ワーク・ライフ・バランス実現への課題:国際比較調査からの示唆

執筆者 武石 惠美子  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2011年1月  11-P-004
研究プロジェクト ワーク・ライフ・バランス施策の国際比較と日本企業における課題の検討
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概要

本稿では、我が国のワーク・ライフ・バランス(WLB)の現状および課題を、「働き方」の視点からとらえ、企業のWLB施策の実施、職場マネジメントと関係づけて分析を行った。働き方の柔軟化を進める欧州諸国との比較検討を行うこととし、具体的には、イギリス、オランダ、スウェーデンの3カ国を比較国として選定した。WLBの議論を整理した上で、3カ国と日本の働き方を比較した結果、日本は労働時間が長い層への分布が多く、その男女間の格差が大きいこと、労働時間や就業場所の柔軟性が低い実態が明らかになった。こうした働き方の実態が、企業のWLB施策の実施や職場マネジメントとどのように関連しているのかについて分析を行った結果、企業レベルでは休業制度や短時間勤務制度などの制度導入を重視する傾向があるが、従業員サイドから見ると制度以上に職場の上司のマネジメントや互いに助けあう風土などが重要であることが明らかになった。従業員のWLB実現という観点から分析を進めた結果、仕事量が多いことが一律に個人のWLBの実現を阻害するわけではなく、自律的に働くことのできる柔軟性が確保されることで、WLBへの満足度や職場のパフォーマンスを高めることが示唆されている。特に日本では、職場のマネジメントを担う管理職層の労働時間が一般社員に比べてかなり長い点に問題があり、労働時間管理の適用外である管理職であっても、その働き方をモニタリングすることは重要な課題と考える。イギリスの企業の事例においても、企業の制度以上にinformalな対応の重要性が繰り返し指摘されており、これまで企業レベルで進められてきたWLBの取組を職場レベルで展開するための対応を進めることが重要である。そのためには、企業が取り組むWLB施策を人事戦略の中に明確に位置づけ、その上で職場レベルでの取組を推進することが必要となる。