北海道地震、熱エネルギー伝達が原因との見方も…来年前半に首都圏直下型地震発生の予測

藤 和彦
上席研究員

2月21日午後9時20分過ぎ、北海道胆振地方で直下型地震(マグニチュード5.8、最大震度6弱)が発生した。北海道で震度6以上の揺れを観測したのは昨年9月6日の北海道胆振東部地震(マグニチュード6.7、最大震度7)以来である。想定外の地震発生で虚を突かれた気象庁は、今回の震源が昨年9月の震源とほぼ同じだったことから「一連の活動と考えられる」と苦しまぎれな説明を行ったが、日本の地震学者は地震発生のメカニズムを本当に理解しているのだろうか。

1995年の阪神淡路大震災から現在まで「プレート」境界面で大地震が発生していないからことから、筆者は「プレートテクトニクス説(以下「プレート説)」に疑問を持ち始めている。そこで本稿ではプレート説に代わる「熱移送説(角田文雄埼玉大学名誉教授が提唱)」を紹介したい。

熱移送説をかいつまんで説明すると以下のとおりである。

(1)熱移送説で主役を務めるのは、「プレートの移動」ではなく「熱エネルギーの伝達」である。その大本のエネルギーは、地球の地核から高温の熱の通り道に沿って地球の表層に運ばれ、表層を移動する先々で火山や地震の活動を起こす。
(2)熱エネルギーの表層での出口の一つは南太平洋(ニュージーランドからソロモン諸島にかけての海域)に存在し、南太平洋から出てきた熱エネルギーはPJ(インドネシアからフィリピンに向かい台湾を経由して九州へ)とMJ(フィリピンから伊豆諸島を経由して首都圏へ)という2つのルートで日本に到達する。
(3)熱エネルギーが伝わると熱のたまり場では噴火が起き、地盤に「問題」がある地点では地震が発生する。熱エネルギーの速度が一定であることから、火山の噴火から地震発生の予兆を捉えることが原理的に可能である。

以上が熱移送説の概略だが、昨年9月の北海道胆振東部地震について角田氏は「北海道は2つのルートで移送される熱エネルギーが合流する地域の一つであり、大雪山系のマグマ活動が活発だったことから移送される熱エネルギーの量が増大していたのだろう」と説明していたが、今回の地震についても「大雪山系のマグマ活動が引き続き活発であり、前回と同様のメカニズムで地震が発生した」としている。

熱エネルギーの移送は継続

しかし、火山活動の活発化は大雪山系にとどまらない。日本各地で火山活動が活発化しており、角田氏は「九州に達するPJルートのほうが首都圏に達するMJルートよりも熱エネルギーの移送が活発である」と考えている。

PJルート上では昨年6月に大阪府北部を震源とするマグニチュード6.1(最大震度6弱)の直下型地震が発生したが、角田氏は「台湾から九州に達した熱エネルギーが熊本地震を引き起こした後に大阪府北部に到達した」と解説した上で「熱エネルギーはさらに日本海側に移動する」と予測している。

角田氏が注目しているのは、新潟県南部に位置する新潟焼山と富山県の立山のマグマ活動が活発なことである。当該地域では2007年3月に能登半島地震(マグニチュード6.9、最大震度6強)、同年7月に新潟県中越沖地震(マグニチュード6.8、最大震度6強)が発生しているが、熱エネルギーの移送の状況によっては今年上半期に直下型地震が再び発生する可能性がある。

首都圏に達するMJルートのほうも安泰というわけではない。角田氏は2017年後半に「2018年上半期に首都圏で直下型地震が起きる可能性がある」と警告を発していた。

その根拠は2013年の西之島(東京の南約1000km、MJルート上に位置する)の大噴火である。西之島の大噴火を引き起こした熱エネルギーは、その後2014年10月に伊豆諸島の八丈島(東京の南287kmに位置する)の東方沖でマグニチュード5.9の地震が発生させるなど、日本列島に向かって北上していると想定していたからである。

北上した熱エネルギーは首都圏直下ではなく千葉県東方沖で2018年7月にマグニチュード6.0(最大震度5弱)の地震を発生させたが、幸いなことに首都圏に大きな被害をもたらすことはなかった。

だが西之島ではその後も2015年や2017年に噴火が起きていることから、熱エネルギーの移送は続いている。このため角田氏は「2020年前半に再び首都圏で地震(マグニチュード6クラス)が発生する可能性がある」と予測しているが、次に起こる地震の震源が首都圏直下であれば甚大な被害が生ずる可能性がある。

熱移送説の元になる理論(熱機関説)は、すでに1960年代後半日本の地震学会で定説になりつつあったが、1969年に米国でプレート説が発表されると日本の研究者はたちまちこの理論の虜になり、日本全体がプレート一色となってしまったという経緯がある。

大規模地震の発生を予測することで世の中を騒がせるつもりは毛頭ないが、「日本の学者が熱移送説を顧みる日が一日も早く来てほしい」との願いから、拙稿をしたためた次第である。

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2019年2月22日 Business Journalに掲載

2019年3月1日掲載

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