地域間人口移動に対する地域別政策プライオリティの影響-テキストマイニングによる政策プライオリティの定量的計測-

執筆者 尾崎 雅彦  (上席研究員)
発行日/NO. 2013年11月  13-J-072
研究プロジェクト 地域活性化システムの研究
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概要

地域間人口移動は需要・供給の両面で地域経済(GRP)成長に大きな影響を与える。特に、人口自然動態上の地域差が少なくかつ人口減少局面下にあるわが国においては、 GRPの成長ポテンシャルに決定的な影響を持つ。人口の地域間移動の要因については、古典派モデルが仮定する所得格差などの金銭的要因のほかに、社会・文化環境や自然環境などの非金銭的要因が関係することが多くの実証研究により知られている。しかし、それら多様な要因を表するに妥当な説明変数を得ることは容易ではない。知事演説の内容には、多様な金銭的・非金銭的要因を含む県民の経済的・社会的および文化的地域ニーズとそれらニーズに対する政策プライオリティ(経済的・社会的および文化的地域ニーズへの対応優先順位と強度:以下PP)が反映されており、人口移動元および移動先のPPを定量的に把握することができれば、人口移動を説明する金銭的・非金銭的要因の包括的代理変数として用いることが可能となる。

本稿では、テキストマイニングにより知事演説内容を解析することで地域(都道府県)別PPを計測し、それらが任意の2地域間の人口流動に与える影響を明らかにすることを試みた。具体的には、平成15年から22年までの住民基本台帳データおよび47都道府県知事演説データ等をパネル化し、重力モデルをベースとして、三大都市圏および沖縄県を除く任意の2地域間の人口移動者数と、重力項(2地域の人口および2地域間の距離)、経済項(2地域の所得および失業率)ならびにPP項((1)経済的PP、(2)社会的PPおよび(3)文化的PP)との関係を推計した。その結果、PP項に関しては、 300km超の移動において移動先の経済的・社会的PPおよび100km以内の社会的PPの強さと人口移動者数は有意に正の関係にあり、 また100km超300km以内の移動では移動元の社会的PPの強さは負の関係、さらに300km以内の移動において移動先・移動元双方の文化的PPの強さが正の関係であることが明らかにされた。このことから、地域別政策プライオリティの差異は地域間の人口移動に影響を与え、また政策内容と移動距離によってその影響は異なることが確認された。