インダストリー4.0はモノづくりをどう変えるか

第6回 中小企業のビジネスチャンス

岩本 晃一 上席研究員

中小企業にも大きな恩恵

本誌の読者の中にはインダストリー4.0というのは、大企業の話であって、中小企業には関係ないと思い込んでいる人が案外多いのではないかと思うが、実際はそうではない。インダストリー4.0市場は巨大市場に成長することが予想されており、大企業だけでなく中小企業にも大きな恩恵がある。その主な分野は、①大企業が手を出さないニッチ市場、②大企業の外注先、である。

まず、①ニッチ市場では、1)中小企業に低価格で簡易なシステムを生産販売する事業、2)その低価格システムを導入し、新しいサービスを顧客に提供する事業、である。

次に、②大企業の外注先では、1)ネットワークの端末機器すなわちセンサ、ライブカメラ、計測器などビッグデータを収集する機器の生産販売、2)システムに組み込む部品の生産販売、3)ビッグデータ解析の周辺業務、すなわち、ビッグデータ解析の一部の受注、解析ソフトウェアの生産販売、ビッグデータ解析に必要なデータベースの生産販売、ビッグデータ解析用クラウド環境提供サービスなどがある。

それでは以上のケースごとに順に事例を挙げて説明する。

中小企業の意欲的な活用例

1.愛媛県松山市三浦工業のケース
三浦工業は、1959年5月設立、ボイラの生産販売とメンテナンスを行っている。グループ会社は国内6社、海外13社、従業員はグループ全体で4500人(うち海外1106人)である。連結売上高は2012年3月期745.93億円から2015年3月期904.24億円へと平均して毎年7%の伸びを示している。同社は、国内のボイラ市場の40%を占める国内トップ企業である。

同社がここまで成長した要因は大きく2つある。第1は、通常、ボイラといえば大きなボイラを1台購入し、0〜100%の範囲で出力調整するが、三浦工業は小型ボイラを複数台設置し、出力の変化に応じて台数制御することで、約半分の省エネと約半分の設置面積を実現した。第2は、IoT/M2Mやインダストリー4.0などという言葉が出現する遥か以前の1989年から「故障予知」サービスを行っていたことである(図1)。顧客が使用しているボイラに埋め込んだセンサから得られるデータを通信会社の回線を介して収集し、同社のオンラインセンターで職員が画面を見ながら稼働状態を監視し、異常が感知されれば、まずユーザーに電話して対処方法を伝え、それでも無理な場合にはメンテナンス要員が現地に急行する。同社は、日本国内に100カ所のサービス拠点を設置し、サービスエンジニア約100人を擁し、同社が販売した5万2429台(2015年4月末現在)のボイラを「遠隔で状態監視」している。

図1:故障予知サービス
図1:故障予知サービス
(出典)三浦工業の資料から

同社によれば、コマツの社長が同社を訪問し、オンラインセンターを見たとき、「コマツよりもはるか以前から取り組んでいた会社があったとは!」と感嘆したとのこと。

2.山口県岩国市旭酒造のケース
旭酒造はかつて山口県で4位の酒造メーカーであったが、経営が悪化し、杜氏に逃げられた。桜井社長は従来から杜氏が酒造りのノウハウをブラックボックス化していたことに疑問を持っていたため、杜氏がいなくなったのを機に、「理論とデータによるサイエンス」で酒造りをすることにした。すなわち、工場内のあらゆる工程にセンサ、ライブカメラ、計測器を設置してデータを計測し美味しい日本酒ができるとされる理論に忠実に作ったところ、正に美味しい日本酒かできた(写真1)。しかも品質・生産量が一定化し、量産が可能になった。そうしてでき上がった「獺祭」720m1は3万円以上で売られ、2014年に米国オバマ大統領が来日した際に安倍総理がプレゼントしたのも「獺祭」であった。 2014年9月期の売上高は前年比26%増となった。毎年2〜3割のペースで売上高が伸びている。

写真1:旭酒造の工場内の様子
写真1:旭酒造の工場内の様子
(出典)富士通

また、品質の高い日本酒を安定的に供給するためには、原料となる米「山田錦」の安定的な供給が必要となる。そのため、水田のなかにセンサを置き、気温、湿度、土壌温度、土壌水分などを1時間おきに計測し、携帯電話でデータを送信し、「遠隔で状態監視」する(写真2)。もし栄養分が不足していることがわかったら直ちに水田に肥料を撒く。

写真2:水田に設置されているセンサーと発信器
写真2:水田に設置されているセンサーと発信器
(出典)富士通

当地で導入されているシステムの概念図を描くと図2のようになる。本システムを納入したのは大手メーカー2社であるが、中小企業であっても、十分に納入可能な簡易なシステムである。

図2:システム概念図
図2:システム概念図

3.和歌山県和歌山市役所のケース
和歌山市ではイノシシやシカなど獣害に悩まされ2012年の被害額は700万円にのぼった。そこで山中に罠を仕掛けたが、罠は深い山中にあり、すべての罠を見て回るだけでも何日も要する重労働である。罠に入ったイノシシを発見しても死後時間が経過していたら食用として使えない。そこで同市は、NTTPCコミュニケーションズのシステムを導入した。罠の前に棒を立て、棒の先端にセンサを取り付けて、イノシシが罠に入るとセンサが感知してメールを飛ばす。そのメールを受けとった職員が罠にかけつけると肉が新鮮な状態で捕獲できるという極めて単純な仕組みである。

4.兵庫県豊岡市大豊機工のケース
同社は水道メーターを生産販売するメーカーである。最近、水道メーターはマンションの敷地の中や地方では山中の一戸建などにあり、検針して回るのは大変な重労働である。そこで同社は、メーターの中にセンサを組み込んでデータをメールで飛ばす新しい水道メーターを生産販売し始めた。同社の水道メーターを導入した地方自治体では、水道メーターの検針に出かける必要がなくなった。本システムを納入したのもNTTPCコミュニケーションである。

5.ここまでの総括
以上からおわかりのように、インダストリー4.0システムは、単純化して言うなら、「1個のセンサ1個の携帯電話」(図3)から構築可能である。投資額は数十万円程度であろう。このような簡易なシステムであれば、中小企業であっても十分、生産販売することが可能であり、また中小企業が十分導入可能である(図4)。わずかこれだけのことで、企業の売上げが飛躍的に伸びる可能性があることを強調したい。ただし、「1個のセンサと1個の携帯電話」を用いてどのようなサービスを提供するかは、残念ながら各企業が自ら考えなければならない。

図3:1個のセンサと1個の携帯電話
図3:1個のセンサと1個の携帯電話
図4:さまざまな機械にセンサを組み込み、「遠隔で状態監視」できる
図4:隠れたチャンピオンの数
(出典)富士通

6.センサ、ライブカメラ、計測器、部品などを納入するケース
インダストリー4.0が世界に普及しても、日本は部品の販売だけで十分食べていける、という人がいるくらい、同分野は日本の独壇場と言っても過言ではない(表1)。

図表1:電子部品の世界生産額に占める日系の比率(2015年)
電子部品の世界生産額(億円) うち日系(億円) 日系比率(%)
世界計 224,878 84,674 37.7
内訳 受動部品 36,302 18,203 50.1
接続部品 76,869 18,699 24.3
変換部品 29,516 22,363 75.8
その他 82,191 25,409 30.9
(出典)電子情報技術産業協会(JEITA)

また写真3のように、IoTの普及を見越した新たな部品開発が行われており、技術開発への意欲を見て取れる。日刊工業新聞2015年10月6日付には、次のような記事が掲載された(一部要約)。

写真3:アルプス電気が開発したIoTモジュール
写真3:アルプス電気が開発したIoTモジュール

アルプス電、4機能集約-IoTモジュール開発 アルプス電気はIoT向けの製品・サービス開発に役立つ複合部品を製品化し、市場投入する。地磁気など4つのセンサと無線通信部品、電池をモジュール化したのが特徴。部品を個別調達するより設計を大幅に効率化できる。電子技術の知見が少ない異業種やベンチャー企業を含め、IoTビジネスに乗り出す企業が拡大していることに対応した。地磁気、加速度、気圧、温度・湿度センサや近距離無線通信規格「ブルートゥースローエナジー」対応部品、電池を搭載した。合計10種類のデータを取得し活用できる。データをパソコンなどに表示できるソフトウェアも合わせて提供する。価格は1万円前後。直販のほかアルプス電気のオンラインサイトを通じて供給する。IoTビジネスに必要な基本機能がワンパッケージ化しているため、アイデアを形にしやすくロボットや産業機器など既存製品の中にも組み込みやすい。異業種やベンチャー企業に対しては、製品コンセプトに合わせた技術支援も提供する。

ビッグデータ解析の周辺

ビッグデータ解析を行う大企業から、その一部を受注する分野は、中小企業が新たに参入する絶好の分野である。今、検索エンジンで「ビッグデータ」「外注」と打ち込んでみれば数十社の名前がリストアップされる。既に同分野での起業が始まっている。

『機械設計』(日刊工業新聞社)2016年2月号「インダストリー4.0はモノづくりをどう変えるか」に掲載

2016年6月16日掲載

この著者の記事