ノンテクニカルサマリー

ミンサー型賃金関数の日本の労働市場への適用

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

この論文では労働者の賃金が学歴や学卒からの年数によってどのように決定されているかを推定した。この賃金構造の推定は賃金決定に果たす人的資本の役割を推測するうえで重要である。推定に用いたデータは、厚生労働省が各事業所に備え付けられている賃金台帳より毎年労働者をランダムサンプリングすることによって作成する賃金構造基本統計調査のミクロデータである。2005年から2008年のデータを合わせることでおおよそ240万労働者のデータを得ることができた。また、我が国の賃金構造を米国の賃金構造と比較するために、Current Population Survey January Supplementの2005年から2008年にかけてのミクロデータを用いて、米国の賃金構造も推定した。フルタイムで働く男性労働者を対象に推定を行ったところ、以下のグラフに示すような日米の賃金構造の差が発見された。

図:賃金-潜在経験年数プロファイル

このグラフが示すように日本でも米国でも大卒者は高卒者よりも高い時間当たり賃金を得ている。また、高卒者にせよ大卒者にせよ、潜在経験年数(=学卒からの年数)に伴う賃金の上昇幅は日本の労働者のほうが大きい。とくに米国の労働者の賃金の伸びが潜在経験年数15年前後で止まるのに対して、日本の労働者のものは大卒者については20年程度、高卒者については30年程度伸び続けるのは特筆すべきことである。日本の労働者の潜在経験年数の増加に伴う賃金上昇はいくつかの観点により説明することができるが、仕事をしながらの技能蓄積とそれに伴う賃金上昇という説明は無視しえないであろう。

この日米の賃金構造の違いは両国の労働市場の違いを示唆している。労働の再配分に伴う生産性の上昇という考え方が、主に米国の実証分析の結果に基づいてなされることもあるが、この賃金プロファイルの形状の違いに代表されるような日米の労働市場の違いと労働者の技能蓄積様態の違いには十分な注意を払う必要がある。