やさしい経済学―「真」の貯蓄率と統計のクセ

第5回 財産収入の過小性

宇南山 卓
ファカルティフェロー

家計調査には高額商品の消費が過少となるクセがあった。この過少性を考慮すると、家計調査の貯蓄率はむしろ低すぎることが分かった。その残された謎を解くのが、家計調査の収入項目でのクセである。

収入は源泉別に把握できるが、そのうち先行研究では「財産収入」に過少性の問題があるとしていた。財産収入とは、家計の資産から生み出される利子・配当収入などである。家計調査の貯蓄率は、収入の項目での過少性を調整すると分母・分子とも同じだけ増えて結局上昇するので、これまで貯蓄率の乖離を説明する要因としては無視されてきた。

国民経済計算(SNA)の財産所得を1世帯あたりに直して家計調査の結果と比較すれば、その過少性は明白である。例えば1990年には、日本全体で39兆円の財産収入があった。世帯数は4104万世帯で、1世帯あたり年間約95万円に相当する。しかし、家計調査によれば、わずか3.6万円であった。また世帯当たりの金融資産のデータを用い、これを分母として資産の運用利回りを計算すると、最も高かった1992年ですら0.5%である。同じ時点の郵便局定額貯金の金利が4%、普通預金の金利ですら2%であったことを考えると低すぎる。つまり家計調査には、前回述べた高額商品への支出だけでなく財産収入にも過少となるクセがあるのだ。

財産収入が過少になる理由も、やはり家計の認識だ。日本では、家計の金融資産の約半分は、定期性の預貯金で運用されている。経済学的には、財産収入は預貯金の残高と適用される金利から計算される。しかし、多くの家計は、利子を収入として認識していないと考えられる。特に自動的に更新される定期預金などはその可能性が高いだろう。家計が認識しなければ、家計簿にも記載されない。

財産収入を正確に把握できないというクセは、政策評価の面でも重大な問題である。バブル崩壊後に、ゼロ金利政策などにより、マクロ面で見ると財産収入は大幅に低下した。超低金利政策が家計に与えた影響を分析するには、正確な財産収入のデータが不可欠であり、家計調査の補正が必要である。

平均としての過少性は時系列的には安定しており、補正は簡単である。家計調査とSNAの財産収入の比率が1対15とほぼ一定であることを利用して、可処分所得に占める財産収入の平均の割合がSNAと等しくなるよう、家計調査の財産収入を15倍して貯蓄率を計算した。その結果は次回見ることにする。

2010年8月30日 日本経済新聞「やさしい経済学―『真』の貯蓄率と統計のクセ」に掲載

2010年9月16日掲載

この著者の記事