やさしい経済学―経済開放とイノベーション

第3回 国際化企業の強み

八代 尚光
コンサルティングフェロー

グローバル企業はなぜ高いパフォーマンスを維持できるのか。対外直接投資や、製造工程の一部を海外に移転するオフショアリングを通じた国際化の深化が、イノベーションに有利に働く仕組みを解説しよう。

オフショアリングは、輸出から現地生産への切り替えによる輸送費用や関税の回避、労働費用が安価な国への組み立て工程の移転による製造コスト削減の手段とみなされる。だが比較的単純な組み立て工程を海外に移転すれば、日本の本社は新製品開発や高品質部材の生産といった技術・知識集約的な工程に特化することができる。専修大学の伊藤萬里准教授らは経済産業研究所によるアンケートの結果から、オフショアリングを行う企業の研究開発投資・売上高比率がその他の企業のそれに比べ、3.4ポイント高いことを示した。

また厳しいグローバル競争に勝ち抜くには、世界的にみて革新性の高い新技術・製品を開発する必要がある。こうした高度なイノベーションを国内拠点のみで行うのは現実的ではない。世界各地の知識の集積で生み出されるアイデアを現地法人が吸い上げ、本社の研究開発に還元するグローバルイノベーション体制を整備することが、日本企業が世界の技術フロンティアに位置する上で重要だ。

東京大学の戸堂康之教授らは現地法人の基礎研究が日本本社の生産性上昇に寄与すると報告している。これは対外直接投資による海外知識の取得が有効であることを裏付ける。

また成長著しい新興国市場への浸透には、現他市場のニーズや規格を反映した製品開発が必要だが、現地法人は本社から移転された技術を基に現地市場の実態に合った製品を開発する役割を担っていると考えられる。実際、京都大学の若杉隆平教授らは、現地法人の研究開発と日本本社からの技術移転が現地法人の生産性に補完的に寄与することを示した。

現地進出は国際的な認知度やブランドカを高める意義もある。環太平洋経済連携協定(TPP)により米国やシンガポールのような技術先進国など各国への現地進出が円滑になる。TPPは国際化の初期段階にある中堅・中小企業がグローバル企業に発展する機会と考えるべきだろう。

2012年3月30日 日本経済新聞「やさしい経済学―経済開放とイノベーション」に掲載

2012年4月12日掲載

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