ブレイン・ストーミング最前線 (2004年10月号)

中国のエネルギー・環境問題

李志東
長岡技術科学大学経営情報系助教授

中国は2003年までの23年間でGDP規模を8倍に拡大したが、エネルギー純輸入問題、環境汚染と生態破壊問題、二酸化炭素(CO2)排出量急増問題を引き起こしてきた。中国政府は2020年までに経済規模を2000年の4倍にする目標を立てているが、それに伴ってエネルギー安全保障問題、国内環境と地域環境問題、地球温暖化問題がさらに深刻化するおそれがある。

中国の経済、エネルギー、環境の現状

中国では80年代から高度経済成長が始まり、今現在も継続している。今年の経済成長率は上半期で9.7%、年間を通しても9%以上と予測されている。日本が戦後復興を経て50年代半ばから高度経済成長期に入り、第1次石油危機まで継続したのと比べて、中国は約30年遅れていると言える。中国および日本の経済発展の要因は、技術進歩の影響が非常に大きい。今後中国で経済発展が維持できるか否かは、技術進歩の可能性に掛かっていると言える。高度経済成長の結果、国民は豊かになり中国の国際的プレゼンスも高くなったが、マイナスの側面としては所得格差の拡大があると言われている。しかしこの格差は都市住民の収入と農村住民の収入がともに上昇する、つまり収入の底上げの過程で生じたもので、農村住民の収入が低下したわけではない。ある意味では、これは経済が発展する段階で生ずる必要悪の1つであろう。ただ、所得格差を放置すると、大きな社会問題になりかねない。この点については、中国共産党中央も中国政府もすでに認識しており、真剣に取り組み始めている。今後の政策運営でこの収入格差を縮小していくことが課題である。

エネルギー需給については、1980年と比較して経済規模は8倍になっているが、エネルギー消費量は3.3倍程度で、省エネルギーが寄与しているといえる。しかしながら3.3倍という数字は、年平均伸び率にするとかなり高い数値である。その結果、2001年現在、中国のエネルギー消費は世界全体の10%を占め、アメリカに次ぐ世界第2位、生産量では世界全体の10%を占め、アメリカ、ロシアに次ぐ世界第3位の需給大国となった。ただし、需給バランスを見ると、アメリカは純輸入大国、ロシアは純輸出大国、中国は1997年以降純輸入国に転落している。エネルギー源としては、石炭は資源が豊富にあるので純輸出、天然ガスは自給自足の状態で、石油は1993年以降純輸入の状態となった。2003年の石油純輸入量は1.04億トンで、石油輸入の拡大のペースが非常に速い。この背景には、石油需要の急増がある。最大の要因は自動車の普及で、1980年と比べると、2002年の自動車の保有台数は12倍になっており、必然的に石油の需要を押し上げる結果となった。1990年から2000年までの10年間で中国の石油需要は約1.1億トン増加しているが、その25%は自動車の増加に起因している。

エネルギー消費量は世界第2位であるが、人口が多いため、1人当たりの消費水準で計算すると約0.7トン/年であり、日本の4トン/年、アメリカの8トン/年と比べてまだまだ少ない。これはさらに需要が増加する可能性があるということを意味している。一方で、中国のエネルギー利用効率をGDP原単位(購買力平価換算)や物量ベースで見てみると、先進国の6~8割程度と非常に非効率である。先進国のようなエネルギー利用効率の高い技術が中国で普及すれば、2~4割の省エネルギーが可能だということになる。この他に、石炭中心の需給構造にもかかわらず石炭クリーン利用技術の開発と普及が遅れていること、天然ガス、再生可能エネルギー開発利用の遅れなどの特徴も挙げられる。最近は電力供給不足が深刻で、約3分の2の行政区で停電や電力不足が発生している。このように多くの問題を抱える中でも、石油を中心とするエネルギー安全保障問題は、現在の中国の最重要課題である。これは過去に経験が無い上、石油輸入量の拡大があまりにも急激で、エネルギー安全保障問題への総合対策体制ができていないからである。

環境問題については、1979年に高度経済成長が始まると同時に環境保護法を作って対策を取ってきたが、残念ながら環境は悪化の一途を辿っており、全体的な改善は見られない。都市部において、大気環境が国の基準を達成しているのは40%程度、酸性雨は30%以上の国土面積において確認されており、酸性雨の原因物質である窒素酸化物や硫黄酸化物などが、風に流されて日本や朝鮮半島などで影響を及ぼしているとも言われている。その他にはCO2排出量の急増(世界の14%を占める)、水質汚染の深刻化(7大水系の7割が重度汚染)、水不足(400都市以上で渇水状態)、砂漠化の進行、砂嵐・黄砂による環境汚染等が挙げられ、中国の環境汚染は既に危機的状態にあると言える。

経済の中長期的展望

経済については楽観的な見通しが多く、中国政府は2020年までに経済規模を現在の4倍にする目標を立てている。伸び率では年7.2%以上となる。中国政府だけでなく、中国関連の研究機関や国際機関の予想でもほとんどが7%以上となっている。中国の経済成長に関しては色々な研究があるが、どういう根拠に基づきどんな姿を描いているのか、さらにそのような経済成長が実現した場合、どのようなエネルギー問題や環境問題が発生するのかについての詰めが必ずしも厳密ではない。そこで我々はマクロ経済、エネルギー、環境のモデルを開発し、整合的に中国の将来展望を考えてみた。

マクロ経済については、今後30年間の経済成長率が標準ケースで6.6%、高成長ケースでプラス1パーセント・ポイント、低成長ケースでマイナス1.5パーセント・ポイントである。実現可能性では標準ケースが60%、高成長ケースが30%であるが、低成長ケースは10%しかないと考えている。今後30年間は7%程度の経済成長が続くというのが最もあり得る経済の姿だ。成長を支える要因としては、技術進歩の役割がますます大きくなっていくと考えられる。現在の中国の技術レベルが低いということは、経済成長にとってはプラスの意味を持っている。新しい技術を導入する潜在力が高いということになるからだ。
産業構造では、第1次産業が低下し第3次産業が増加、第2次産業はほぼ現状維持と思われる。中国では今年の3月頃まで次々と鉄鋼やセメントの設備増設計画を発表しており、個人的には小さいバブル状態だったと認識している。長期的には鉄鋼やセメントなどの生産量は2000年の生産量の約2倍、エチレンの生産量は約5倍になると見込まれる。

高度経済成長と人口政策が持続しているので、1人当たりの所得水準が急速に伸びることが予想され、購買力平価で評価して現在は4000ドル程度だが、2030年には1万5000ドル程度になると見込まれる。所得が増えると自動車の普及率が上がることは国際経験から分かっており、2003年の中国の自動車保有台数は2400万台であるが、2020年には1億2000万台、2030年には2億4000万台程度となる可能性が高い。

2030年の中国のエネルギー、環境の試算

エネルギー需給に関する影響要因として重要なのは、マクロ経済の動向とエネルギー政策である。我々の標準ケース試算は、過去の変化傾向と中国政府が計画した対策などが基本的に維持されるという前提に基づいている。すなわち、エネルギー利用効率が上がり、省エネルギー率は今後30年間年率2.5%ずつ進み、再生可能エネルギー技術が開発され、石炭は自給自足、原油産出量は2020年をピークに減産し、天然ガスの利用が増え、原子力利用が徐々に拡大し2020年で32基3000万kwくらいになる、ということである。原子力利用については国産化が実現したこと、また、電力不足、環境保護といった要因が追い風になると考えられるが、制約要因としては、電力自由化が実現するとコストの高い原子力発電に誰が手を出すのかという問題と、原子力発電で生じる使用済み核燃料や廃棄物などの後処理(バックエンド)問題が挙げられる。

こういった前提条件の下、エネルギー需要はどうなるか。2030年にはおそらく現在の3倍に増えて30億トン程度になる見通しである。2000年のアメリカと日本を合わせた消費量が28.3億トンなので、2030年の中国のエネルギー消費量は相当大きなものになると言える。我々のこの見通しは、中国国務院発展研究センターが昨年11月に発表した研究報告内容と比べてほとんど同じ結果である。一方、国際エネルギー機関(IEA)の研究結果は2030年で22億トン、我々の研究結果とは8億トンの差があるが、GDP弾性値では両者は0.6前後でほとんど同じであることから、エネルギー需要の差は経済成長率の予測の差であると言える(今後30年間の我々の年平均成長率は標準ケースで6.6%であるのに対しIEAは4.8%)。

エネルギー消費の全体量は大きいが、人口が多いため、1人当たりのエネルギー消費量にすると2030年の時点でも現在のOECD平均の半分以下でしかない。エネルギー構造としては、今後30年間は石炭中心の構造に変化は無いが、割合としては現在の7割前後から5割程度に下がると予想される。石炭の比率が下がる分、石油や天然ガスなどの他のエネルギーの割合が増えるだろう。

石炭は資源があるので自給自足が可能で、現在は8000万トン程度を海外へ輸出もしているが、生産能力拡大には限界があるため、長期的には輸出余力は無くなってくると予想される。また、中国北部で9割を産出している石炭を需要の集中している沿岸部まで運ぶ輸送力の確保や、経済レベルが上がるに従って環境への配慮という意識が高まることも考えられ、クリーン利用の普及ということも課題になってくるだろう。2003年の石油需要は2.7億トンであったが、2030年になると9.5億トンまで急増し、7.5億トンを海外から輸入することとなり、海外依存度は81%になると予想される。そうなると、そのような大量の石油が確保できるのかという問題、安全な輸送手段が確保できるのかという問題、さらに外貨負担の問題も出てくる。我々の試算では、2030年では平常時でもエネルギー輸入の外貨負担率は約10%であり、石油価格が上昇したりすれば10%では収まらない。これは、日本の高度経済成長が73年の石油危機で止まったことと同じ事が中国にも起こり得るということで、今からなんらの対策を講ずる必要がある。天然ガスは民生用、発電燃料用を中心に需要が急増、国内供給が追いつかず純輸入国に転ずる可能性が高い。こういった流れに伴って、CO2排出量が急増し、大気汚染の問題が深刻化することが予想される。また、水質汚染や砂漠化、水不足の深刻化、耕地面積の減少と土壌質の退化などにより、食料問題が発生する可能性も拭い切れない。中国は持続可能な発展を目指しているが、今のままではそれは難しいと言わざるを得ない。

持続可能な発展のモデル

持続可能な発展は、中国の自助努力無しには不可能であるが、国際社会に与える影響が大きいため、国際社会の協力も不可欠である。

中国政府は第10次5カ年計画やエネルギー中長期発展計画綱要などでエネルギー、環境対策を執っている。石油の安全保障については、国内の増産と石油調達先の分散化・多元化が進んできているので、これは評価できることである。ただし、石油備蓄制度の創設と石油代替エネルギーについては遅れている。石油備蓄については、目標を立てたばかりでまだ着手できていない。石油代替に関しては、政府は石炭の液化を重視している。その理由として、石炭資源は国内に豊富にあるので、国内で石油を液化すれば経済性があると言われているからである。今年3月に中国石炭科学院のメンバーと意見交換した際も、石炭は安価であるため国内で生産した方が経済性が確保できると思っているようだったが、石炭市場も今後はグローバル化が進み、中国の石炭価格だけが安いという時代では無くなるはずで、そうなると同じ技術であれば経済性は無いという状況になる。また、石炭の90%が分布する中国北部には水資源がほとんど無いが、耕地は全体の60%が北部にあり、穀物の一大生産基地になっている。石炭液化を実施すると、穀物の生産と石炭液化の間で水資源を奪い合うことになりかねないため、石炭液化は時期尚早で個人的には反対である。中国政府はバイオマス系の燃料アルコールの開発にも力を入れているが、食糧問題が将来発生する可能性があるため、中国国内でも反対意見が多い。むしろ、非食料系の燃料エネルギーの開発に力を入れるべきである。

我々の研究で、エネルギー戦略について様々な対策を執った場合のシミュレーションを行った。具体的には省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの拡大、環境税・炭素税導入、石油代替等である。結論として、石油代替の場合、先述の通り石炭を使って液体燃料を作るという内容であるため、水供給や食料生産への影響も出ることが予想され、さらにエネルギーの転換効率も悪い。石油の代わりに天然ガスの利用を拡大することに関しては、自給で賄いきれないガスを海外から購入することとなり、エネルギー安全保障の面で逆効果である。また、環境税のようなもの、例えば炭素税の導入は、石炭の相対価格を引き上げてしまうため、石炭の消費量が抑えられる代わりに石油や天然ガスで代替しなければならなくなり輸入せざるを得なくなるため、これも中国の安全保障にマイナス効果である。

我々の戦略的構想は、中国ではまだ総合的なエネルギー官庁が存在していないので、まずエネルギー省のようなものを立ち上げ、そこで安定供給、環境保全、経済的効率性という目標を達成できるような総合政策を採るということである。安定供給のためには、省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの開発が不可欠である。環境問題の解決の為に安易に環境税・炭素税を導入するということではなく、問題の多くは石炭燃焼に起因するので、石炭のクリーン利用技術の開発と普及に力を入れる。安全保障のキーワードは多様化である。需要対策、供給対策、さらに中国一国だけでなく日本やアジアの国々との同盟・協調、石油輸出国との対話や支援といった環境の整備などの多様な対策を同時に考える必要がある。また、国際協力も中国のエネルギー問題、環境問題、安全保障問題、さらに北東アジアにおける諸問題の効果的解決方法であろう。日本や韓国といった北東アジアの国々も、優先順位は違っても同じ問題に直面している。日本は技術と資金面で比較優位があり、中国は市場容量やコスト競争力や資源などの面で優位性がある。それぞれの比較優位性を生かせるように協調できれば、北東アジア全体の利益になると考えている。

質疑応答

Q:

今後30年間は技術進歩によって中国経済が成長し続けるだろうという見通しは楽観的過ぎるのではないか。例えば資源制約や環境制約から経済成長が制約を受けるといったシナリオも想定できるのでは?

A:

現在の中国の火力発電におけるエネルギー効率は平均で33%、最も優れた技術でも39%だが、日本の平均は40%、最新石炭火力では43%。ここには大きな差があるわけで、今後30年かけてこの差を埋めていくという意味では技術進歩が見込まれ、経済成長の大きな要因となると思う。しかし、資源や環境の制約から経済成長が制約を受ける可能性はあるだろう。この場合、中国は石炭で2000億トン、石油で24億トン、天然ガスで2兆m3の可採埋蔵量を持っているので、国内大増産という運動が起こる可能性があり得る。

Q:

環境問題は中国の行政や社会の中でどう取り扱われているのか。環境問題を調整する役所は、中央や地方でどう動いているのか。行政環境基準や実行力、全体像はどうなっているのか。

A:

環境保護に関する法律は1978年の憲法改正、1979年の環境保護法(試行)の策定を始め徐々に整備されてきているが、実行可能性が低いのは問題である。環境行政にはシステム的な問題がある。中央レベルでは環境保護総局があり、各地方行政区ではそれに対応して環境保護局がある。しかし、地方の環境保護局の予算権と人事権は地方政府が握っており、一般的に地方政府は経済発展を重視しているため環境保護は軽視され、環境保護総局の意向は地方へ伝わらない。つまり法律はあるのに実行体制が無いわけで、今後は整合性のあるシステムを作っていく必要がある。

本意見は個人の意見であり、筆者が所属する組織のものではありません。

※本稿は7月27日に開催されたセミナーの内容に一部加筆したものです。
掲載されている内容の引用・転載を禁じます。(文責・RIETI編集部)

2004年10月8日掲載

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