やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション

第7回 エコシステム見据えた戦略を

元橋 一之 ファカルティフェロー

トヨタ自動車は昨年、燃料電池車関係の特許の無料開放に踏み切りました。燃料電池車が普及するには、部品材料のほか、水素ステーションなど関連設備の技術開発が必要です。これをすべて自前で行うのではなく、より多くの企業が技術開発に参加し、燃料電池車に関するイノベーションを加速することが狙いです。

1つのイノベーションに対する相互補完的な企業の集合体をエコシステム(生態系)と呼びますが、トヨタの特許開放はこのエコシステムの形成を目的としたものと言えます。

オープンイノベーションを進める上でエコシステムを見据えた戦略を立てることが重要になっています。製品技術が複雑化し、専門の部品・材料メーカーと製品・サービスを消費者に提供する企業の分業が進んだことが背景の1つです。

イノベーションにおける科学的知見の重要性が高まったことも影響しています。再現性が高いサイエンスベースの情報は企業を超えて伝わりやすいので、企業内で抱え込まず、協力企業間で共有しながらビジネスにつなげる方が合理的です。企業の利益はエコシステムの大きさとネットワーク内の役割で決まります。

エコシステムにおける役割は、中心的な存在の「キーストーン」と専門的技術を提供する「ニッチプレーヤー」に分類できます。キーストーンの役割は多くのニッチプレーヤーを引き付け、エコシステム全体の広がりを持たせることです。一方、ニッチプレーヤーは独自技術でエコシステムの多様性に貢献します。この相互補完的な関係で、エコシステムは成り立ちます。

例えば、米アップルはスマホ「iPhone」上にアップストアを設けて、消費者の多様なニーズに応えるサービスを展開しています。個々のアプリケーション事業者(ニッチプレーヤー)とアップル(キーストーン)が提供する各種サービスの共通的基盤(プラットフォーム)が組み合わさって、全体としての価値を持つようになります。

様々なエコシステムが生まれ、消滅していく中で、自社の立ち位置を明確化したオープンイノベーション戦略の立案が重要になっているのです。

2016年7月20日 日本経済新聞「やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション」に掲載

2016年8月3日掲載

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