ブレイン・ストーミング最前線 (2008年7月号)

ライトレールの導入によるコンパクトなまちづくり

森 雅志 富山市長

富山市の現状

富山市は市街地の人口密度が全国県庁所在都市で最も低く、人口が中心部(駅周辺部)から郊外へと拡散しているため、全国の地方都市の中でも典型的なクルマ型地域社会となっています。地形は平坦、道路整備率も日本一で渋滞も殆ど無く、クルマさえあれば大変住みやすい地域です。

一方で公共交通は非常に厳しい状況にあります。特に、最も身近な交通手段である路線バスの利用者は過去15年間で67%減少しました。しかし、高校生や高齢者、あるいは1台しか車を所有しない世帯等、クルマに頼れない人が実際には多くいます。そうした意味での交通弱者が約3割にも上ることが調査で判明しました。今の富山市は、この3割の交通弱者にとって極めて住みにくい都市構造になっているのです。

コンパクト化事業の概要

まず、富山市には複数の鉄軌道があって、それらがすべて富山駅に結接していることに着目しました。沿線の各駅周辺部の住民を増やし、かつ、鉄軌道の質を高めれば、将来クルマに頼れなくなる世代も都市の利便性を享受できるのではないかと考えました。

そこで公共交通を軸とした、コンパクトなまちづくりを目指すことにしました。公共交通軸を再構築することで、クルマに頼らない、暮らしやすい都市を実現できないかと考えたのです。

鉄軌道6路線とバス13路線(1日60本以上運行)を「質の高い公共交通軸」と位置付け、その強化に取り組むと同時に、駅から500メートル、バス停から300メートルの範囲を居住推奨地区と指定し、そこに住んでもらうためのさまざまな補助制度(借上市営住宅制度、住宅ローン援助制度等)を展開しています。そうして、公共交通軸沿線人口の割合を現在の約3割から20年後には約4割にまで引き上げることを目的としています。

そのために富山市では、(1)居住推奨地区への移住誘致、(2)駅・バス停の増設による居住推奨地区の拡大という、2つのアプローチをとっています。

JR富山港線路面電車化事業

そのリーディングプロジェクトとなったのが、富山ライトレールによるJR富山港線路面電車化事業です。JR西日本が同路線を平成18年2月末に廃止する決定をしたため、富山市がその経営を引き継ぐことになりました。常識的にはバスが代替交通手段となり得ますが、公共交通軸を重視したまちづくりの観点から、市が中心の第三セクター(富山ライトレール)による運行を考え付きました。そこで特筆すべきは、本事業が最初から公設民営であった点です。

富山ライトレールの資本金は4億9800万円ですが、民間企業からの積極的な資金協力のおかげで、市・県からの出資は半分以下で済みました。建設費、関連事業費(駅前広場、駐輪場の整備)、施設の維持・管理費は公費で賄う一方で、運営そのものは富山ライトレールが運賃収入(補助金無し)で行う体制としています。

実際の運行では、列車本数の増便、利用料金の差別化、ICカードの導入等によって利用客の利便性を高めると同時に、バリアフリーの低床車両を導入しました。その結果、1日平均利用者数はJR西日本時代の約2200人から約4800人(平成19年現在)に増えました。利用者の以前の利用交通手段を見ますと、バスとマイカーからシフトした人がそれぞれ13%と11%となっていて、大きな環境負荷低減となっていることがわかります。さらに目を引くのが「新規」(以前は殆ど外出しなかった人)の20%です。世代別では50歳代以上の利用者が大きく伸びています。

JR高山本線活性化社会実験と路面電車環状線化事業

次に第2弾として、JR高山本線の運行頻度改善に取り組むこととしました。富山市が電車をチャーターして、1時間に少なくとも1本の運行頻度で走らせる実験を1年半したところ、富山駅から越中八尾駅までの乗降客数が6.8%伸びました。しかし、この先の部分は別の施策もあって8.6%減少したため、今年3月からは富山駅―越中八尾駅間のみ特別に30分1本のダイヤで運行することにしました。富山市が年間1億5000万円負担していますが、利用者増加分の運賃は運営者(JR)から市に返還される仕組みとなっていて、利用者が1.5倍になればすべて回収される計算です。この取り組みを今後3年間は続けたいと思います。

さらに第3弾として、南富山駅から富山駅経由で富山大学にいたる市内電車の環状線化(延伸)事業を進めています。将来、新幹線が整備され、富山駅発の在来線を含めた高架工事が終わると、ライトレールと既存の市電とが地表レベルでつながる計画です。この環状線から歩いていける範囲内に公共投資を重点的にすることが、これからの人口減少・超高齢化社会を見据えたまちづくりの完成型だと考えています。

中心市街地活性化基本計画

中心市街地活性化基本計画は、(1)公共交通の利用者を1.3倍に増やす、(2)中心商店街の歩行者を1.3倍に増やす、(3)都心居住者を1.1倍に増やす、の三本柱を今後5年間の目標としています。中でも最大の柱が(1)で、この2年間で工事を完成させる計画です。(2)に関しては、市内唯一のデパートのリニューアルに合わせて、市電、ライトレール、コミュニティバスを3日間無料にしたところ、市電の利用者は11.5倍増となりました。市電を無料で走らせるとそれだけ歩行者が増え、商店街が活性化すると思われますが、1店舗につき1万円の負担に200店舗が賛同すれば、1日の運賃収入に相当する100万円を市電業者に毎日補助できます。(3)に関しては、中心部の良質な集合住宅ないし一戸建て住宅の建設者や購入者に対する補助制度を3年前から実施しています。

さらに「おでかけ定期券」を65歳以上の住民に発行して、中心市街地へのバス料金を一律100円に割引する制度を導入しました。中心商店街への誘致が第1の目的です。現在、要介護認定をもらっていない高齢者8万2000人のうち29%がこの定期券を使っています。同時に、高齢者に対し1回限りですが、公共交通利用券(2万円相当)を支給する代わり、運転免許の返納を昨年から呼びかけたところ、最初の年に540人と予想の10倍以上もの人が返納を申し出ました(平成18年4月1日から平成20年2月末までの実績は860人)。高齢者が加害者となってしまう交通事故が急増していますが、公共交通が完備された地域についてはこういった施策で背中を押すと意外に効果があることがわかりました。

将来に向けた視点

以上、ライトレール整備、高山本線の増発、市電の延伸・サークル化、さらには全般的な公共交通の利便性向上に順次取り組むことで、人々を中心市街地に誘致する考えです。しかし、同時に過疎地への配慮も必要です。多方面かつ総合的な施策を通じて、20年後の公共交通の便利な地域の沿線人口割合を現在の3割から4割に引き上げたい考えです。

質疑応答

Q:

LRT事業を他の都市で実施する場合、どういった点で調整や理解が必要となるのでしょうか。

A:

住民の理解を得るのが一番難しい課題です。たとえば、ある商店街の真ん中に電車を走らせる場合、商業者の見方は、「お客さんが増えるので歓迎する」という見方と、「クルマでの買い物がしにくくなる」、「歩行者が横断できなくなるのでお客さんが減る」という見方に別れます。何よりも、車線を減らして電車を導入することについて一般ドライバーの理解を得るのは困難です。そこをどう説得するかが鍵となります。もちろん事業費(財源)の捻出も課題です。

※本稿は4月10日に開催されたセミナーの内容に一部加筆したものです。
掲載されている内容の引用・転載を禁じます。(文責・RIETI編集部)

2008年7月23日掲載

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