかなり大きく、持ち合いの解消に大きく寄与した。持ち合いというのは、銀行が企業の株を持ち、企業が銀行の株を持つという文字どおりの相互関係ですから、銀行が企業の株を売れば、企業の銀行株の売却も一挙に進むという関係があり、効果が大きかったわけです。銀行の株式保有の効果は、われわれの分析も含めて、効率性に対してネガティブ、つまり、銀行の株式保有に基づく影響力は、他の株主の代理人として振舞って、企業経営をきり続けるというより、企業に対して行使して、必要以上にお金を借りさせる、過剰投資をさせる方向に作用した可能性が高いという点で一致していますから、銀行保有株の制限は経済の効率面からも重要な意味を持ったと評価でき、ほぼこの面は峠を越えた感じです。

では、事業法人間の持ち合いはどうするか。実態的には、90年代後半に入っても、事業法人間の株式相互持ち合いは、余り変化していない。また、その機能に関しては、理論的に考えると、2つの可能性があります。1つは企業間の持ち合いも、企業と銀行の持ち合いのように、経営者を外部の市場の圧力から守るように作用して、企業価値に対してはマイナスに作用します。

もう1つは、企業の株式の持ち合いは、持っている方はたとえば親会社であれば、子会社の経営者をそれなりに適切に監視するので、企業価値を上げるとか、取引関係を強化するとか、そういうような形でプラスの効果が作用するというもの。いずれにしても、企業間の株式の相互持ち合いというのは、銀行に比べるとマイナスが少ないのではないか、あるいはプラスがあるのではないかというのが理論的には成り立ちます。われわれの実証研究では企業と銀行の持ち合いの効果は違って、事業法人間の株式相互持ち合いは、企業の企業価値に対しては、プラス、すくなくとも統計的に有意にマイナスではないという結果が得られています。

事業法人間の相互持ち合いに対する行政の姿勢は、いままではニュートラルであったといっていいと思いますが、敵対的買収の問題がクローズアップされてから、企業の対応として持ち合いを強化して敵対的買収を避けようという動きが出てきました。この点は、コンファランスでも議論となると思いますが、今後は、事業法人間の持ち合いに対して、行政がどういう姿勢をとるかが1つの焦点となるかもしれません。

最後の問題は敵対的買収防衛策です。今回のシンポジウムを含めて、現在の重要な政策的争点になっている問題です。最初にお話ししたように、日本の企業の統治構造が急速に分化しているというのが我々の認識です。とくに、日本の上場企業の中には、かつての日本企業の特徴を残しながら、コンプライアンスを低下させている企業があり、この企業にとってM&Aは、必要とされ事業再組織化を促進する非常に重要な再生のツールなのですが、敵対的買収防衛策が強く導入されてしまうと、こうした企業の改革が遅れる可能性があります。

他方、90年代以降、資金調達の変化、株式所有構造の変化に対応して、取締役改革、統治構造の改革を進めている企業があって、そうした企業群は、「敵対的買収に対する最良の対抗策は、企業価値を上げること」と実践している。こうした企業は、敵対的買収を受ける可能性は低いですから、本来、ポイズンピルの導入などであまりばたばたする必要もないわけです。しかし、ここのところの騒ぎでこうした企業群が自分の会社も敵対的買収の対象になるのではないかと不安を感じ、過度な対応をとるということになると、無駄なコストを生む可能性があります。現在の状況はそういう側面も含んでいますから、行政としては明確な敵対的買収防衛策、どこまでが許されて、どこまでが許されないかについて、ルールを示すということが非常に重要で、経済産業省、法務省が共同してガイドラインを公表したというのは、ルールを明確化するという意味で非常に意味があったと思います。

RIETI編集部:
今回のオープンシンポジウムのテーマは、M&Aですがどうのような点が議論されるのでしょうか?

宮島:
大きく言いますと、敵対的買収防衛策に関しては、同じアングロサクソン型といっても、TOBを含めて入り口(買収提案)について強い規制を加えて、防衛策(ポイズンピル)の採用を強く制限するEU型と、入り口の規制は弱くして、株主の利害の保障を条件として、防衛策の広い採用を許す米国型があります。これまで、米国の統治構造と法的規制については、よく知られていましたが、EUについては、知られることが少ない。しかし、日本企業はむしろアメリカ企業よりもヨーロッパ企業に似ている側面があるともいわれています。そこで、今回のシンポジウムでは、ヨーロッパの第一線の研究者をお招きして、EU規制のあり方、それを支えるコーポレート・ガバナンスのタイプ(株式所有形態等)や企業社会のインフラについてお話いただきます。

たとえば、EU企業買収指令の評価と日本へのインプリケーションは何か。成立までのプロセスと政治的な妥協をどう評価するか。ドイツのように全部買付け義務の下での監査役会限りの承認による防衛策の併用は過剰防衛にならないか。などについてのご意見も伺えると思いますし、日本は、イギリス型(EU原則)かアメリカ型(ポイズンピル)のいずれが望ましいのかとといった問題に繋がる議論も期待できると思います。

また、コンファレンスでは、日本の買収防衛策の設計との関連で、具体的には、過剰な防衛策を導入しない、また、企業価値上昇に結びつく「良い買収」であるかを的確に判断していく(被買収側の)取締役、株主の役割をどう考えるか、という問題も重要な論点となると思います。たとえば、ポイズンピルを入れる、ライツプランを導入するといったときに、どのように株主の利益を担保するかが争点になり、株主を代表するような外部取締役が重要となります。ただ、反面、日本の企業の特徴からすると、外部取締役が企業のガバナンス、大きくいうと企業の経営効率に対して有効な役割を演じることが出来るかについて疑問が提示されています。企業の競争力の源泉が生産現場にあるような企業では、生産現場の知識を持たない社外取締役は適切な経営判断が下せない、あるいは適切な経営監視はできません。この議論は、もちろん批判もありますが、もしこの議論が実態的に一定の意味は持つとすれば、社外取締役に大きく依存したような仕組みを日本企業全体に導入するというのは、少し考える必要がある選択肢なのかもしれません。

以上は、一例ですが、今回のオープンシンポジウムでは、敵対的買収防衛策のルールメイキング、つまり、どんなルールが適切か、ルールの整備にあたって何を考慮すべきか、についても、その議論の深化に貢献できればと期待しています。

取材・文/RIETIウェブ編集部 谷本桐子 2005年9月12日

2005年9月12日掲載