米国におけるワーク・ライフ・バランス

執筆者 黒澤 昌子  (政策研究大学院大学)
発行日/NO. 2011年3月  11-J-038
研究プロジェクト ワーク・ライフ・バランス施策の国際比較と日本企業における課題の検討
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概要

最小限ともいえる政府による関与の下で、現時点でも欧州諸国と比較してその導入状況は必ずしも高水準とはいえないが、従業員のみならず企業業績にもよい影響を与える手段として、柔軟な働き方をはじめとするWLBを支援する諸制度や取り組みを自主的に導入する企業が1980年第後半から90年代にかけて増加した。ただし、その配分は管理職・専門職といった高スキルをもつ労働者に限定されていることが多い。スキル偏向型技術進歩やグローバル化に代表される、高スキル労働者に対する需要シフトの下で、高い能力・スキルをもつ女性の多くがフルタイムとしての就業を継続し、以前よりも多くの人的投資が行われ、女性差別への余地が減り、低学歴・低技能の人々との格差が拡大しはじめた80年代以降、高スキル女性に対する柔軟性の提供は、柔軟性なしでは踏み込めなかった管理職や高度専門職への女性の進出を促進した可能性もある。すなわち高スキル労働者に限定的に提供されているWLB支援の誘因は、男女共同参画が本格的に進展したからこそ生じたが、WLB支援によって男女共同参画が一層促進された側面もある。柔軟性は向上しても、高スキルの人々の長時間労働の度合いは、強まる傾向さえみられるが、男女共同参画の進展は、家庭内の性別分業体制のメリットを減らし、WLBは女性だけでなく、長時間労働にさらされる高スキル男女共通の問題となりつつある。