政治献金再考

CURTIS, Gerald RIETIファカルティフェロー

日本経団連は、経済界の政治資金のまとめ役としての立場を再生する方向に動いている。経済界が提言する政策がなかなか実現されないという欲求不満があり、「そうなら意見だけでなくて、お金という力を使うべきだ」という意見が浮上したわけだ。

今度は、日本経団連が、企業のお金を政党に割り振るのではなく、政党の政策を評価して、それに基づき資金の斡旋をするというやり方を検討しているようだ。

経済界が、望ましいと思われる政策を実現するために、政治を動かそうとするのはどの民主主義国にもあることだ。英国もドイツも経済界の政治献金の上限を設けていない。米国は建前として企業の政治献金を禁止しているが、経済界はあの手この手を使って、ばく大な献金をしているのが現実だ。しかし、企業献金そのものがよいかどうかという議論をする前に、今の日本の政治構造からして、日本経団連がやろうとしている献金の斡旋活動に効き目があるだろうかという問題が先だ。

昔は、経団連の会長が「財界の総理」といわれ、経団連の少人数のリーダーたちが、経済界全体を代表して政治に影響力を行使した。しかし、経済が発展し、企業社会の価値観および利益が多様化して、昔のように経済界全体に共通する目標と利益が少なくなった。約10年前に経団連が政治献金の斡旋をやめた理由は、こうした多様化する企業社会の変化にあったわけだ。

日本経団連が政党の政策を評価しても、選挙に直面する政治家にとっては、経団連の評価よりも選挙民の評価のほうが当然、はるかに重要である。自民党がWTO(世界貿易機関)の交渉で、農産物の自由化を支持したら、日本経団連には評価されるが、自由化に猛反対している農業に携わる人たちを大切な支持基盤としている自民党の国会議員が、その政策を支持するはずはない。日本経団連はそれよりも、衆議院選挙における一票の格差を無くすように要請すべきだ。

政治との関係において、日本経団連が次の3つのことを考えたらどうだろうか。まず、経済界が日本にとって必要と思う政策について、独自のキャンペーンを行うことだ。テレビ広告を出したり、全国で講演会を開いたりして、国民に理解を求め、政治家に圧力をかける。米国でいう「政策宣伝」(issue advertising)である。

次に、政策提言ができる有力な民間シンクタンクを作ることである。日本経団連に属するシンクタンクに大金を投じて優秀なスタッフを集めれば、大きな影響力を発揮できると思う。日本は政府から完全に独立した政策提言を目標にしているシンクタンクがほとんど存在してない。政策を官僚に依存しないほうがいいというならば、こういうことに力を入れることは効果的だと思う。

3つ目は、政治資金の透明性を向上させることだ。米国でも英国でも政治資金について調べようと思えば、驚くほどの情報をインターネットで検索できる。特に米国の場合、政治献金の見張り役として、さまざまなNPO(民間非営利団体)が存在している。そういうNPOの日本版を日本経団連が支援することも一考に値する。

以前、経団連が斡旋した献金は1年に100億円に上っていた。最近の日本経団連関係企業の献金は合計20億円といわれる。その代わり、300億円以上の政府の政党助成金がある。日本経団連の斡旋によって政治献金が多少増えても、そのウエートは昔とは比較にならないほど小さくなっている。さまざまな理由があって、政治献金の斡旋でもって、政治を思われているほど動かせないのが事実である。いまの時代に経済界が政治に影響を与えるために、政治献金と違う新しい発想が必要だと思う。

2003年9月7日 東京新聞「時代を読む」に掲載

2003年9月10日掲載

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