ノンテクニカルサマリー

米国におけるワーク・ライフ・バランス

執筆者 黒澤 昌子 (政策研究大学院大学)
研究プロジェクト ワーク・ライフ・バランス施策の国際比較と日本企業における課題の検討
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

米国では、最小限ともいえる政府による関与の下で、現時点でも欧州諸国と比較してその導入状況は必ずしも高水準とはいえないが、従業員のみならず企業業績にもよい影響を与える手段として、柔軟な働き方をはじめとするWLBを支援する諸制度や取り組みを自主的に導入する企業が1990年代に急増した(図表1)。ただし、その配分は管理職・専門職といった高スキルをもつ労働者に限定されていることが多い(図表2)。本稿では、米国における企業のWLB支援を男女共同参画との関連で考察し、高スキル労働者に限定的に提供されているWLB支援の誘因は、男女共同参画が本格的に進展したからこそ生じたが、WLB支援によって男女共同参画が一層促進されてきたことをさまざまな統計および文献から明らかにした。

米国の経験は、日本が企業の自発的な選択に任せる形でのWLB支援の充実を目指すのであれば、まずは企業にWLB支援を導入する誘因をもたせる必要があること、そしてそのためには日本においても女性の本格的活用を進め、均等処遇を達成することが不可欠であることを物語っている。均等処遇を実現し、優秀な女性労働者を本格的に活用している企業が競争力をより発揮できるようなルールの整備も重要であろう。

また、まだ数は多いとはいえないが、米国においてもWLB支援を一部の従業員に限定することなく提供し、企業経営の向上につなげている先駆的企業も存在している。とくに、柔軟な働き方のメニューを従業員の「ほぼ全員」に対して提供している企業比率が、財政力の低い中小企業においても大企業と同程度みられるという観察事実は、一部の従業員に限定することなく柔軟な働き方を提供することが、経済合理性にかなうことの査証でもある。そうした企業におけるWLB支援導入のノウハウ、とくにWLB支援をいかに組織内の他の制度や慣習に対して整合的に企業戦略の一環として組み込むかについて、他の企業にも広く普及させることが肝要であろう。企業におけるWLB支援が企業業績に良い影響を与えるための条件についての研究をサポートし、その結果を広く公開・普及させることも重要である。こうした活動は、米国ではFWIやSloan財団などのNPO団体が担っているが、我が国では政策的対応も望まれる。

図表1:米国におけるフルタイム給与取得者に占めるフレックス・スケジュール適用者比率の推移
図表1:米国におけるフルタイム給与取得者に占めるフレックス・スケジュール適用者比率の推移

図表2:米国におけるフルタイム給与取得者に占めるフレックス・スケジュール適用者比率:
男女別、職業別、2004年

図表2:米国におけるフルタイム給与取得者に占めるフレックス・スケジュール適用者比率:男女別、職業別、2004年