東日本大震災が生産活動に与えた影響:事業所の早期回復に与えた要因の分析

執筆者 乾 友彦 (ファカルティフェロー)/枝村 一磨 (科学技術・学術政策研究所)/一宮 央樹 (東京工業大学)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-017
研究プロジェクト 原発事故後の経済状況及び産業構造変化がエネルギー需給に与える影響
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概要

本稿は、経済産業省による「生産動態統計調査」および「企業活動基本調査」の個票データを使用し、東日本大震災が事業所の生産活動の変動に与えた影響および事業所の回復に与えた要因を実証的に分析したものである。分析結果によれば、第1に震災の生産活動の変動への影響は自動車産業においてはリーマンショック時より大きく、半導体産業においてはリーマンショック時より小さいことが分かった。第2に、線形確率モデルにより事業所の早期回復要因を分析したところ、事業所の規模が大きく、労働生産性が高いことに加えて、本社従業員数が多く、キャッシュフローが潤沢であることが早期回復の重要な条件であることが判明した。一方で、規模の小さい事業所や、災害援助法適用地域、特に津波浸水地域に立地する事業所の生産回復は他に比べて遅れていたことが示された。限られたデータによる分析から一般的な政策的含意を得ることには慎重でなければならないが、自然災害による経済への影響を最小限にとどめるためには、災害により物理的被害を受けた事業所のみならず、サプライチェーンの寸断などによる影響が大きいと考えられる中小規模事業所への支援施策が重要であると考えられる。