ノンテクニカルサマリー

東日本大震災が生産活動に与えた影響:事業所の早期回復に与えた要因の分析

執筆者 乾 友彦 (ファカルティフェロー)/枝村 一磨 (科学技術・学術政策研究所)/一宮 央樹 (東京工業大学)
研究プロジェクト 原発事故後の経済状況及び産業構造変化がエネルギー需給に与える影響
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「原発事故後の経済状況及び産業構造変化がエネルギー需給に与える影響」プロジェクト

問題意識

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、日本経済・社会に大きな影響を与えた。2010年1-3月期から2012年10-12月期の2年間における各四半期の実質GDP(2005年基準、93SNA、連鎖方式)による前年比伸び率をみると、2010年各四半期が3%を上回り堅調な成長率を示しているのに対して、2011年1-3月は0.0%、4-6月期は-1.5%、7-9月期は-0.5%、10-12月期は-0.1%と1年にわたって経済成長率は低迷し(2011年実質GDPの成長率は-0.5%)、2012年1-3月期になって成長率が3.5%に回復する。被災4県(岩手、宮城、福島、茨城)のGDPのシェアは日本全体の6%(県民経済計算の名目GDPのシェア)に過ぎないが、3四半期にわたって日本経済全体の生産活動に大きな影響を与えた。

東日本大震災が被災地に加えて非被災地域に立地する事業所の生産活動の回復に与える影響について、経済産業省による「生産動態統計調査」および「企業活動基本調査」の個票データを用いて分析を行った。生産動態統計調査の個票データを用い、日本の製造事業所に関する月レベルの生産、販売、雇用者数のデータを使用することで、被災地、非被災地の両方の事業所の生産回復に事業所、企業の特性(規模、生産性など)がどのように影響したかについて定量的な分析を行った。

結果の概要

2011年3月に発生した東日本大震災が被災地域だけでなく非被災地域に立地する事業所の生産の変動や生産の早期回復に与えた影響について、経済産業省による「生産動態統計調査」および「企業活動基本調査」の個票データを用いて統計分析を行った。震災後9カ月以内(4月〜12月)に生産が過去のトレンド水準に回復した事業所を早期回復事業所として、その事業所の特性を検討した。事業所の立地をコントロールして、事業所や企業の特性が生産回復に与える効果を分析した結果を整理したのが表1である。事業所の規模が大きく、労働生産性が高いことに加えて、本社従業員数が大きく、キャッシュフローが潤沢な企業など、本社機能がしっかりしていることが、早期回復のためには重要な条件であることが判明した。一方、海外に進出して国際的な生産体制を整備している企業は、生産を海外にシフトさせた可能性があり、必ずしも国内の事業所の生産回復には寄与していないことも示唆された。

表1:分析結果のまとめ
事業所の早期回復
事業所特性 事業所が中規模であること +++
事業所が大規模であること +++
事業所の労働生産性 +++
企業特性 本社の従業員数 +++
本社の研究開発集約度
本社の流動資産割合 +++
海外に関連・子会社を持つ会社 ---
注:+++、---は、1%水準で有意、+は10%水準で有意であることを示す。

ポリシーインプリケーション

震災によってサプライチェーンが寸断された際に、本社の体制がしっかりしており、柔軟にサプライチェーンを変更することや、普段からサプライチェーンの多様化、複線化を図ることは、事業所の復興を大きく後押しする可能性がある。ただし、資金制約などによって利用できるリソースが小さい中小企業にとっては、サプライチェーンの迅速な変更や多様化、複線化は実質的に不可能であるものと考えられる。したがって、物理的被害を受けた企業の支援に留まらず、サプライチェーンの寸断によって生産活動に影響を受けたような中小企業を政策的にサポートすることは、自然災害による経済的被害を被災地の内外に拡散することを速やかに抑えることができるものと考えられる。