インダストリー4.0はモノづくりをどう変えるか

第1回 インダストリー4.0が注目を集める理由-序章-

岩本 晃一 上席研究員

最近、色々なところでドイツ第四次産業革命インダストリー4.0を耳にし、世の中で大きな変革が進行しつつあることは何となくわかるものの、そもそもインダストリー4.0とは一体何なのか、インダストリー4.0が導入されれば一体どうなるのか、なぜそれが大きな変革なのか、というもやもやとした気持ちのまま、焦りのようなものを感じてはいるか、どうすればいいかわからず、毎日同じことを繰り返すという日々を送っておられる方々が多いと思う。今回の連載の狙いは、そうした読者のもやもや感に応えることにある。

今回の道載では、技術内容は平易な表現とし、技術以外の分野にも視点を広げてインダストリー4.0を紹介する予定である。

本連載では、若干、相前後するかもしれないが、インダストリー4.0はどのようなシステムなのか、インダストリー4.0を導入すると何がどうなるのか、インダストリー4.0導入に当たっての課題、中小企業への導入、アメリカの動向、日本企業の取り組み、日本のものづくりをどう変えるかなどの点に関し、約1年にわたり解説する予定である。

オフィスヘのパソコン導入との類似性の対比

まずインダストリー4.0を大まかに理解していただくために、オフィスヘのパソコン導入の歴史について振り返り、その類似性と対比したい。

私が社会人になった頃、先輩らからよく聞かされた話では、先輩らが若い頃は、コピーやFAXがなかったため、ゲラ版を刷り、先輩らが直接書類を届けたという。だが私が就職した頃は、電話、コピー、FAXがあったので、それらを職人技で使いこなして仕事をした。やがて職場に大きなオフコンが入った。ワープロソフトはLPレコードくらいの大きさのフロッピーディスクに入っていた。やがてオフコンに替わってパソコンが導入され、しばらくして1人に1台が配られるようになった。その次に起きた変化が、パソコンがインターネットに接続されたことである。パソコンがネットに接続されたとき、それまでとは違った大きな変化が起きた。ガリ版からパソコンに至る変化は、業務に用いる「道具」の変化であり、「業務の効率化」による「生産性の向上」となって現れた。だが、インターネットに接続されたことで、ネット證券、ネット銀行、ネット販売、SNS、検索エンジン、動画、音楽配信など新しいビジネスが次々と産み出され、また端末機器もスマホやタブレットヘと次々と進化し、それが企業の売上げを増やしていった。それらは「ネット革命」と呼ばれ、今やインターネットに多少なりとも関わるビジネスで職を得ている人はおそらく日本国内だけでも数百万人いるだろう(図1)。

図1:オフィスへのパソコン導入の歴史
図1:オフィスへのパソコン導入の歴史

実は、これと同じ変化が工場のなかでも進行している。かつて工業製品は職人が手作業で作る家内制手工業であったが、フォード社が考案したフォード生産方式により流れ作業で大量生産が可能となった。作業員がスパナを待ち、生産ラインに沿って順に並び、自分の担当箇所の作業を行い。次の人に渡した。やがて生産ラインにロボットが導入され、スタンドアローンで使用されるようになった。今、工場の中は、この段階である。そして今、ロボットがインターネットに接続されようとしている。すると、オフィスで起きた「ネット革命」と同じ革命が製造現場でも起きる。スパナからロボット導入に至る変化は、作業に用いる「道具」の変化であり、「作業の効率化」による「生産性の向上」となって現れてきた。ロボットがネットに接続された時点で、さらに効率化され「生産性の向上」が見られるだろう。個々の機械設備が単独で稼働しているスタンドアローンの状態と比べて、ネットワークで接続されれば、全体がシステムとして稼働できるため、単独ではできなかった数多くの新しいことが「自律的」かつ短時間でできるようになり、全体が「最適化」されて「生産性」が大幅に向上するからだ。

だが、それだけでなく、インターネットに接続されたことで新しいビジネスが生まれる。現在想定されている新しいビジネスは、センサによるデータ収集とビッグデータ解析によるサービス提供である。だがパソコンがインターネットに接続されたとき想定された新しいビジネスは、電子メールとホームページの2種類でしかなかったが、今では、アプリ次第で無限のビジネスが生まれる可能性がある。それと同様、工場内のロボットがインターネットに接続されたことで産み出される新しいビジネスは、アプリ次第で無限の可能性がある。おそらく、企業にとって大きな利益をもたらすのは、「作業の効率化」よりむしろ「新しいビジネス」の方ではないかと思っている(図2)。

図2:工場へのロボット導入の歴史と今後の発展
図2:工場へのロボット導入の歴史と今後の発展

新しく創出される市場

工場のネット化から新しく生まれる市場は巨大である。例えば、インターネットに接続される機械設備やデータを収集する製品(例えば自動車)に搭載される基本ソフトウェア(OS)が、仮にアンドロイドになったとしよう。アンドロイドが世界中の機械設備や自動車に搭載されることになる。今スタンドアローン型で使われている機械設備が、インターネットに接続できる機械設備に新しく買い換えられる。工場にファクトリーオートメーションが導入される。またデータを収集するためのデータセンターが建設され、ビッグデータを分析するさまざまなビジネスも生まれる。世界中のすべての自動車に100個のセンサが搭載されて無線で送信されればその市場も巨大である。通信回線は、より大容量・高速の回線に置きかえられる。このように現在の知見に基づき少し考えただけでも、巨大な市場がそこに存在していることがわかる。

後で紹介予定の日本企業へのインタビューでは、こうしたネット革命の大きな波は、自社にとって大きなチャンスであるとの認識が表明された。これから生まれるであろう巨大な市場の恩恵を受けられるという確かな予感があるからだ。ただ、困難なハードルを超え、市場の恩恵を享受できる日本企業はそう多くないと予想される。試練を乗り越えられない日本企業は、淘汰されていくかもしれない。厳しいかもしれないが、今、私たちが迎えつつある新しい時代の波は、それほど大きな波なのである。だからこそ、人々は改革(Reform)ではなく革命(Revolution)と呼んでいる。

生産性の向上

後に掲載する予定だが、生産性の向上について日本の各企業は、「濡れ雑巾を相当絞ってきた当社モデル工場で生産性が+20%上昇した実例が出ている。じゃぶじゃぶな工場であれば、もっと生産性は向上するだろう」「ロボットセル生産システムでは面積生産性を従来比で3倍近く高める」とインタビューに答えている。そうすると、インダストリー4.0を導入した企業とそうでない企業との勝負は明らかである。

米国では、1991年3月から2001年3月までの10年間、景気拡大の時期が続き、「ニューエコノミー」と呼ばれた。その景気拡大の要因は、1980年代後半から続いたIT化投資により、生産性が高まったためである。特に、1995〜99年は約2.5%の生産性の伸びが計測され、2.5%のうち2.3%がIT化要因であった(図3、図4)。

図3:アメリカにおけるパソコン及びインターネットの普及率
図3:アメリカにおけるパソコン及びインターネットの普及率
(出所)ITU Yearbook of Statics 2000, Chronological Line Series 1989-1999, OECD Database
(出典)平成12年度世界経済白書,経済企画庁
図4 アメリカの労働生産性の要因分解
労働生産性の伸び IT関連以外の
資本装備率要因
IT化要因 その他の要因
80〜94年 1.6% 0.4% 1.5% -0.3%
95〜99年 2.5% -0.1% 2.3% 0.3%
(出典)平成12年度世界経済白書,経済企画庁

ハノーバーメッセ2015で開かれた第9回日独経済フォーラム(2015年4月15日)において、ドイツ連邦政府経済エネルギー省ウーヴェ・ベックマイヤー政務次官は、「デジタル化経済がメガトレンドとなる中、ドイツの国内企業も多くの課題を抱えている。調査によると95%の企業がデジタル化の影響を受けると回答しているにもかかわらず、自社が十分に備えていると回答した企業は3%に過ぎなかった。これらを解決する必要があった」「ICTおよびデジタル化の力を活用し産業を強くすることを目指した一連のプログラムにより、ドイツではバリューチェーン全体の効率を高め5年間で18%の労働生産性向上を目指す」「インダストリー4.0を含めたスマートファクトリーやスマートホームなどさまざまな新たなビジネスチャンスを創出する。関連する取組みにより経済付加価値は2025年までに4250億ユーロを生み出す」「ドイツ企業は積極的な投資を行っており、5年間にドイツ企業の売上高の3.3%をこの領域に投資する。これは現在決まっている設備投資予算の50%以上に上る」との試算を公表している。

第四次産業革命とは

ドイツがいう第1、2、3、4の産業革命とは、
<第一次産業革命>;18世紀末、水力や蒸気機関を利用した動力機関を用いて、それまで人間の力だけによって製造が行われていた工場内に動力機械が導入された。
<第二次産業革命>;20世紀初頭、動力源は電力になり、フォード型生産方式が導入されて、ベルトコンベアによる流れ作業で、同一の品質の同一の工業製品の大量生産が可能になった。
<第三次産業革命>;1970年代に入ると、工場の生産ラインには、ロボット、工作機械などの製造設備が導入されて人間に取って代わり、厳しい現場産業が力強い動力を待った疲れない機械に置き換わっていった。
<第四次産業革命>;21世紀になるとインターネットが整備され、工場内の機械もネットに接続され、ネットワーク化が完成する。第四次産業革命は、製造現場にモノとサービスのインターネット(Internet of Things and Services) が導入されることで出現した。インダストリー4.0が導入されたシステムでは、機械や記憶装置をスマート化し、それぞれが自律的に制御された製造装置が、自動的に情報を交換し、自動的に稼働する。製造される製品もスマート化され、製造の過去の経歴や現在の状態、最終的に完成品に至るまでの製造ルートが自動的に認識される。

工場のネット化に対する呼び方

工場のネット化という大きな波は、世界中に同時に押し寄せている。それをドイツ人はインダストリー4.0と呼んでいるに過ぎず、他の国、地域、企業、人は、モノのインターネット(IoT: Internet of Thing)の製造業への適用、スマート工場(Smart Factory)、スマート製造業(Smart Manufacturing)、スマート生産(Smart Production)、デジタル製造業(Digital Production)、デジタル工場(Digital Factory)、先進的製造業(Advanced Manufacturing)などと呼んでいる。また、「モノのインターネット」(IoT: Internet of Thing)を用いずに「すべてのインターネット」(IoE: Internet of Everything)、「第三次IT革命」という表現を用いている人もいる。

インダストリー4.0という呼び方を評するならば、技術は連続的に発展し、3.0と4.0の段差はなく、「.0」という小数点以下もほとんど意味がない。ただ、工場のネット化という大きな動きを総称し、インダストリー4.0というキャッチコピーを当てることで、新しい先進的な取組みであるというイメージを世の中にアピールすることに成功している。こうした広報戦略は、新興国に向けたドイツ製機械の売上げを増やすという効果ももたらしているようだ。一方、真面目な日本人は、技術力ではドイツと肩を並べていながら、かっこいいキャッチコピーを産み出しておらず、世界に向けたアピール力で劣っている。

インダストリー4.0の定義と特徴

インダストリー4.0とは、世界中の工場内の機械設備および製品をスマート化し、それらをインターネットに接続し、すべての機械設備、製品および人間との間で、いつでも、どこでも、誰とでもコミュニケーションできるネットワーク・システムである。だが、ネットワーク・システムだけでは何も機能を発揮しない。そこに各種のアプリケーションソフトを搭載することで、無数ともいえる機能を発揮することができる。インダストリー4.0の勝負の鍵は正にそこにある。

そのなかでも、特にインダストリー4.0を特徴付ける機能は、「柔軟性」「自律性」「最適化」「生産性」の4つである。これら4つの言葉を使って、インダストリー4.0が、従来の生産方式と決定的に異なる点を説明すると以下のようになる。
1. いかなる指示にも応える「柔軟性」を有する。
2. 機械が「自律的」に判断し、実行する。
3. 機械は、コスト、時間、エネルギーなどを「最適化」するよう行動する。
4. その結果、飛躍的な「生産性」の向上が可能になる。

『機械設計』(日刊工業新聞社)2015年9月号「インダストリー4.0はモノづくりをどう変えるか」に掲載

2016年6月13日掲載

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