フューチャーデザインと柳田國男

山下 一仁
上席研究員(特任)

フューチャーデザインとは、将来の世代も現在の政策の利害関係者としてとらえ、持続可能な社会のために必要な政策を作ろうとする試みである。現在の政策は将来世代にも影響を与えるのに、我々は目先の利益に追われて、かれらの声を考慮することがないという問題意識がある。具体的には、数十年先の未来人になり切って未来の状況を想像し、そこから今の政策を検討しようという手法を取る。

既にいくつかの自治体などで取り組まれ、具体的な政策の検討に貢献している。昨年末に我々の研究所の4人は、フューチャーデザインを提唱する西條辰義・京都先端科学大学特任教授、中川善典・上智大学教授の指導を受けながら、30年後の未来人となって今年の主要7カ国(G7)サミットに集まる首脳にメッセージを送った。我々は、かれらが地球公共財の供給のための国際的ガバナンス体制の構築に努めるよう提案した。

100年以上も前、民俗学に転じる前の若き農政学者、柳田國男はこれと同様の発想をした。国家が利益を守るべき人民は今生きている人だけではなく「後世万々年の間に出産すべき国民も国家を構成する」のであり、今の国民の利益は未来の人民にとっての損害とならないようにしなければならないという。現在の世代についても「一部一階級の利害は国の利害とは全く異なる。これは農業政策について特に注意を必要とする」とくぎを刺すことも忘れない。

1970年からの米の減反政策で、我々は350万ヘクタールあった水田のうち100万ヘクタールを失った。農林水産省は水田を畑にして米をさらに減産しようとしている。今の米価を上げるためである。水田がなくなれば、水資源涵養(かんよう)や洪水防止などの国土保全機能は失われる。将来世代はどう思うだろうか。

2023年10月25日 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載

2023年10月31日掲載

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