著者からひとこと

交通インフラとガバナンスの経済学

著者による紹介文(本書「はしがき」より)

空港、港湾、道路といった交通インフラの実態やガバナンス構造を明らかにし、望ましい行政組織のあり方を問う

2009年9月、民主党を中心とした新政権が発足した。デフレと莫大な借金を抱える日本経済の立て直しは、簡単な道筋ではない。効率的で効果的な財政運営が求められる。長年続いてきた自民党政権で改革できなかった非効率組織・システムの改革こそが、新政権でもっとも期待されるものである。2009年11月と2010年5~6月に行われた「事業仕分け」(行政刷新会議)には、筆者も仕分け人として参加したが、非効率組織・システムの改革を行おうとしている意欲は実感できた。

このような流れ・意識の中で、本書は、筆者の前著『行政組織とガバナンスの経済学』で行った分析をさらに深化させ、新たな分野において、ここ数年、筆者が行ってきた効率的で効果的な行政組織ガバナンスの研究をまとめたものである。

具体的には、行政における非効率性、それを生み出す行政組織体系、その組織を温存するガバナンス・システムの不備を洗い出し、望ましいガバナンスのあり方を検討するというものである。近年、建設後、半世紀を経たインフラ資産も多くなってきており、厳しい財政状況を考えると、戦略的な整備はもちろんのこと、戦略的な運営・維持補修の視点も含める形への変革期を迎えているといえる。インフラ部門の効率的・効果的な整備・管理・運営の必要性がよりいっそう増してきている。このような動機から、ここ数年は、特に地方のインフラに興味を抱き、そのインフラのガバナンス(建設・運営制度の戦略的設計:インセンティブ契約の設計)のあり方に関する研究を進めてきた。その制度設計としては、所有形態(国、地方、民)、責任・役割分担(国、地方、運営主体)、財務・運営の透明性確保 (情報公開)など制度整備を通じた監視・説明責任体制のあり方に注目した研究を心がけた。

分析の進め方としては、年度ごとに研究対象テーマ(空港・港湾・道路など)を定め、研究プロジェクトを立ち上げたり、参画したりするなどして研究を行ってきた。研究においては、事例なども含めて細かく分析する方法をとった。必要時には、数多く現地に赴いて関係者にインタビューも行った。データによる実態把握とともに、現地の関係者の考え方、背後にある環境などを知ることも大変重要であるとの認識を改めて得られた研究であった。現実には、一般的なデータに反映されていない実態も多くあり、その実態を反映する客観的データを入手、構築することも重要である。

また、本書における分析の何よりの特徴は、これまでまったく用いられていなかった数多くのデータ(特別会計データ、チャーター便データ、空港ターミナルビル・データ、港湾リードタイム・データ、港湾管理者財政データ、道路の将来収支データなど)を発掘し、その実態に迫ったことである。今後も、分野ごとに、実態把握と問題点の抽出を通じて、望ましい行政組織の姿を問うことにしたい。

本書の校正段階において、空港に関しては、空港ごとにばらばらである空港関連企業(空港ビル・駐車場)と空港の経営一体化に向けた議論(2010年5月17日「国土交通省成長戦略」)が始まっている。また、港湾については、「国際コンテナ戦略港湾」の選定の最終段階(2010年6月14日「第6回選定委員会」開催)となるとともに、「特定重要港湾23港を除く103港を精査し、投資を続ける港を今夏までに約40港に絞り込む方針」(『日本経済新聞』2010年6月9日付)も伝えられているなど、集中整備、連携・広域・一体による効率化に向けた議論が高まっている。これらの議論は、いずれも、研究結果をもとに本書で提言してきた内容の方向と一致するものである。本書が今後の政策議論の活性化の一助となり、効率的・効果的な整備・運営のガバナンス・システムが構築されることを期待する。

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